[PD28] 小学校・幼稚園教諭,保育士養成校学生の「音楽理論」の理解について(2)
音楽経験等と苦手意識との関連と協同学習による学びについて
Keywords:音楽理論, 協同学習, 苦手意識
はじめに
保育・教員養成校(以下.「養成校」とする)における音楽の授業は,弾き歌いやソルフェージュを中心とした実技指導と,音楽理論(以下,「理論」とする)が中心である。音楽系習い事は未経験で高校で音楽の授業を履修しなかった者も少なくない。音楽を苦手とする者の多くは,小・中学校で学んだ理論が理解できていないため,「理論」と聞くだけであきらめる者もいる。そこで,本研究では,音楽経験が苦手意識と関連があるのか等について調査し,協同学習(アクティブラーニング)による授業が有益であるのか検討することを目的とする。
調査方法
(1) 調査時期:Ⅰ.2015年4月20日~4月23日「音楽Ⅰ」初回講義時(質問紙調査)。Ⅱ2015年8月3日「音楽Ⅰ」前期試験終了後(質問紙調査)。Ⅲ2016年2月4日「音楽Ⅰ」後期試験終了後(質問紙調査) (2) 調査対象:T大学J学科1年次生。回収率100%。Ⅰ.227名(男子105名,女子122名)Ⅱ237人(男性109人,女性128人)Ⅲ.232(男性107人,女性125人) (3) 調査内容:Ⅰ高校での音楽履修状況,音楽系の習い事や音楽系部活動経験の有無,理論に対する意識,五線・音部記号・音符・休符等の理解,予・復習の予定等。Ⅱ.予・復習の状況,協同学習での学びの評価,五線・大譜表・音符・休符等の理解,後期の予・復習の予定等。Ⅲ学びの自己採点,予・復習実施状況,協同学習での学びの評価,五線・音部記号・音符・休符等の理解等。(4).質問紙調査の分析・結果 調査票の単純集計の結果は以下のとおりで,下線数字は50.0%以上,>は10.0%以上,≑は10.0%未満,=は1.0%未満の差である。Ⅰ①高校で音楽を履修した50.7% ≑履修していない49.3%。②音楽系習い事を未経験63.4%> 経験36.6%。③音楽系部活動未経験76.2%> 経験あり23.8%。④理論が不得意85.5%>得意14.5%。⑤ト音記号の書き方をよく理解37%>不理解26.9%>やや理解19.4%>どちらとも言えない8.8%>やや不理解7.9%。⑥音符の長さを不理解41.9%>やや理解16.7%≑理解15.4%≑どちらとも言えない13.7%≑やや不理解12.3%。⑧休符の長さを不理解46.7%>やや理解15.4%=どちらとも言えない15.0%≑理解11.9%=やや不理解11.0%等。Ⅱ①予習 時々55.6%>しない40%>毎回4.2%②復習 時々70%>しない21.9%%>毎回7.1%③協同学習での学び 大変有意義43.4%≑有意義41.7%>どちらとも言えない1.6%等。Ⅲ①学びの自己評価80点台23.1%>70点台20.1%≑90点台14.5%②予習 時々58.7%>しない35.1%>毎回4.2%③復習 時々70.8%>しない19.3%≑毎回8.5%④協同学習での学び 大変有意義46.3%=有意義45.4%>どちらとも言えない5.5%⑤音符 説明可47.2%>自信を持って説明可30.9%>どちらとも言えない12.8%⑥付点音符 説明可43.7%>自信を持って説明可29.6%>どちらとも言えない17.1%⑦休符 説明可47.2%>自信を持って説明可31.3%>どちらとも言えない13.3%⑧付点休符 説明可44.2%>自信を持って説明可28.7%>どちらとも言えない18.0%等
考 察
