[PD41] 文章構造と意見文評価の関連
個人差に着目して
Keywords:意見文評価, 混合効果モデル
問題と目的
意見文評価に関する研究(e.g., Wolfe, Britt, & Butler, 2009)や,意見文産出に関する研究(e.g., Nussbaum & Kardash, 2005)では,自分の主張に有利な賛成論だけを示すのではなく,自分の主張に対する反論を提示し,さらにそれに対する再反論を行っている意見文が説得的な意見文と考えられている。しかし,反論に言及することや,反論に対して再反論をした意見が必ずしも高く評価されるわけではない(e.g., Hass & Linder, 1972)。実際に,メタ分析を行った研究では,反論想定や再反論が説得力評価に与える影響は極めて低いことが示されている(Allen, 1991; O’Keefe, 1999)。そのため,文章構造が意見文評価に与える影響には個人差があると考えられる。そこで本研究では,文章構造が意見文評価に与える影響について,その個人差に着目して検討することを目的とする。
方 法
参加者 楽天リサーチ株式会社の保有するパネルに登録しているモニタの中の,20~50代の成人700名(男性412名,女性288名)を対象に調査を行った。
ターゲット文章 Wolfe et al. (2009) で使用された35個のテーマから,18個のテーマを選定して使用した。各テーマは,反論なし文では「○○だ。なぜなら…。だから○○だ」,反論文では「○○だ。なぜなら…。たしかに△△という意見もある。それでも○○だ」,再反論文では「○○だ。なぜなら…。たしかに△△という意見もある。しかし□□だ。だから○○だ」という構造で提示された。
手続き 2016年2月に,Web上で調査を行った。文章構造は参加者内要因とし,各参加者は,反論なし文と反論文,再反論文が6文ずつ(計18文)提示された。各テーマがどの文章構造で提示されるかは,調査票によって異なっており,3種類の調査票を用いた。また,いずれの調査票でも,文章の提示順序についてはカウンターバランスを行った。
質問紙の構成
1. 事前の立場 18個のテーマの主張部分のみを提示し,主張に対する賛成度を4件法(1:反対だ~4:賛成だ)で求めた。分析には,「反対」「どちらかというと反対」に0,「どちらかというと賛成」「賛成」に1を割り当てた,ダミー変数を用いた。
2. 意見文評価 各文章に対して,「この意見は論理的だ」,「この意見には一貫性がある」,「この意見に対して反論するのは困難だ」,「この意見は説得的だ」の4項目について5件法(1:まったくそう思わない~5:とてもそう思う)で回答を求めた。
3. 認知欲求尺度(神山・藤原, 1991)
4. 人口統計学的変数(性別,年齢,学歴)
結果と考察
本研究の分析はR 3.2.2上で行った。文章構造の影響について検討するために,「反論ダミー」(反論文=1,その他の文=0)と「再反論ダミー」(再反論文=1,その他の文=0)の2つのダミー変数を用いて,混合効果モデル(mixed-effects model; Baayen, Davidson, & Bates, 2008)による分析を行った。なお,性別は男性=0,女性=1のダミー変数,年齢は「30代ダミー」と「40代ダミー」,「50代ダミー」の3つのダミー変数とし,学歴は教育年数に換算して,これらもモデルに投入した。
文章構造の影響に個人差があるかを検討するために,反論ダミーと再反論ダミーの変量効果を0に固定するか自由推定するかを組み合わせた4つのモデルのデータに対する当てはまりの良さを,尤度比検定によって比較した。その結果,反論ダミーの効果にのみ個人差があることを仮定したモデルの当てはまりが最も良かった。そのため,以下では,このモデルの下で得られた結果を示す。
まず,反論ダミーの効果が有意であり,反論なし文と比較して,反論文は低く評価される傾向にあった(b = -0.04, p < .05)。これは,反論に対する言及がないことで,反論に対する応答を欠いた意見文として評価されたためと考えられる。ただし,この効果には個人差があり,反論文を反論なし文よりも低く評価しない者もいることが示唆された。また,事前の立場の効果も有意であり(b = 0.60, p < .05),自分と同じ意見の文章は高く評価される傾向にあった。さらに,女性の方が全体的に高く評価する傾向にあった(b = 0.12, p < .05)。
次に,反論ダミーの効果に個人差がみられたことから,この個人差を性別,年齢,学歴,認知欲求によって説明できるかを検討した。その結果,いずれの変数でも,文章構造の効果の個人差は説明できないことが示唆された。
