The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD46] 学習意欲・自己効力感・有用感・学習方略及び学業成果の関連

自律的学習者育成に向けた授業プログラム評価のキー概念

藤森千尋 (埼玉医科大学)

Keywords:学習意欲, 自己効力感, 学習方略

本研究の背景と目的
 英語学習は学習者の目的や熟達度に応じて身につけたいスキルや目標が多様であるため,必要に応じて学習を計画し実行できる自律的学習者の育成が重要である。そこで,高い内発的動機を持ち,自己の学習をモニタリングし,積極的に学習方略を用いて,自己の学習を制御する自己調整学習(eg., Zimmer- man & Shunk, 2001)に着目する。自己調整学習においては,具体的な学習行動に結びつく「自己効力感」と「学習方略」が重要な要素である(Zimmerman & Martinez-Pons, 1990)。学習の動機づけ研究の根本的関心である「学習意欲」は複雑に多様な要因が影響を与えていると考えられるものの,テスト得点よりも「有用感」(秋田他, 2014)や「自己効力感」(藤森, 2014)との関連が報告されている。また,「学習方略」は直接的に学業成果に影響を与えており(久保, 1999;佐藤, 2004;前田, 2002),「自己効力感」を高めることが「学習方略」の使用を促し,学業成績の向上に繋がることも指摘されている(金子・大芦,2010)。
 本研究は,個別に扱われてきた,これらの自己調整学習におけるキー概念の関連性に着目することは,授業科目の特性を考慮しつつ,自律的学習者育成のための授業プログラムを計画・実行及び改善に向けた省察に活かせるのではないかと提案することが目的である。
方   法
 1.分析対象の授業プログラム:(1)医学部1年生を対象として開発・実践したアカデミック・ライティングの授業(2013年度~2015年度)。パラグラフ構成を明確にして,論理的に一貫したまとまりのある文章を一定時間内に英語で書けるようになることを目標とし,自己の学習をモニタリングする力を養うためにピア・フィードバックの導入。(2)2014年に2年生を対象として開発した,医学専門科目教員(生化学,生理学,解剖学)と英語教員によるティーム・ティーチングによる医学英語基礎読解の授業。専門科目の授業で既習の内容に関する英語専門書を教材とし,個人読み,グループでの話し合い,発表及び質疑応答と解説を行う授業。2.分析データ:(1)ライティング学習の意識(学習意欲,有用感,自己効力感,学習方略,自己モニタリング)に関する5段階尺度の事前(4月または5月)及び事後(1月)の質問紙調査。また,自由英作文の達成度テスト及び最終成績。2013年度から2015年度の3ヵ年分。(2)2014年度2年生を対象とした医学英語専門書読解についての5段階尺度の質問紙調査(2月)と達成度テスト(定期試験100点満点)。3.分析方法:1) <学習意欲>,〈有用感〉,<自己効力感>,<学習方略使用度>,及び達成度テストとの相関。<自己効力感>の質問項目はCEFR(2001)の言語スキルに関するCan-Doリストや各授業における目標を考慮し,「~することができる」の10項目から成り,アカデミック・ライティング(AW)と医学英語読解では内容が異なる。<有用感>に関しては2013年度AWと2014年度の読解のデータのみ質問している。 <学習方略使用度>, <自己モニタリング>に関しては4つのデータでほぼ共通しているが,α係数を算出し,信頼性と妥当性の高い質問項目を採用した。2)事前・事後の意識の変化。
結   果
 「英語で専門書を読むことは面白い」や「英語で文章を書くことは楽しい」などの〈学習意欲〉,「英語で文章を書く練習は英語力向上に役に立つ」,「英語で専門書を読むことは専門的知識の復習になる」などの〈有用感〉,「間違えたときは何故間違えたか考える」,「知っていることと関連づけて学習している」などの〈学習方略使用度〉,「進歩の度合いが自分で分かる」などの〈自己モニタリング〉と達成度テスト得点との相関を調べた。その結果,〈自己効力感〉,〈有用感〉,〈学習方略使用度〉はいずれのデータも〈学習意欲〉と中程度から高い程度の相関が見られたが,〈自己モニタリング〉は相関が見られた場合と見られない場合がある。達成度テストはいずれも〈学習意欲〉と相関が見られなかった。
 事前と事後の質問紙調査(AWのみ)において,いずれのデータでも有意に向上したのは〈自己効力感〉のみであった。〈学習方略使用度〉や〈自己モニタリング〉,〈有用感〉については向上が見られなかった。
*参考データ:2014年度AWはNが少ないため省略。
総合的考察
 本プログラムは<自己効力感>を高めるプログラムとしては成功したと言える。達成可能で実感できる具体的な目標を随時与えた成果と考える。一方,自己モニタリング及び学習方略使用の改善には時間がかかる可能性,また,より自覚的に取り組むよう促す必要性が示唆される。