The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PD(65-89)

ポスター発表 PD(65-89)

Sun. Oct 9, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PD65] E-S理論からみた大学生の無気力の質の検討

大学生の活動領域別の意欲低下の差異

西田敬志1, 川田裕次郎2, 広沢正孝#3 (1.順天堂大学, 2.順天堂大学大学院, 3.順天堂大学大学院)

Keywords:大学生, 無気力, E-S理論

目   的
 大学生は活動領域が多岐に分かれることで,様々な場面を経験するが,しばしば学生生活で無気力を示すことは少なくない。具体的には大学の授業には出席しないが,その他の活動には参加したりすることや抑うつなどの症状から1日,自宅で過ごし,大学に来ないといった生活全般の無気力を示すことなどであり,学生生活で起こる無気力は部分的なものから生活全般に及ぶものまで,個人によってその症状は様々である。
 一方でこの学生生活における無気力の背景には,大学という教育システムへの適応が関与している可能性がある。この適応には,個人の生得的な性質の関与が存在する可能性があるが,これまでこの点に注目した研究はほとんど存在しない。
 ここで,その生得的な性質を説明する理論としてE-S理論(Empathizing‐Systemizing Theory; Baron-Cohen et al., 2003)がある。この理論では,個人の認知スタイルを「共感化」と「システム化」の2次元の座標から「Extreme Type E」「Type E」「Type B」「Type S」「Extreme Type S」の5類型にしており,「Type E」の傾向が強ければ共感化の傾向が強く,「Type S」の傾向が強ければシステム化の傾向が強い。
 そこで,本研究では,大学生で活動する場面ごとに,意欲低下の程度について測定し,E-S理論を用いて検討することを目的とする。
方   法
1,対象:首都圏にある大学に在学する大学生245名(男性127名,女性118名,平均年齢:20.48,SD:0.60)
2,期間:2015年7月初旬
3,質問紙の構成:(1)対象者の属性:性別,学年,年齢等からなる。
(2)共感指数(Empathy Quotient以下EQ; Baron-Cohen et al., 2002)とシステム化指数(Systemizing Quotient以下SQ; Baron-Cohen,2002): E-S理論を基に作成された2つの尺度は,他者の感情や行動に注目しそれを予測する動因を測定する「共感指数」と物的な規則性や構造・動きへの興味と傾倒する傾向を測定する「システム化指数」であり,いずれもそれぞれの内容を示す60項目(ダミー項目20項目)から成る。5類型の分類方法については,Baron-Cohen(2003)を参考に分類し,「Extreme Type E」「Type E」「Type B」「Type S」「Extreme Type S」の5類型とした。
(3)意欲低下領域(Passivity Area Scale; 以下PAS: 下山,1995)鉄島(1993)のアパシー傾向測定尺度を基に作られ,意欲低下が生じる場面を大学生の生活領域で分け,領域ごとに意欲低下を測定する尺度である。その下位尺度は,授業場面における意欲低下(以下;授業意欲低下),学業場面における意欲低下(以下;学業意欲低下),大学生活場面における意欲低下(以下;大学意欲低下)の3領域であり,各領域5項目,計15項目で構成される。
結果・考察
 まず,Baron-Cohen(2003)に従ってEQ,SQの得点からそれぞれを5類型化し,PAS全体とPASの下位尺度である「学業意欲低下」「授業意欲低下」「大学意欲低下」のそれぞれの得点について,Kruskal-Wallis検定を行い,事後検定として多重比較(Steel-Dwass法)を行った(Table 1)。
 その結果,PASの下位尺度である「授業意欲低下」において有意差が見られ,「Extreme Type E」よりも「Type E」「Type B」「Extreme Type S」の方が有意に高く,その他の下位尺度では有意差は見られなかった。共感化が高いことは授業場面で意欲低下(朝寝坊などで授業に遅れることが多い,授業に出る気がしないなど)を起こさない有効な認知スタイルであることが考えられる。しかし,「Extreme E」にとって,授業そのものに対するイメージや捉え方がその他の認知スタイルとは異なる可能性がある。授業の内容よりもそこで教授する「人」,出席する「人」への興味が先行しており,学習の場というよりも社交場となっていることを考慮する必要があると考えられる。