[PD53] 運動部活動の中で社会的一体感をどのように体験するのか
高等学校女子バスケットボール選手を対象とした質的分析
Keywords:動機づけ, 社会的一体感, 重要なる他者
問題の所在
近年の動機づけ研究において,個人の動機や有能感が充足される課題が提供されたり,自律的な目標が設定されたとしても,それらを周囲の人とどのような関わりの中で遂行するのかによって,その人の動機づけは大きく影響されるのではないか,とする指摘がなされている。例えば,Ryan and Deci(2000)は自己決定理論において自律的動機づけの基本的な心理的欲求の中に「関係性」を位置づけており,他者との良好な関係性への欲求を指摘している。しかしながら,その具体的な内容は十分に示されてはいない。こうした対人関係性について,西田(2015)は「重要なる他者からの信頼と理解を持って,自分は暖かく受け入れられているという感覚」を「社会的一体感」と命名し,動機づけの鍵概念として位置づけた検討を試みている。
本研究では,こうした「社会的一体感」に関わる体験の詳細について,インタビューを通した質的分析によってその詳細を明らかにすることを目的とする。
方 法
平成26年2月から平成27年3月までの13ヶ月間にインタビュー調査が実施された。インタビューは,高等学校女子バスケットボール部に所属する選手10名を対象とし,対象者が高等学校での運動部活動の中で「社会的一体感をどのように感じ,どのような気持ちになり,その結果どのような行動となって表れたのか」に焦点をあて,深層的・半構造的・自由回答的調査面接(in-depth, semi-structured, open-ended interview)により実施した。分析は,Patton(2002)による定性的データ分析法に基づき,テキスト化されたインタビューデータに標題(tag)を付し,そこから126の意味内容要素(meaning units)を抽出し,最終的に72の意味単位を本研究における分析対象として行った。
結果および考察
発話データに含まれる文脈を考慮しながらより上位の共通する概念に括り6つのサブカテゴリーに分類した。これらをより広く抽象度の高いカテゴリーへと統合し,最終的に「安心感」,「役割感」及び「納得感」の3つのカテゴリーを作成した。
「安心感」のカテゴリーは,「信頼」及び「受容」のサブカテゴリーからなり,重要な他者との関係の中で感じる心的状態をさす。このカテゴリーを代表する発話データとして下記があげられる.
「練習では褒められたことでも叱られたことでも,みんなと一緒にその時の気持ちを分かち合ってるから,お互い信じ合える感覚があります」。(D)
「役割感」のカテゴリーは,共通の目標達成を目指し厳しい練習に没頭する中で,互いの立場を尊重し合う心的状態を示している。「期待」及び「支援」を代表する発話として下記があげられる。
「私自身が周りのみんなから期待されているっていう感覚は,どこか緊張感もあり,自分への納得感にもつながり,私は好きな感覚です」。(B)
「納得感」のカテゴリーは,「理解」及び「応答」の2つのサブカテゴリーからなり,更なる深い問いや支援的行動へと発展する態度あるいは行動傾向を示す。代表する発話として下記があげられる。
「みんなとならまだ一緒にやりたいし続けたいって思えるんです」。(G)
結 語
高校女子バスケットボール部員10名の社会的一体感は,「安心感」,「役割感」及び「納得感」という相互に有機的に関連し合う3つのカテゴリーにより構成され,それらが周囲との関わりの中で自ら作り上げた主体的な感覚によって展開される構造が示唆された。
付記:本研究は,科学研究費補助金・基盤研究(C)(No.26350714,代表者:西田 保)の補助による。
近年の動機づけ研究において,個人の動機や有能感が充足される課題が提供されたり,自律的な目標が設定されたとしても,それらを周囲の人とどのような関わりの中で遂行するのかによって,その人の動機づけは大きく影響されるのではないか,とする指摘がなされている。例えば,Ryan and Deci(2000)は自己決定理論において自律的動機づけの基本的な心理的欲求の中に「関係性」を位置づけており,他者との良好な関係性への欲求を指摘している。しかしながら,その具体的な内容は十分に示されてはいない。こうした対人関係性について,西田(2015)は「重要なる他者からの信頼と理解を持って,自分は暖かく受け入れられているという感覚」を「社会的一体感」と命名し,動機づけの鍵概念として位置づけた検討を試みている。
本研究では,こうした「社会的一体感」に関わる体験の詳細について,インタビューを通した質的分析によってその詳細を明らかにすることを目的とする。
方 法
平成26年2月から平成27年3月までの13ヶ月間にインタビュー調査が実施された。インタビューは,高等学校女子バスケットボール部に所属する選手10名を対象とし,対象者が高等学校での運動部活動の中で「社会的一体感をどのように感じ,どのような気持ちになり,その結果どのような行動となって表れたのか」に焦点をあて,深層的・半構造的・自由回答的調査面接(in-depth, semi-structured, open-ended interview)により実施した。分析は,Patton(2002)による定性的データ分析法に基づき,テキスト化されたインタビューデータに標題(tag)を付し,そこから126の意味内容要素(meaning units)を抽出し,最終的に72の意味単位を本研究における分析対象として行った。
結果および考察
発話データに含まれる文脈を考慮しながらより上位の共通する概念に括り6つのサブカテゴリーに分類した。これらをより広く抽象度の高いカテゴリーへと統合し,最終的に「安心感」,「役割感」及び「納得感」の3つのカテゴリーを作成した。
「安心感」のカテゴリーは,「信頼」及び「受容」のサブカテゴリーからなり,重要な他者との関係の中で感じる心的状態をさす。このカテゴリーを代表する発話データとして下記があげられる.
「練習では褒められたことでも叱られたことでも,みんなと一緒にその時の気持ちを分かち合ってるから,お互い信じ合える感覚があります」。(D)
「役割感」のカテゴリーは,共通の目標達成を目指し厳しい練習に没頭する中で,互いの立場を尊重し合う心的状態を示している。「期待」及び「支援」を代表する発話として下記があげられる。
「私自身が周りのみんなから期待されているっていう感覚は,どこか緊張感もあり,自分への納得感にもつながり,私は好きな感覚です」。(B)
「納得感」のカテゴリーは,「理解」及び「応答」の2つのサブカテゴリーからなり,更なる深い問いや支援的行動へと発展する態度あるいは行動傾向を示す。代表する発話として下記があげられる。
「みんなとならまだ一緒にやりたいし続けたいって思えるんです」。(G)
結 語
高校女子バスケットボール部員10名の社会的一体感は,「安心感」,「役割感」及び「納得感」という相互に有機的に関連し合う3つのカテゴリーにより構成され,それらが周囲との関わりの中で自ら作り上げた主体的な感覚によって展開される構造が示唆された。
付記:本研究は,科学研究費補助金・基盤研究(C)(No.26350714,代表者:西田 保)の補助による。