The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD50] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(20)

担任教師の指導スタイルの変化が中学生の向社会性に与える影響

吉田琢哉1, 吉澤寛之2, 原田知佳3, 浅野良輔4, 玉井颯一5, 吉田俊和6 (1.岐阜聖徳学園大学, 2.岐阜大学大学院, 3.名城大学, 4.久留米大学, 5.名古屋大学大学院・日本学術振興会, 6.岐阜聖徳学園大学)

Keywords:社会化, 中学生, 指導スタイル

 児童生徒に対する教師の指導は,学習面だけでなく,子どもの社会性を育む上でも重要な役割を担っている(Wentzel, 2015)。教師の指導はP機能とM機能に大別され,教師がどちらの機能も発揮することが,授業態度や規律の遵守に影響することが示されてきた(三隅・矢守,1989;三隅ら,1977)。と同時に,複数の学習理論において,児童生徒のしつけや指導においては,称賛や叱責の仕方が一貫していることが重要であると仮定されている(Owen et al., 2012)。しかし,指導の一貫性を実証的に取り上げた研究は少ない。進級に伴って担任教師が変わることも多く,また同一教師でも学年に応じて指導スタイルが変わることもあり,児童生徒が異なる指導スタイルに直面する機会は少なくないだろう。学級内での規範が変化することで,望ましいふるまい方についての認識が不安定になり,社会性の習得が妨げられるおそれがある。そこで本研究では,中学生を対象に,学年が変わる前後での教師の指導スタイルの違いが生徒の向社会性にどのような影響を与えるかを検討する。
方   法
対象者 A県内の平均的な特徴を持つ1公立中学校に通う生徒285名(全9クラス)に対して,1年生時(2014年1月;Time 1)と2年生時(2015年1月;Time 2)に調査を行った。回答者の負担を考慮し,生徒に対する調査はTime 1では3回,Time 2では2回に分けて行った。Time 1とTime 2の調査すべてに回答した237名の中学生(男子122名,女子115名)を分析対象とした。
測定内容 Time 1とTime 2のいずれにおいても,下記の心理尺度への回答を求めた。(1) 教師リーダーシップ 三隅・矢守(1989)の尺度を用いた(22項目5件法)。配慮的指導,厳しい指導,生活・学習の指導,親近的指導の下位尺度を構成した。(2) 社会的スキル 東海林他(2012)の尺度から,他者理解スキル(4項目)と自己他者モニタリングスキル(5項目)の下位尺度を用いた(3件法)。(3) 共感性 長谷川他(2009)の尺度から,視点取得(9項目)と共感的関心(7項目)の下位尺度を用いた(5件法)。(4) 社会的自己制御 原田他(2008)の尺度を用い(29項目5件法),自己主張と自己抑制の下位尺度を構成した。
結果と考察
 Time 2での向社会性の各指標を目的変数,Time 1での当該変数を統制変数とし,Time 1およびTime 2の教師リーダーシップの各尺度得点とその交互作用項を説明変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した。その結果,配慮的指導はTime 1とTime 2の交互作用項が自己他者モニタリングスキルおよび視点取得に対して有意であった(βs=.126,.112,ps<.05)。±1SDを基準とした単純傾斜分析の結果,Time 1での配慮的指導高群においてのみ,Time 2の配慮的指導が自己他者モニタリングスキルに対して有意な正の影響を示した(Figure 1)。視点取得についても同様の結果であった。また,視点取得に対しては親近的指導もTime 1とTime 2との交互作用項も有意であり(β=.159,p<.01),配慮的指導と同様の傾向を示した。配慮的指導と親近的指導はM機能に相当する。このことから,1年生時にも2年生時にも一貫してM機能を発揮した指導を行うほど,相手や自分自身の気持ちに注意を向ける姿勢が促されることで,生徒の向社会性の発達に繋がると考えられる。
 厳しい指導は,Time 1とTime 2の交互作用項が自己主張に対して有意であった(β=-.123,p<.05)。単純傾斜分析の結果,Time 1の厳しい指導低群においてのみ,Time 2の厳しい指導が自己主張に対して正の影響を示した。厳しさの少ない担任教師から厳しい担任教師への変化に伴い,生徒がその状況に適応するために自己主張性を高めた可能性が考えられる。
 以上の結果より,一貫した指導を行うことの望ましさは指導の機能により異なることが示唆された。ただし本研究は1中学校の1学年のみを対象としているため,今後,複数の中学を対象に更なる検討を進める必要がある。