日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD42] 小学生の家庭学習における動機づけの調整

梅本貴豊1, 田中健史朗#2 (1.九州女子大学, 2.山梨大学)

キーワード:動機づけ調整, 家庭学習, 小学生

問題と目的
 家庭での学習は非常に重要である。しかしながら,ベネッセ教育総合研究所(2016)の報告では,小学生から高校生になるにつれて,「家庭学習をほとんどしない」と回答する子どもの割合が増加していくことが示されている。そのため,小学生の段階で早めの介入につなげられるような,実証的な研究が求められていると言えよう。
 自律的な学習プロセスを明らかにしようとする自己調整学習分野では,「動機づけ調整」の重要性が指摘されており(e.g., Wolters, 2003),梅本(印刷中)は,小学生の家庭学習における動機づけ調整方略と学習行動との関連を検討している。しかしながら,学習方略は学習中に複数が同時に用いられる可能性があるため(梅本, 2013),それらの複合的な効果の検討が必要である。本研究では,梅本(印刷中)のデータを再分析し,小学生の家庭学習における動機づけ調整方略プロフィールを作成し,家庭学習行動との関連を検討する。
方   法
 対象者 A県内の公立小学校の4年生から6年生の計173名(4年生63人,5年生56人,6年生54人;男性84名, 女性89名)を分析対象とした。
 調査手続き クラスごとに担任教員によって行われ,その場で質問紙への回答・回収を求めた。
 調査内容 動機づけ調整方略(梅本, 印刷中):価値づけ方略(5項目),効力感喚起方略(5項目),気分転換方略(4項目),学習進度調整方略(4項目),学習後想像方略(3項目)の5つからなる。エンゲージメント(梅本, 印刷中):行動的および感情的エンゲージメント(それぞれ3項目)を測定した。学習方略(梅本, 印刷中):反復作業方略(3項目),深い処理方略(4項目)。全て4件法。
結果と考察
 まず,下位尺度ごとにω係数を算出したところ.66~.94の範囲であった。次に,5つの動機づけ調整方略の下位尺度得点を標準化し,階層的クラスター分析(平方ユークリッド距離, ward法)を行った結果,4つの解釈可能なクラスターが得られた。1つ目は全ての動機づけ調整方略を多く使用する「高調整」(n=41),2つ目は価値づけ方略,学習後想像方略を比較的多く使用する「価値・想像」(n=57),3つ目は全ての動機づけ調整方略の使用が低い「低調整」(n=39),4つ目は気分転換方略,学習進度調整方略を比較的多く使用する「気分・進度調整」(n=36)であった。
 そして,4つのクラスターを独立変数,各学習行動を従属変数とする一要因分散分析を行った結果,全てに主効果が見られたため,多重比較(Bonferroni法)を行った(Table 1)その結果,高調整は全ての学習行動に共通して比較的高い値を示し,低調整は比較的低い値を示した。多くの方略を使い分けてやる気を高めている児童は,学習方法を工夫しながら積極的な家庭学習を行っていると考えられる。価値・想像は,エンゲージメントでは他のプロフィールに比べて高い値を示したが,学習方略ではそれほど高い値を示さなかった。主に学習内容への価値づけや学習後を想像してやる気を高める児童は,エンゲージメントという側面から見ると積極的に学習を行っていることが分かる。また,気分転換や学習の進度を調整することに頼ってやる気を高める児童は,それほど積極的な学習につながっていないことが示されたため,他の動機づけ調整を併用するような指導が必要であろう。今後は,家庭での学習と授業中の学習との関連についても検討していく必要がある。