The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PD52] 一般成人(20-39歳)を対象にした介護職イメージの検討

坂井敬子1, 佐藤龍子#2, 須藤智#3 (1.静岡大学, 2.龍谷大学, 3.静岡大学)

Keywords:介護職, 人材像, ステレオタイプ

問題と目的
 社会における介護ニーズは高まるものの人手不足は深刻である。加えて,糠谷(2015)が指摘するように世間の業界に対するイメージは「辛い仕事」「介護の仕事に就く若い人は感心」など単純化され過ぎているきらいがあるだろう。このような単純化イメージは,職業選択を考える若年層に影響するだけでなく,介護の質を阻害する恐れがある。
 筆者ら(坂井・佐藤・須藤,2015)は介護職員30名を対象に,介護職人材像を表す複数のカテゴリーを得た。本研究では,その結果を基に「介護職人材像尺度」を作成し,一般成人(20-39歳)へのアンケートを基に,一般的な視点からみた介護職人材イメージを明らかにすることを目的とする。
方   法
 アンケート項目 坂井ら(2015)の結果を基に22カテゴリーを想定した47項目の「介護人材像尺度」を作成し,「『老人ホームにおける高齢者介護』は,一般的なレベルに比べて下記のことがどれくらい求められると思いますか?」と,「1:全く求められない」「2:一般的なレベルに比べればあまり求められない」「3:一般的なレベルと同程度に求められる」「4:一般的なレベルに比べるとやや強く求められる」「5:かなり強く求められる」の5段階で回答を求めた。その他属性項目。
 アンケート対象者と実施手続き 静岡県,愛知県,神奈川県いずれかに在住あるいは勤務の20-39歳,現在は介護関連の職に従事していない者を対象とし,株式会社日本能率協会総合研究所が調査を代行した(FAX調査)。実施期間は2015年12月。
【分析対象者】回収された319名の回答。年代:20代190,30代129。性別:男146,女173。居住地等:静岡47,愛知124,神奈川148。職業有無:なし117,あり202(専門・技術職48,事務職47,サービス職34,販売・営業職23,生産工程22,その他28)。
結   果
 全項目について,最尤法Promax回転による因子分析を行い,37項目からなる4因子を得た。
 第1因子には,「思いやりがある」「サービス利用者の様子を細やかに見る」「サービス利用者への声掛け・働きかけに積極的」「高齢者が好き」「一般的には嫌がられる仕事も業務の一部として受け止める」「常に笑顔」「人に尽くし世話をするのが好き」など13項目が該当した。属する項目は,概ね,介護職のステレオタイプを表していたため,この因子を《介護職ステレオタイプ》と命名した(α=.93,M=4.00)。
 第2因子には,「なぜこの職業を選んだのか他人に説明できる」「自分の職業の理念・考え方を理解する」「自分の知識やスキルの向上に積極的」「仕事にやりがいや誇りを見出す」など10項目が該当した。一般職業にも通じる意識の高さや積極性を表すと考え,《キャリア意識》と命名した(α=.87,M=3.40)。
 第3因子には,「サービス利用者の変化や異常に敏感」「自分のネガティブな気持ちをうまく消化できる」「他のスタッフと協調的に働く」など6項目が該当した。一般職業にも通じる,対人的対応力や状況対応力を表すと考え,《社会的対応力》と命名した(α=.77,M=4.08)。
 第4因子には,「ネガティブな表情を他者に見せない」「日常のやっかいごとをうまく割り切る」「自分とは違う他人の考え・やり方にうまく折り合える」など8項目が該当した。一般職業にも通じる対人・対自的な強さや安定を表すと考え,《社会的たくましさ》と命名した(α=.86,M=3.48)。
考   察
 第1因子《介護職ステレオタイプ》を構成する項目は,「思いやり」「細やかに」「声掛け・働きかけ」「高齢者が好き」「笑顔」といった,いわゆる介護職のステレオタイプ的項目が,構造化が不十分なまま1つの因子に集約されたといえる。
 坂井らにおける介護職員へのインタビューデータ(2015)では,積極的な声掛けや働きかけは感情制御との高い関連性が,また,高齢者や人が好きという対人的関心は介護職理解との高い関連性が示された。介護職員の認識においては,一般的にも知られた介護職ならではの特徴は,職業理念と結びつけられた形で構造化されていると示唆された。しかし,今回の結果は,対照的に構造化されておらず単純であるといえる。
 上記と関連深いと考えられるのが,本研究で得られた第2因子《キャリア意識》や第4因子《社会的たくましさ》が他因子に比べ低得点であったことである。その背景には,一般成人において,介護を職業の一つとして捉える認識の薄さがあるのではないか。
 介護業界の人材不足について,解消のためには賃金水準や勤務様態の改善が有効だとされるが(上野,2011),それと共に,「適正な」職業イメージの普及,経験を重ねるにつれ高まる専門性や誇りについての理解を促すことが,志望者に希望と矜持を与え,質の高い介護の持続的な提供に与するであろう。
付 記 この研究は,株式会社アルバイトタイムスからの委託を受けた受託研究の一環である。