意見文評価に関する研究(e.g., Wolfe, Britt, & Butler, 2009)や,意見文産出に関する研究(e.g., Nussbaum & Kardash, 2005)では,自分の主張に有利な賛成論だけを示すのではなく,自分の主張に対する反論を提示し,さらにそれに対する再反論を行っている意見文が説得的な意見文と考えられている。しかし,反論に言及することや,反論に対して再反論をした意見が必ずしも高く評価されるわけではない(e.g., Hass & Linder, 1972)。実際に,メタ分析を行った研究では,反論想定や再反論が説得力評価に与える影響は極めて低いことが示されている(Allen, 1991; O’Keefe, 1999)。そのため,文章構造が意見文評価に与える影響には個人差があると考えられる。そこで本研究では,文章構造が意見文評価に与える影響について,その個人差に着目して検討することを目的とする。
方 法
参加者 楽天リサーチ株式会社の保有するパネルに登録しているモニタの中の,20~50代の成人700名(男性412名,女性288名)を対象に調査を行った。
ターゲット文章 Wolfe et al. (2009) で使用された35個のテーマから,18個のテーマを選定して使用した。各テーマは,反論なし文では「○○だ。なぜなら…。だから○○だ」,反論文では「○○だ。なぜなら…。たしかに△△という意見もある。それでも○○だ」,再反論文では「○○だ。なぜなら…。たしかに△△という意見もある。しかし□□だ。だから○○だ」という構造で提示された。
手続き 2016年2月に,Web上で調査を行った。文章構造は参加者内要因とし,各参加者は,反論なし文と反論文,再反論文が6文ずつ(計18文)提示された。各テーマがどの文章構造で提示されるかは,調査票によって異なっており,3種類の調査票を用いた。また,いずれの調査票でも,文章の提示順序についてはカウンターバランスを行った。
質問紙の構成
1. 事前の立場 18個のテーマの主張部分のみを提示し,主張に対する賛成度を4件法(1:反対だ~4:賛成だ)で求めた。分析には,「反対」「どちらかというと反対」に0,「どちらかというと賛成」「賛成」に1を割り当てた,ダミー変数を用いた。
2. 意見文評価 各文章に対して,「この意見は論理的だ」,「この意見には一貫性がある」,「この意見に対して反論するのは困難だ」,「この意見は説得的だ」の4項目について5件法(1:まったくそう思わない~5:とてもそう思う)で回答を求めた。
3. 認知欲求尺度(神山・藤原, 1991)
4. 人口統計学的変数(性別,年齢,学歴)
結果と考察
本研究の分析はR 3.2.2上で行った。文章構造の影響について検討するために,「反論ダミー」(反論文=1,その他の文=0)と「再反論ダミー」(再反論文=1,その他の文=0)の2つのダミー変数を用いて,混合効果モデル(mixed-effects model; Baayen, Davidson, & Bates, 2008)による分析を行った。なお,性別は男性=0,女性=1のダミー変数,年齢は「30代ダミー」と「40代ダミー」,「50代ダミー」の3つのダミー変数とし,学歴は教育年数に換算して,これらもモデルに投入した。
文章構造の影響に個人差があるかを検討するために,反論ダミーと再反論ダミーの変量効果を0に固定するか自由推定するかを組み合わせた4つのモデルのデータに対する当てはまりの良さを,尤度比検定によって比較した。その結果,反論ダミーの効果にのみ個人差があることを仮定したモデルの当てはまりが最も良かった。そのため,以下では,このモデルの下で得られた結果を示す。
まず,反論ダミーの効果が有意であり,反論なし文と比較して,反論文は低く評価される傾向にあった(b = -0.04, p < .05)。これは,反論に対する言及がないことで,反論に対する応答を欠いた意見文として評価されたためと考えられる。ただし,この効果には個人差があり,反論文を反論なし文よりも低く評価しない者もいることが示唆された。また,事前の立場の効果も有意であり(b = 0.60, p < .05),自分と同じ意見の文章は高く評価される傾向にあった。さらに,女性の方が全体的に高く評価する傾向にあった(b = 0.12, p < .05)。
次に,反論ダミーの効果に個人差がみられたことから,この個人差を性別,年齢,学歴,認知欲求によって説明できるかを検討した。その結果,いずれの変数でも,文章構造の効果の個人差は説明できないことが示唆された。