The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD27] メタ認知能力を育成する試み(5)

ノートに記述された「頭の中の先生」の言葉への評価・賞賛を中心に

吉野巌1, 風間晶子#2, 島貫靜3 (1.北海道教育大学, 2.北海道教育大学, 3.札幌市立東苗穂小学校)

Keywords:メタ認知, 介入授業, ノート指導

 著者らは,メタ認知の存在を子どもに直接教授し意識させること(メタ認知の意識づけ),算数の問題をメタ認知的思考をしながら解く練習(メタ認知訓練)を通して,メタ認知ひいては問題解決能力の育成を目指した実践研究を行ってきた。吉野・島貫 (2015) では,漫才やビデオ教材などによるメタ認知の意識づけの強化,ノート指導におけるメタ認知的思考訓練の強化を図った結果,問題解決得点やメタ認知得点が上昇した。一方で,児童がノートに記述するメタ認知的思考が形式化・固定化するという問題点もあった。そこで本研究では,理想的な「頭の中の先生」の言葉を教師側から提示することはできるだけ避け,「オリジナルノートを作ろう」という目標の下に,児童が自分なりに考えてノートに書いた記述を評価・賞賛することにより,型にはまらない応用可能なメタ認知の育成を目指す。
方   法
 対象者 公立小学校5学年2クラス65名(実験群33名,統制群32名)。事前調査→「分数の大きさ」単元の授業(実験群は介入授業,統制群は通常授業)→事後調査の順で行った。
 材料 ①事前・事後調査課題:いずれも過剰情報を含む算数文章題で,問題理解,立式計算,解答の段階毎に問に答えるものである(問題解決得点:11点満点)。また,解決中のメタ認知的思考の程度を調べるため,各段階でなぜそのように考えたかなどを記述させた(メタ認知得点:11点満点)。②参考ノート例:オリエンテーション授業で頭の中の先生の言葉を含むオリジナルノートの作り方を理解してもらうために,参考にしてほしいノート記述例4つを作成・配布した。右側に「頭の中の先生」記述欄を設けてあり,問題を読んだ時や立式段階で注意・思考したこと(の例)が記述されている。③ノート通信・掲示物:介入授業で児童が記述したノートの中から良いものを数例選び,そのコピーに良い所を賞賛するコメントを入れてプリントや掲示物としてまとめたもの。児童の賞賛と他の児童の模倣を狙ったものであり,介入期間中に3回作成した。
 介入授業 介入授業は第3著者(一部第2著者)が行った。①オリエンテーション授業(1時間):メタ認知の存在を理解させ,意識づけるための授業である。メタ認知を類推的に理解させるため,教育実習経験のある大学生2名が漫才の実演を行い,「ボケ」が自分で「ツッコミ」が頭の中の先生であることを説明した。次に,参考ノート例を配布し,真似したい所,良い所を見つける活動と全体交流を行った。②介入授業(10時間):ノートの右側に頭の中の先生の言葉を書く欄を設けさせ,問題を解きながら頭の中の先生の言葉を書くよう指導した。問題解決中は授業者がメタ認知的思考を促す机間指導を行い,全体交流では解き方と頭の中の先生の言葉を児童に発表させた。授業後にはノートを回収し,第2著者が評価コメントを書いて返却すると共に,1週間に1度,児童の良いノート記述例をノート通信と掲示物に掲載した。なお,介入時期に各単元で扱う問題や授業時数は両群で同一であった。
結果と考察
 事前・事後調査の問題解決及びメタ認知得点に加え,ノート冒頭得点(介入授業の最初に行った文章題に対する得点)及びノート末尾得点(最後の文章題に対する得点)各15点満点(板書以外のオリジナルの記述があるか,頭の中の先生の言葉が書けているか)を分析対象とした。事前・事後調査の問題解決得点とメタ認知得点について群×時期の2要因分散分析を行った結果,群間差は有意ではなかったが,時期の主効果が問題解決得点で有意(F(1,63)=25.4, p<.001),メタ認知得点で有意傾向(F(1,63)=3.1, p<.10)となり,事後調査の得点が上昇した。交互作用は有意ではなかったが,実験群の伸びがより大きいことがグラフから分かる。
 次に,介入群のノート得点の冒頭から末尾への得点の変化を見たところ,冒頭では3点以下が25名,4-5点が6名,6点以上が1名だったのに対し,末尾時点では3点以下が1名,4-5点が1名,6点以上が30名と大幅に改善された。また,事前調査のメタ認知得点とノート冒頭得点との相関は有意でなかった (r=.146) が,ノート末尾得点と事後メタ認知得点との相関 (r=.358) は有意であった。以上より,明確ではないが,介入授業を通して問題解決やメタ認知が向上すること,「頭の中の先生」を用いてノートが書けるようになった児童ほど,事後調査でもメタ認知的思考に基づいた記述を書くことができたことが示唆される。