[PD59] 自己価値の随伴性と他者操作が抑うつに及ぼす影響
Keywords:自己価値の随伴性, 他者操作, 抑うつ
問題・目的
自己価値の随伴性(contingency of self-worth)とは,個人が特定の自己領域を価値づけている,もしくは自尊感情の源としている程度(Crocker & Wolfe,2001)である。これは自分の価値を特定の領域に随伴させることであり,例えば「学業」に対して固執的に自己価値を随伴させている場合,成績の善し悪しが,自尊心の変動を強力に規定することがあげられる。特に他者あるいは社会的な評価のように,自分自身の努力だけではコントロールが難しい外的領域に随伴させていると,慢性的に自尊心が不安定になり,適応性にも少なからず影響を与えることになる。
また,他者からの評価に注意が向きやすい個人は,自分の評価を下げないために印象を操作しようとする傾向を持つと推測される。これは,他者操作方略(Manipulation of others)と呼ばれ,自分の利益のために巧妙な手段で故意に他者に影響を与えたりコントロールしようとすること(寺島・小玉,2004)とされている。一般的には素直な形で他者に物事を頼むことができないゆえの自己隠蔽的な行動であるため,不適応的な側面を持つことが示唆されている。しかし,自己特性がどうであれ,他者から拒絶されるような場面を完全に避けることは不可能である。では他者評価を気にしている上に,他者操作を行う人々が拒絶場面に遭遇したとき,一体どのような対応方法が機能的あるいは非機能的なのであろうか。
本研究では,自己価値の随伴性と他者操作方略,そして対人関係コーピングの観点から,抑うつのあり方を実証的に検討することを目的とする。
方 法
A県内の大学生176名(男91名,女85名,M=19.6歳,SD=1.29歳)を対象に質問紙調査(場面想定法)を実施した。まず,自己価値の随伴性を測定するため,伊藤他(2006)による自尊源尺度の外的領域に該当する「友人とのつながり」「社会的な評価」「他者からの評価」の3下位尺度を使用した。9項目,5件法であった。そして,他者操作方略尺度(寺島・小玉,2004)では,「自己優越的感情操作」「自己優越的行動操作」「自己卑下的感情操作」「自己卑下的行動操作」の4下位尺度を使用した。21項目,6件法であった。その後,イラスト付のシナリオを提示し,同級生であるBさんが自分に対して強く当たっているが,その他の人々には一定の評価が担保されている状況(Bさんのみからの拒絶)を想定してもらった。そして,加藤(2000)を参考にした,Bさんに対して「ポジティブ関係」「ネガティブ関係」「解決先送り」の3種類全ての対人関係コーピングをとったと仮定して,その時に感じる抑うつをSRS-18(鈴木他,1997)の抑うつ・不安尺度6項目,4件法で回答を求めた。コーピング場面に関してはカウンターバランスを取り,3要因混合計画にて分析を行った。
結 果
分散分析を行った結果,友人とのつながり×自己優越的感情操作×対人関係コーピング,および社会的な評価×自己優越的感情操作×対人関係コーピングに有意な2次の交互作用が示された。下位検定の結果,前者では友人とのつながり随伴性高群かつ自己優越的感情操作高群で,ポジティブ関係とネガティブ関係よりも解決先送りコーピング群で高い抑うつ得点が示されていた。また後者では,社会的な評価随伴性高群かつ自己優越的感情操作高群で,ポジティブ関係よりも解決先送りコーピング群で高い抑うつ得点が示されていた。
考 察
自己価値を友人とのつながりの善し悪しに委ねており,なおかつ自分が頑張っている姿を認めてもらおうとアピールする方略を取りやすい人の場合,解決先送りコーピングを選択すると適応性が低下することが示唆された。これは,友人との良好な関係を保ちたい願いを持つことが,たとえ1人であっても拒絶に一定の反応を示し,その上で自分の態度を保留することが苦悩の悪化につながることを表している。このように,保留は結果的には回避的な意味を帯びており,何らかの決断を下すことが気分の落ち込みの悪化を防ぐことにつながることが推測された。また,同様に社会的な評価の場合も,解決先送りコーピングが苦悩の深化につながる可能性が示されていた。ただ,取捨選択が可能な友人関係と,それが困難な社会的評価における差異も見て取れ,領域によって有効性が微妙に異なる可能性が示唆されていた。
