[PD89] ASD傾向学生のための就業力尺度の作成(3)
見通し力が就業力に及ぼす影響
キーワード:就業力, 見通し力
目 的
大学生のなかには,学業には問題はないが,対人関係能力が低く,場の理解,時間的組み立てに困難を示す自閉症スペクトラム障害(以下ASD)傾向の学生がいることが報告されている。肥田ら(2015)は,将来就業や社会的自立が困難となる可能性の高いASD傾向の学生をスクリーニングするために,見通し力尺度を開発した。また,一連研究(1)(2)では,ASD傾向生徒のための就業力尺度を作成し,信頼性について検証を行ってきた。
本研究では,ASD傾向学生のための見通し力尺度が,ASD傾向学生のための就業力尺度に及ぼす影響について調査することで,構成概念妥当性について検証を行うことを目的とした。
方 法
調査時期と対象:2015年6月に大学1~4年生318名(男子153名,女子164名,性別不明者1名)を調査対象とした。
調査内容:一連研究(1)の因子分析結果をもとに抽出された就業力尺度の下位尺度である長所や適正を把握する力7項目,就労をイメージする力7項目,前に踏み出す力7項目,計21項目を用いた。妥当性を検証するために,見通し力尺度(肥田ら,2015)の下位尺度である時間的予測力8項目,場の理解力6項目,感情推察力7項目を用いた。回答は「そうである」~「そうではない」(1点-4点)の4件法で求めた。
結 果
就業力尺度と見通し力尺度の相関について算出した(Table 1)。その結果,就業力尺度(長所や適正を把握する力・就労をイメージする力・前に踏み出す力)と見通し力尺度(時間的予測力・場の理解力・感情推察力)において,概ね有意な正の相関が見られた。
続いて,就業力に及ぼす見通し力の影響について検証を行うために,見通し力尺度を基準変数,見通し力尺度を説明変数とする重回帰分析を実施した(Table 2)。その結果,長所や適性を把握する力は,時間的予測力が有意な正の影響力を示していた。就労をイメージする力は,時間的予測力と感情の推察力が有意な正の影響を示していた。前に踏み出す力は,時間的予測力と場の理解力が正の影響力を示していた。
考 察
本結果より,見通し力は就業力に影響を与えていることが明らかとなった。すなわちASD傾向を持ち見通し力が低い生徒については,就業力も低い可能性が示唆された。そのため,就業力尺度の構成概念妥当性が概ね支持されたと考えられる。今後は,就業力尺度を用いてASD傾向が高い学生を就職面でどのように支援していくかについて検討を行う必要がある。
本研究はJSPS科学研究費(基盤研究C, 25381147)の助成を受けたものです。
大学生のなかには,学業には問題はないが,対人関係能力が低く,場の理解,時間的組み立てに困難を示す自閉症スペクトラム障害(以下ASD)傾向の学生がいることが報告されている。肥田ら(2015)は,将来就業や社会的自立が困難となる可能性の高いASD傾向の学生をスクリーニングするために,見通し力尺度を開発した。また,一連研究(1)(2)では,ASD傾向生徒のための就業力尺度を作成し,信頼性について検証を行ってきた。
本研究では,ASD傾向学生のための見通し力尺度が,ASD傾向学生のための就業力尺度に及ぼす影響について調査することで,構成概念妥当性について検証を行うことを目的とした。
方 法
調査時期と対象:2015年6月に大学1~4年生318名(男子153名,女子164名,性別不明者1名)を調査対象とした。
調査内容:一連研究(1)の因子分析結果をもとに抽出された就業力尺度の下位尺度である長所や適正を把握する力7項目,就労をイメージする力7項目,前に踏み出す力7項目,計21項目を用いた。妥当性を検証するために,見通し力尺度(肥田ら,2015)の下位尺度である時間的予測力8項目,場の理解力6項目,感情推察力7項目を用いた。回答は「そうである」~「そうではない」(1点-4点)の4件法で求めた。
結 果
就業力尺度と見通し力尺度の相関について算出した(Table 1)。その結果,就業力尺度(長所や適正を把握する力・就労をイメージする力・前に踏み出す力)と見通し力尺度(時間的予測力・場の理解力・感情推察力)において,概ね有意な正の相関が見られた。
続いて,就業力に及ぼす見通し力の影響について検証を行うために,見通し力尺度を基準変数,見通し力尺度を説明変数とする重回帰分析を実施した(Table 2)。その結果,長所や適性を把握する力は,時間的予測力が有意な正の影響力を示していた。就労をイメージする力は,時間的予測力と感情の推察力が有意な正の影響を示していた。前に踏み出す力は,時間的予測力と場の理解力が正の影響力を示していた。
考 察
本結果より,見通し力は就業力に影響を与えていることが明らかとなった。すなわちASD傾向を持ち見通し力が低い生徒については,就業力も低い可能性が示唆された。そのため,就業力尺度の構成概念妥当性が概ね支持されたと考えられる。今後は,就業力尺度を用いてASD傾向が高い学生を就職面でどのように支援していくかについて検討を行う必要がある。
本研究はJSPS科学研究費(基盤研究C, 25381147)の助成を受けたものです。