調査Ⅰでは,高校での音楽履修・未履修はほぼ同じ,音楽系習い事未経験者は6割,音楽系部活動未経験者は7割,理論を不得意とする者は8割。ト音記号の書き方以外の全ての項目で「不理解」者が最も多く,調号のつけ方や調号と臨時記号の違いの不理解者は7割,長音階と短音階,長調と短調の違いの不理解者は6割を越えていることから,多くは理論がほとんど理解できていないため,指導にはかなりの時間と工夫が必要であることが明確となった。一方,音楽系の習い事・部活動経験者では理論を得意と感じている者が5~7割いることから,理解度と音楽経験とは関連のあることがわかった。そこで,一斉講義形式よりも,互いに学び合える協同学習(アクティブラーニング)が有効であると考えて実施した。調査Ⅱでは,毎回・時々予習した者が5割,毎回・時々復習した者が7割,また,協同学習での学びがとても有意義・有意義が8割,授業不理解がない・あまりないとあった・よくあったが共に5割だったことから,さらに予習・復習につながるような教材や授業展開の工夫が必要なことが明らかとなり,到達目標を示す等改善した。調査Ⅲでは,毎回・時々予習した者が6割,毎回・時々復習した者が8割に増え,また,協同学習での学びがとても有意義・有意義が9割を越え,授業不理解があった・よくあったが4割に減った。また,理解できなかったことは友人同士で解決した者が6割を越える等,協同学習による学習は一定の成果があったと言える。しかしながら,学習事項をどの程度説明できたかについては,全ての項目で「自信を持って説明できる」よりも「説明できる」が多く,一部の項目では説明できる者が6割を下回った。さらに,全ての項目で「説明できない」「やや説明できない」者がいた。これらの原因は,①理論の実施が隔週だったため学びが定着しにくかった,②音楽経験のある者のいるグループといないグループとでは,理解するまでの時間が異なり,学習意欲に差ができた,等が考えられる。
今後の課題は,①理論が毎週学べるようなシステムを考え,②全員が「自信を持って説明可」「説明可」となるよう協同学習の様々な技法等を用いての展開が必要,③「個人思考」「共有」「内省」を明確に区別,④実教材の工夫,等である。そこで,今年度は,理論が毎週学べるシステムに変えて授業の展開方法を工夫する等,本研究で浮き彫りとなった課題に取り組んでいる。
文 献
「養成校学生の「音楽理論の理解」について-音楽経験等と苦手意識との関連-」全国大学音楽教育学会第31回全国大会論文集
保育・教員養成校(以下.「養成校」とする)における音楽の授業は,弾き歌いやソルフェージュを中心とした実技指導と,音楽理論(以下,「理論」とする)が中心である。音楽系習い事は未経験で高校で音楽の授業を履修しなかった者も少なくない。音楽を苦手とする者の多くは,小・中学校で学んだ理論が理解できていないため,「理論」と聞くだけであきらめる者もいる。そこで,本研究では,音楽経験が苦手意識と関連があるのか等について調査し,協同学習(アクティブラーニング)による授業が有益であるのか検討することを目的とする。
調査方法
(1) 調査時期:Ⅰ.2015年4月20日~4月23日「音楽Ⅰ」初回講義時(質問紙調査)。Ⅱ2015年8月3日「音楽Ⅰ」前期試験終了後(質問紙調査)。Ⅲ2016年2月4日「音楽Ⅰ」後期試験終了後(質問紙調査) (2) 調査対象:T大学J学科1年次生。回収率100%。Ⅰ.227名(男子105名,女子122名)Ⅱ237人(男性109人,女性128人)Ⅲ.232(男性107人,女性125人) (3) 調査内容:Ⅰ高校での音楽履修状況,音楽系の習い事や音楽系部活動経験の有無,理論に対する意識,五線・音部記号・音符・休符等の理解,予・復習の予定等。Ⅱ.予・復習の状況,協同学習での学びの評価,五線・大譜表・音符・休符等の理解,後期の予・復習の予定等。Ⅲ学びの自己採点,予・復習実施状況,協同学習での学びの評価,五線・音部記号・音符・休符等の理解等。(4).質問紙調査の分析・結果 調査票の単純集計の結果は以下のとおりで,下線数字は50.0%以上,>は10.0%以上,≑は10.0%未満,=は1.0%未満の差である。Ⅰ①高校で音楽を履修した50.7% ≑履修していない49.3%。②音楽系習い事を未経験63.4%> 経験36.6%。③音楽系部活動未経験76.2%> 経験あり23.8%。