日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD38] 在外教育施設で学ぶ高校生の英語学習における特異性

学習観,情意要因に着目して

関谷弘毅 (広島女学院大学)

キーワード:在外教育施設, 日本人学校, 英語

問題・目的
 2011年4月に,高等学校としては世界初となる日本人学校高等部が中国上海に開校した。日本人学校とは,日本国外において主に日本国籍を有する児童・生徒を対象に日本の教育課程に沿った教育を受けさせる在外教育施設である。今後世界各地で日本人学校高等部の設置の検討が予想される中,英語教育においても日本人学校の高校生の特異性を把握し,それに適した教育活動を提案することは急務である。しかし,そのような研究は現時点でほぼ皆無である。
 一般に,学習対象言語が生活環境において日常的に触れる場合は第二言語,生活環境では触れず,主に教室で学ぶ場合は外国語として区別し,その学習プロセスも異なるとされている。非英語圏の日本人学校の高校生にとって,英語は外国語である一方で,現地語である中国語は第二言語である。非英語圏で生活し,第二言語として現地語を学ぶプロセスは,間接的に外国語である英語の学習にも何らか影響を与えると予想される。以上を踏まえ本研究は,非英語圏の日本人学校高校生が英語学習に対して持つ学習観及び情緒要因を日本の一般の高校生との比較によって探索的に特異性を見出すことを目的とする。
方   法
参加者 上海日本人学校高等部1~3年生,愛知県立M高等学校1年生。
質問紙 関谷(2009)を参考に,学習観について文法重視を,情意要因について関係志向,リスクテイキング,衝動性について尋ねた。
結   果
 4つの変数について学校・学年間の平均値の差を検討するため,1要因分散分析を実施した。
 「文法重視」に関して学校・学年の主効果が有意であった(F(3, 205)=3.50,p < .05)。Tukey法による多重比較の結果,日本の高校1年生のほうが上海日本人学校(SJHS)高等部2年生よりも有意に高かった。「関係志向」に関して学校・学年の主効果が有意傾向であった(F(3,205)=3.50,p < .05)。Tukey法による多重比較の結果,上海日本人学校高等部2年生のほうが同3年生よりも有意に高かった。「リスクテイキング」,「衝動性」に関しては学校・学年の有意な主効果は見られなかった(F (3,205)=1.11,p = n. s.; F(3,205)=1.31,p = n. s)。
考   察
 日本の高校生は,外国語を実際に使用する機会が制限されたまま,文法構造に意識を向けさせる教育環境にいると思われる。一方,日本人学校の高校生も,英語の授業は日本の高校と同じカリキュラムで実施され,文法構造に意識を向けさせる教育環境にいるが,生活環境がほとんどの高校生にとって初学である中国語環境である。多くの高校生が生活で,文法的な理解を伴わずにサバイバルレベルの中国語を使用しており,最低限の生活をこなしているという日常体験から,文法理解に対する意識が高まらない可能性が考えられる。
引用文献
関谷弘毅 (2009). 「スピーキング学習における英語学習観尺度と性格・情緒尺度の開発」『東京大学大学院教育学研究科紀要』 48, 147-154.
*本研究は,財団法人日本英語検定協会より研究助成を受けた。