[PD49] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(19)
エージェント潜在クラスが中学生の向社会性に及ぼす因果的影響
キーワード:社会化, エージェント, 向社会性
Harris(1995)は,子どもの社会化が,親,友人,地域住民,教師といった特定のエージェントとの関係など,文脈固有で行われると指摘する。Grusec & Davidov(2010)は社会化の過程に着目し,その領域を“protection”,“reciprocity”,“control”,“guided learning”,“group participation”に整理している。各エージェントは,いずれかの領域限定で有効な機能を発揮すると指摘する。吉澤他(2015)は,各エージェントが効果的な社会化機能を有することを資源と捉え,子どもを取り巻く全エージェントの包括的資源を仮定して,その資源の様態が,向社会性の指標である社会的スキル,共感性,自己制御に影響することを示した。一方,同研究ではエージェントの様態と向社会性の各指標が同時期に測定された問題がある。本研究では,エージェント指標の1年後に向社会性指標を測定し,因果関係を明確にした検討を行う。
方 法
対象者 A県内の平均的な特徴を持つ1公立中学校に通う生徒285名(全9クラス)に対して,1年生時(2014年1月;Time 1)と2年生時(2015年1月;Time 2)に調査を行った。生徒への調査はTime 1で3回,Time 2で2回に分け負担を軽減した。養育者と居住地の地域住民の有効回答が得られた110名(男子48名,女子62名;父4名,母103名,不明3名;地域住民106名,47地域(字名))のデータを分析した。地域住民の様子の測定では,吉澤他(2015)における保護者ではなく,地域をより把握していると考えられる地域住民代表(自治会長や班長)を対象とした。
中学生の測定内容 Time 1では(1)と(2),Time 2ではそれ以外の回答を用いた。(1) 友人関係機能:丹野(2008)の尺度を改訂し用いた(12項目5件法)。(2) 教師リーダーシップ:三隅・矢守(1989)の尺度を用い(22項目5件法),下位尺度を合成してP機能とM機能の2尺度を構成した。(3) 社会的スキル:東海林他(2012)の尺度から,他者理解スキルと自己他者モニタリングスキル(MS)を用いた(9項目3件法)。(4) 共感性:長谷川他(2009)の尺度から,視点取得と共感的関心を用いた(16項目5件法)。(5) 社会的自己制御:原田他(2008)の尺度を用いた(29項目5件法)。自己主張,自己抑制の下位尺度を構成した。
養育者の養育・しつけ(小学校低学年時)の測定 Time 1の測定時点で,中道・中澤(2003)の応答性と統制からなる養育態度尺度を,回顧法用に改訂し用いた(各5項目4件法)。安香他(1990)の望ましい行動(良)と望ましくない行動(悪)を測定するしつけ尺度を,回顧法用に改訂し用いた(各13項目5件法)。
地域住民の集合的有能感・住民関与性の測定 2015年3月もしくは4月の測定で,吉澤他(2009)の非公式社会的統制と社会的凝集性・信頼からなる集合的有能感尺度を用いた(各6項目4件法)。住民関与性として,地域住民が地域の子どもに関与する活動に携わっている程度の回答を求めた(10項目5件法)。地域活動参加度と子ども関与度の下位尺度を構成した。
結果と考察
社会化エージェントの得点の様態に基づく潜在クラスを把握するため,Mplus ver. 7.3により潜在プロフィル分析を実施した結果,吉澤他(2015)と同様に5クラスが抽出された(BIC:4クラス=1969.562,5クラス=1969.099,6クラス=2003.340;BLRT:5クラス対6クラスの変化は非有意)。エントロピーは0.858,各クラスへの所属確率は0.886~1.000であったため,分類は正確であると判断した。Figure 1に示す各クラスのエージェント指標推定平均値のプロフィルから,Table 1のクラス特徴が見出された。