④理論が不得意85.5%>得意14.5%。⑤ト音記号の書き方をよく理解37%>不理解26.9%>やや理解19.4%>どちらとも言えない8.8%>やや不理解7.9%。⑥音符の長さを不理解41.9%>やや理解16.7%≑理解15.4%≑どちらとも言えない13.7%≑やや不理解12.3%。⑧休符の長さを不理解46.7%>やや理解15.4%=どちらとも言えない15.0%≑理解11.9%=やや不理解11.0%等。Ⅱ①予習 時々55.6%>しない40%>毎回4.2%②復習 時々70%>しない21.9%%>毎回7.1%③協同学習での学び 大変有意義43.4%≑有意義41.7%>どちらとも言えない1.6%等。Ⅲ①学びの自己評価80点台23.1%>70点台20.1%≑90点台14.5%②予習 時々58.7%>しない35.1%>毎回4.2%③復習 時々70.8%>しない19.3%≑毎回8.5%④協同学習での学び 大変有意義46.3%=有意義45.4%>どちらとも言えない5.5%⑤音符 説明可47.2%>自信を持って説明可30.9%>どちらとも言えない12.8%⑥付点音符 説明可43.7%>自信を持って説明可29.6%>どちらとも言えない17.1%⑦休符 説明可47.2%>自信を持って説明可31.3%>どちらとも言えない13.3%⑧付点休符 説明可44.2%>自信を持って説明可28.7%>どちらとも言えない18.0%等
考 察
調査Ⅰでは,高校での音楽履修・未履修はほぼ同じ,音楽系習い事未経験者は6割,音楽系部活動未経験者は7割,理論を不得意とする者は8割。ト音記号の書き方以外の全ての項目で「不理解」者が最も多く,調号のつけ方や調号と臨時記号の違いの不理解者は7割,長音階と短音階,長調と短調の違いの不理解者は6割を越えていることから,多くは理論がほとんど理解できていないため,指導にはかなりの時間と工夫が必要であることが明確となった。一方,音楽系の習い事・部活動経験者では理論を得意と感じている者が5~7割いることから,理解度と音楽経験とは関連のあることがわかった。そこで,一斉講義形式よりも,互いに学び合える協同学習(アクティブラーニング)が有効であると考えて実施した。調査Ⅱでは,毎回・時々予習した者が5割,毎回・時々復習した者が7割,また,協同学習での学びがとても有意義・有意義が8割,授業不理解がない・あまりないとあった・よくあったが共に5割だったことから,さらに予習・復習につながるような教材や授業展開の工夫が必要なことが明らかとなり,到達目標を示す等改善した。調査Ⅲでは,毎回・時々予習した者が6割,毎回・時々復習した者が8割に増え,また,協同学習での学びがとても有意義・有意義が9割を越え,授業不理解があった・よくあったが4割に減った。また,理解できなかったことは友人同士で解決した者が6割を越える等,協同学習による学習は一定の成果があったと言える。しかしながら,学習事項をどの程度説明できたかについては,全ての項目で「自信を持って説明できる」よりも「説明できる」が多く,一部の項目では説明できる者が6割を下回った。さらに,全ての項目で「説明できない」「やや説明できない」者がいた。これらの原因は,①理論の実施が隔週だったため学びが定着しにくかった,②音楽経験のある者のいるグループといないグループとでは,理解するまでの時間が異なり,学習意欲に差ができた,等が考えられる。
今後の課題は,①理論が毎週学べるようなシステムを考え,②全員が「自信を持って説明可」「説明可」となるよう協同学習の様々な技法等を用いての展開が必要,③「個人思考」「共有」「内省」を明確に区別,④実教材の工夫,等である。そこで,今年度は,理論が毎週学べるシステムに変えて授業の展開方法を工夫する等,本研究で浮き彫りとなった課題に取り組んでいる。
文 献
「養成校学生の「音楽理論の理解」について-音楽経験等と苦手意識との関連-」全国大学音楽教育学会第31回全国大会論文集