[PD31] 新聞を活用した議論による価値判断力の育成
18歳選挙のための初年次教育
Keywords:議論, 新聞, 価値判断
背景と目的
18歳選挙権の導入により一票の担い手として情報を収集し,他者と議論し,自分の考えをまとめる力の育成が大学にも求められている。新聞は民主主義社会において重要なメディアであるが,インターネットの普及により新聞離れが進み,政治情報の受容も変化した。これについて稲増・三浦(2016)は,わざわざ自分の態度と異なる情報に接触する行動は減少していると述べている。またインターネットが持つ技術的特徴は選択的接触を促進し,Sunstein (2001)は民主主義の前提となる「自らと異なる意見への接触」が減少する危険性を指摘した。選挙への準備として,自分の関心領域を越えて多様な情報を自分の生活に関連させ,共感を持って主体的に問題を捉え,他者と議論することを支援する教材が必要である。これまで思考力育成の手段として新聞を用いた実践(Newspaper in Education: NIE)は国内外で多数行われてきた。その多くの実践を発展させ,新聞記事を通じて「わたし」の生活空間を越境し(中野,2014),他者との対話と自己内対話を習慣化させ,個人的な価値体系を形作るための議論教育が重要だと考える。そこで本論では初年次における新聞を活用した議論による価値判断力を育成するための教材について述べることを目的とする。
教材の概要
開発方法:18歳選挙のための教育方法を考案するために,平成28年3月から5月の間に福岡工業大学工学部電気工学科の学生にニーズ調査およびヒアリング調査を実施し,西日本新聞社の協力を得て,協議を重ね教材の大枠を完成させた。
ねらい:教材のねらいは以下7点ある:①身の周りの重要なカテゴリーを知る。②テーマについて系統的に調べ,情報や知識を整理する。③そのテーマに対する他者の多様な意見を知る。④テーマについて自分の意見をもち,他者と議論する。⑤テーマに含まれる価値観に気づき,自らの価値観について考える。⑥情報収集方法や考え方について内省する。⑦テーマを自分の問題として捉える。
課題の形式:教師や学習者の目的に応じて柔軟に対応できるように,授業内外で使用できるワークブック教材とした。大学生に議論してもらいたいカテゴリーを特定し,各カテゴリーにつき1~2件の記事を選定した。
ワークの構成:ワークは以下①~④の4段階で構成される。ワークを用いた標準的な活動内容を表1に示す。はじめに①記事を読んで理解する。その次に②リサーチでは,「感想」「定義,問題の明確化」「近年の動向」「問題をめぐる意見の対立」「自分の今の意見」等を記入する。この段階で自分なりに情報収集し,暫定の意見をまとめる。③他者と議論しようでは,グループをつくり「他者の意見」「自分の意見に対する反論・コメント」「議論後の今の意見」を記入する。これにより,他者と事前のリサーチ結果との比較を通して新たに自分の意見を考える。④自分を見つめようでは,問題に含まれる価値について考え,その問題と自分の関係から自己を見つめる。
おわりに
本論では新聞を活用した価値判断力育成のための議論教育の教材について述べた。現在は次の開発段階として,多様な学生に対して実験授業を実施し教育方法の洗練に取り組んでいる。
引用文献
稲増一憲・三浦麻子 (2016). 「自由」なメディアの陥穽:有権者の選好に基づくもうひとつの選択的接触. 社会心理学研究, 31(3), 172–183.
Sunstein, C. R. (2001). Republic.com. Princeton, NJ: Princeton University Press.
中野美香 (2014). ディスカッション:学問する主体として学び合う社会を担う. 富田英司・田島充士編 『高等教育―越境の説明をはぐくむ心理学―』ナカニシヤ出版,京都
18歳選挙権の導入により一票の担い手として情報を収集し,他者と議論し,自分の考えをまとめる力の育成が大学にも求められている。新聞は民主主義社会において重要なメディアであるが,インターネットの普及により新聞離れが進み,政治情報の受容も変化した。これについて稲増・三浦(2016)は,わざわざ自分の態度と異なる情報に接触する行動は減少していると述べている。またインターネットが持つ技術的特徴は選択的接触を促進し,Sunstein (2001)は民主主義の前提となる「自らと異なる意見への接触」が減少する危険性を指摘した。選挙への準備として,自分の関心領域を越えて多様な情報を自分の生活に関連させ,共感を持って主体的に問題を捉え,他者と議論することを支援する教材が必要である。これまで思考力育成の手段として新聞を用いた実践(Newspaper in Education: NIE)は国内外で多数行われてきた。その多くの実践を発展させ,新聞記事を通じて「わたし」の生活空間を越境し(中野,2014),他者との対話と自己内対話を習慣化させ,個人的な価値体系を形作るための議論教育が重要だと考える。そこで本論では初年次における新聞を活用した議論による価値判断力を育成するための教材について述べることを目的とする。
教材の概要
開発方法:18歳選挙のための教育方法を考案するために,平成28年3月から5月の間に福岡工業大学工学部電気工学科の学生にニーズ調査およびヒアリング調査を実施し,西日本新聞社の協力を得て,協議を重ね教材の大枠を完成させた。
ねらい:教材のねらいは以下7点ある:①身の周りの重要なカテゴリーを知る。②テーマについて系統的に調べ,情報や知識を整理する。③そのテーマに対する他者の多様な意見を知る。④テーマについて自分の意見をもち,他者と議論する。⑤テーマに含まれる価値観に気づき,自らの価値観について考える。⑥情報収集方法や考え方について内省する。⑦テーマを自分の問題として捉える。
課題の形式:教師や学習者の目的に応じて柔軟に対応できるように,授業内外で使用できるワークブック教材とした。大学生に議論してもらいたいカテゴリーを特定し,各カテゴリーにつき1~2件の記事を選定した。
ワークの構成:ワークは以下①~④の4段階で構成される。ワークを用いた標準的な活動内容を表1に示す。はじめに①記事を読んで理解する。その次に②リサーチでは,「感想」「定義,問題の明確化」「近年の動向」「問題をめぐる意見の対立」「自分の今の意見」等を記入する。この段階で自分なりに情報収集し,暫定の意見をまとめる。③他者と議論しようでは,グループをつくり「他者の意見」「自分の意見に対する反論・コメント」「議論後の今の意見」を記入する。これにより,他者と事前のリサーチ結果との比較を通して新たに自分の意見を考える。④自分を見つめようでは,問題に含まれる価値について考え,その問題と自分の関係から自己を見つめる。
おわりに
本論では新聞を活用した価値判断力育成のための議論教育の教材について述べた。現在は次の開発段階として,多様な学生に対して実験授業を実施し教育方法の洗練に取り組んでいる。
引用文献
稲増一憲・三浦麻子 (2016). 「自由」なメディアの陥穽:有権者の選好に基づくもうひとつの選択的接触. 社会心理学研究, 31(3), 172–183.
Sunstein, C. R. (2001). Republic.com. Princeton, NJ: Princeton University Press.
中野美香 (2014). ディスカッション:学問する主体として学び合う社会を担う. 富田英司・田島充士編 『高等教育―越境の説明をはぐくむ心理学―』ナカニシヤ出版,京都