日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD63] 発達凸凹(いわゆる発達障害)支援におけるカウンセラーの役割

医療とのコラボで家族支援をする

高山智1, 北條愛#2 (1.青山学芸心理, 2.青山学芸心理)

キーワード:臨床, 家族支援, 発達障害

問   題
 筆者らの所属する青山学芸心理は,1996年の設立以来,カウンセリングの和語として「安談」という言葉を用い,日本人の文化や風土に合わせた心理相談を提供している。
近年の相談では,発達障害にまつわる案件が増えている。筆者らは,いわゆる軽度な発達障害を「発達の凸凹」と呼ぶ。それは,発達障害を持つ者に対しての支援を考える際に,これを病理として捉える観点が必ずしも具体的な支援にはつながらないと認識しているからである。
 「発達の凸凹」は,当事者の生まれつきの特性によって,本人のみならず,周囲の人間にも様々な困難を生させている。発達凸凹を持つ相談者(以下:凸凹さん)は,その特性が千差万別であるため,それぞれの特性に合わせた支援が必要となる。また,支援の前提になるのは,それぞれの特性に対する家族の理解と,凸凹さんを取り巻く周囲の支援者の協力である。
 近年の発達障害研究では,凸凹さんへの支援の方略として,学習方法の考案や支援ツールの作成などの蓄積は多くされているものの,支援の中核を担う「家族」に対する,具体的な支援方法の研究は少ない。とくに医療機関と協働しながら家族を支援するのは,当事者にとって非常に重要である。
目   的
 本研究では,凸凹さんと,その支援者たる周囲の家族と医療機関との間に立つカウンセラーの役割について論じる。その際,カウンセラーの立ち位置および相談実践が家族にとって大きな安心感につながったケースを紹介する。
 パネル発表においては,知能検査結果の解釈から生まれた具体的な家庭の支援や,投薬状況にカウンセラーの見解がどのように生かされたかを示す。
事例紹介
ケース①「学校での不適応症状から児相預かりの中学生女子が落ち着いて特別支援学級に通うまで」
 両耳に難聴があることから,語彙や理解が不足し,聞こえない分,被害妄想や社会不安が起きて,逃亡。児相預かりになるも,特別支援学級に移ると同時に,カウンセラーのいる学習塾で特性に合わせた教科指導をうけ,さらに,投薬をうけて,家庭でも学校でも落ち着きをみせた。
ケース②「通院中の診療所を,遠くても話を聞いてもらえる診療所に変えた中学生男子」
視覚優位であることから目に入る情報から混乱が起きやすいのを,家庭では,視覚を遮断するついたての使用,そして,本人の集中力を維持するために薬物治療を開始した。親としては,息子の話をきいてくれる医師を求めていたので,遠距離にはなるが,話を聞いてくれる医師を紹介。頭痛の訴えも脳神経の医療を紹介するなど,処方も変更できた。
ケース③「幻聴に10年苦しむ27歳男性に9回目の入院を勧める」
幻聴による苛立ちをおさえるために限界まで投薬を受けていたが,どの薬が効いているかを調べるために,入院を勧めた。9回目の入院となるので,入院中の両親の対応や,安談手の病院訪問などの手立てを講じて,家族が安心できる支援をした。
考   察
 凸凹さんには,実際の生活場面でできないことがあると,「どうしてできないのか」と叱責の対象になることも多い。また家族だけでは,本人の特性によっておこる反応を専門的にとらえきれない。だから,本人と家庭,家庭と医療機関の間に立つことで,カウンセラーが,凸凹さんの社会的資源の開発と調整の役割を果たすことができることが明らかになった。