また,課題としては全コーピングが実施されたことが前提となっていたため,実際場面での選択しやすさには言及できないことがあげられる。
自己価値の随伴性(contingency of self-worth)とは,個人が特定の自己領域を価値づけている,もしくは自尊感情の源としている程度(Crocker & Wolfe,2001)である。これは自分の価値を特定の領域に随伴させることであり,例えば「学業」に対して固執的に自己価値を随伴させている場合,成績の善し悪しが,自尊心の変動を強力に規定することがあげられる。特に他者あるいは社会的な評価のように,自分自身の努力だけではコントロールが難しい外的領域に随伴させていると,慢性的に自尊心が不安定になり,適応性にも少なからず影響を与えることになる。
また,他者からの評価に注意が向きやすい個人は,自分の評価を下げないために印象を操作しようとする傾向を持つと推測される。これは,他者操作方略(Manipulation of others)と呼ばれ,自分の利益のために巧妙な手段で故意に他者に影響を与えたりコントロールしようとすること(寺島・小玉,2004)とされている。一般的には素直な形で他者に物事を頼むことができないゆえの自己隠蔽的な行動であるため,不適応的な側面を持つことが示唆されている。しかし,自己特性がどうであれ,他者から拒絶されるような場面を完全に避けることは不可能である。では他者評価を気にしている上に,他者操作を行う人々が拒絶場面に遭遇したとき,一体どのような対応方法が機能的あるいは非機能的なのであろうか。
本研究では,自己価値の随伴性と他者操作方略,そして対人関係コーピングの観点から,抑うつのあり方を実証的に検討することを目的とする。
方 法
A県内の大学生176名(男91名,女85名,M=19.6歳,SD=1.29歳)を対象に質問紙調査(場面想定法)を実施した。まず,自己価値の随伴性を測定するため,伊藤他(2006)による自尊源尺度の外的領域に該当する「友人とのつながり」「社会的な評価」「他者からの評価」の3下位尺度を使用した。9項目,5件法であった。そして,他者操作方略尺度(寺島・小玉,2004)では,「自己優越的感情操作」「自己優越的行動操作」「自己卑下的感情操作」「自己卑下的行動操作」の4下位尺度を使用した。21項目,6件法であった。その後,イラスト付のシナリオを提示し,同級生であるBさんが自分に対して強く当たっているが,その他の人々には一定の評価が担保されている状況(Bさんのみからの拒絶)を想定してもらった。そして,加藤(2000)を参考にした,Bさんに対して「ポジティブ関係」「ネガティブ関係」「解決先送り」の3種類全ての対人関係コーピングをとったと仮定して,その時に感じる抑うつをSRS-18(鈴木他,1997)の抑うつ・不安尺度6項目,4件法で回答を求めた。コーピング場面に関してはカウンターバランスを取り,3要因混合計画にて分析を行った。
結 果
分散分析を行った結果,友人とのつながり×自己優越的感情操作×対人関係コーピング,および社会的な評価×自己優越的感情操作×対人関係コーピングに有意な2次の交互作用が示された。下位検定の結果,前者では友人とのつながり随伴性高群かつ自己優越的感情操作高群で,ポジティブ関係とネガティブ関係よりも解決先送りコーピング群で高い抑うつ得点が示されていた。また後者では,社会的な評価随伴性高群かつ自己優越的感情操作高群で,ポジティブ関係よりも解決先送りコーピング群で高い抑うつ得点が示されていた。
考 察
自己価値を友人とのつながりの善し悪しに委ねており,なおかつ自分が頑張っている姿を認めてもらおうとアピールする方略を取りやすい人の場合,解決先送りコーピングを選択すると適応性が低下することが示唆された。これは,友人との良好な関係を保ちたい願いを持つことが,たとえ1人であっても拒絶に一定の反応を示し,その上で自分の態度を保留することが苦悩の悪化につながることを表している。このように,保留は結果的には回避的な意味を帯びており,何らかの決断を下すことが気分の落ち込みの悪化を防ぐことにつながることが推測された。また,同様に社会的な評価の場合も,解決先送りコーピングが苦悩の深化につながる可能性が示されていた。ただ,取捨選択が可能な友人関係と,それが困難な社会的評価における差異も見て取れ,領域によって有効性が微妙に異なる可能性が示唆されていた。
また,課題としては全コーピングが実施されたことが前提となっていたため,実際場面での選択しやすさには言及できないことがあげられる。