向社会性の各指標を従属変数,潜在クラスを独立変数とし,Asparouhov & Muthén(2012)の3段階法を用いた分析を実施した。その結果,クラス4の自己他者MSと視点取得がクラス2と3よりも,クラス4の共感的関心がクラス2よりも,クラス4と2の自己主張がクラス1よりも,クラス5と4の自己抑制が3より,クラス4の自己抑制が2よりも有意に高かった(ps<.05)。
吉澤他(2015)と同様に,包括的資源の高いクラスにおいて,向社会性の各指標が一貫して高いことが明らかとなった。今後は,エージェントクラスの規定因の検討や,クラス間移行者の向社会性の変化を検討する3時点以上の縦断調査が求められる。
方 法
対象者 A県内の平均的な特徴を持つ1公立中学校に通う生徒285名(全9クラス)に対して,1年生時(2014年1月;Time 1)と2年生時(2015年1月;Time 2)に調査を行った。生徒への調査はTime 1で3回,Time 2で2回に分け負担を軽減した。養育者と居住地の地域住民の有効回答が得られた110名(男子48名,女子62名;父4名,母103名,不明3名;地域住民106名,47地域(字名))のデータを分析した。地域住民の様子の測定では,吉澤他(2015)における保護者ではなく,地域をより把握していると考えられる地域住民代表(自治会長や班長)を対象とした。
中学生の測定内容 Time 1では(1)と(2),Time 2ではそれ以外の回答を用いた。(1) 友人関係機能:丹野(2008)の尺度を改訂し用いた(12項目5件法)。(2) 教師リーダーシップ:三隅・矢守(1989)の尺度を用い(22項目5件法),下位尺度を合成してP機能とM機能の2尺度を構成した。(3) 社会的スキル:東海林他(2012)の尺度から,他者理解スキルと自己他者モニタリングスキル(MS)を用いた(9項目3件法)。(4) 共感性:長谷川他(2009)の尺度から,視点取得と共感的関心を用いた(16項目5件法)。(5) 社会的自己制御:原田他(2008)の尺度を用いた(29項目5件法)。自己主張,自己抑制の下位尺度を構成した。
養育者の養育・しつけ(小学校低学年時)の測定 Time 1の測定時点で,中道・中澤(2003)の応答性と統制からなる養育態度尺度を,回顧法用に改訂し用いた(各5項目4件法)。安香他(1990)の望ましい行動(良)と望ましくない行動(悪)を測定するしつけ尺度を,回顧法用に改訂し用いた(各13項目5件法)。
地域住民の集合的有能感・住民関与性の測定 2015年3月もしくは4月の測定で,吉澤他(2009)の非公式社会的統制と社会的凝集性・信頼からなる集合的有能感尺度を用いた(各6項目4件法)。住民関与性として,地域住民が地域の子どもに関与する活動に携わっている程度の回答を求めた(10項目5件法)。地域活動参加度と子ども関与度の下位尺度を構成した。
結果と考察
社会化エージェントの得点の様態に基づく潜在クラスを把握するため,Mplus ver. 7.3により潜在プロフィル分析を実施した結果,吉澤他(2015)と同様に5クラスが抽出された(BIC:4クラス=1969.562,5クラス=1969.099,6クラス=2003.340;BLRT:5クラス対6クラスの変化は非有意)。エントロピーは0.858,各クラスへの所属確率は0.886~1.000であったため,分類は正確であると判断した。Figure 1に示す各クラスのエージェント指標推定平均値のプロフィルから,Table 1のクラス特徴が見出された。
向社会性の各指標を従属変数,潜在クラスを独立変数とし,Asparouhov & Muthén(2012)の3段階法を用いた分析を実施した。その結果,クラス4の自己他者MSと視点取得がクラス2と3よりも,クラス4の共感的関心がクラス2よりも,クラス4と2の自己主張がクラス1よりも,クラス5と4の自己抑制が3より,クラス4の自己抑制が2よりも有意に高かった(ps<.05)。
吉澤他(2015)と同様に,包括的資源の高いクラスにおいて,向社会性の各指標が一貫して高いことが明らかとなった。今後は,エージェントクラスの規定因の検討や,クラス間移行者の向社会性の変化を検討する3時点以上の縦断調査が求められる。