日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD32] 自治体・地域・大学の協働による授業科目開発のプロセス(1)

参加型アクションリサーチによる学習課題の分析

澤邉潤1, 古村健太郎#2 (1.新潟大学, 2.新潟大学)

キーワード:授業研究, アクションリサーチ, 協働

問題と目的
 近年のユニバーサル化された大学教育においては,学内での学習にとどまることなく,学生の学習への動機づけ向上や社会的自律を促す教育の質的転換の必要性が指摘されている(中央教育審議会, 2012)。学外との連携という点では,サービス・ラーニングに代表されるような地域・社会と大学との連携・協働により,経験だけではなく教育史的に質が担保された教育活動の開発・実践が進められている(杉原ほか, 2015)。
 こうした動向を踏まえると,学生は,学外での学習を通じて地域・社会の課題に主体的に働きかける過程において,問題解決に必要なスキルや批判的思考力などの「汎用的能力」を獲得することが期待されている。しかし,こうした学習には,「所与のコミュニティに従順な」課題や社会貢献活動では,学習としての質を維持できないという批判もある(若槻,2015)。この種の批判に対しては,教育者がどのような問題意識で学習者が取り組むべき課題を設定するのか,その背景とプロセスを記述することによって応えていけるものと推察される。
 そこで,本研究では,自治体・地域・大学の協働による授業科目の開発過程に注目し,地域・社会の問題意識や教育ニーズの解釈的な分析によって,学生が学習すべき学習課題の設定を行うことを目的とする。
研究プロセス(方法)
 本研究では,教育活動に参画する関係者の教育開発・改善のプロセスを重視する観点から,参加型アクションリサーチ(McIntyre 2008)の枠組みやアクティブ・インタビュー (Holstein & Guburium, 1995)により,関与者とのインタラクティブな関係を重視する。
 課題設定にかかわる検討のプロセスは大きく以下の3つの観点に整理できる。
観点1:自治体の教育ニーズと課題分析
観点2:地域の教育ニーズと課題分析
観点3:大学の教育活動における学習課題,評価の枠組みの設定
 上記3つのプロセスの検討期間は,2015年11月~2016年3月の4ヶ月間であった。
結果と考察
 各検討のプロセスで聞き取りを行った項目とその整理を表1に示す。それぞれの関与者の立場において,共通的な課題認識(若者の地域参画,地域活性化)が確認された。これらの課題認識の現実場面における要請の程度 (水準) は,関与する立場によって認識が異なっている可能性も推察される。そのため,大学における教育活動の学習課題設定の観点としては,関与者の認識(市民の視点,大学教育の視点)を認め,かつ地域社会のイノベーションに寄与できる課題を設定する必要性が示唆された。一方,本研究のプロセス全体を通じて,関与者が互いの課題を認識し,相互補完的な関係を形成し,大学が行政や地域との関わりと信頼を築くことの重要性も認識された。
 以上より,大学として地域社会での教育活動を展開するうえで,取り組むべき目的を了解することも不可欠であると考えられる。今後は,大学教育の立場から「Civic Engagement (Chenneville, Toler, & Gaskin-Butler, 2012)」などの視点を導入し,教育活動における心理学的アプローチを組み込みながら,自治体・地域との協働による授業設計・実践・改善の循環を確立することが必要であるといえる。
 ※本研究は文部科学省教育再生加速プログラム(AP)によって実施された