[PE05] 絵本の読みの熟達化と前頭前野機能の側性化
近赤外線分光法を用いた検討
キーワード:絵本の読み合い, 熟達化, 近赤外線分光法
問題と目的
こどもたちは発達の初期から絵本と関わる機会が多く,養育や保育などの日常場面でも絵本の読み合い活動は頻繁に行われる。これらの読み合い活動は,「読み手」と「聞き手」の日常的な関係を基盤として行われることが多いが,洗練された読み手は関わりが少ないこどもたちに向かって読むときにも,絵本の世界に引き込もうと,こどもたちにさまざまな形でシグナルを送る。聞き手であるこどもたちは,そのシグナルを読み取って,絵本の場面にふさわしい行為で返し,読み手と聞き手の間でやりとりが生まれる。
本研究では,読み手と聞き手の関係性(やりとり)を促進する要因の一つとして,読み手が絵本を読む過程とその熟達化に注目した。とりわけ,読みあい経験が豊富な読み手では,声の抑揚などをつけて絵本の場面をこどもたちに伝えようと試みることが予想される。
言語の発話には左前頭前野腹外側領域のブローカ野が関連することが知られている。一方,ブローカ野対側の右前頭前野腹外側領域は,先行研究で声に抑揚をつけた条件で活動が亢進することが報告されている。また,これら言語の発話に関連する左右の前頭前野は,発話へのリソースが減少していくと,左半球に側性化されていくことも報告されており,これらの側性化から絵本の読みの熟達化に迫れるのではないかと考えた。
そこで,熟達者と非熟達者における絵本読みの過程の違いを検討するため,近赤外線分光法を用いて脳血流計測を実施し,脳活動とその側性化の様相から絵本の読みの熟達化を検討することを本研究の目的とした。
方 法
対象者:絵本読みの熟達者11名,および未熟達者11名を対象とした。
実験刺激と条件:本研究では,絵本の『ころころころ』を実験刺激に使用した。同絵本は,小さな玉がさまざまな場所を転がっていく様子が描かれており,対象者にはこの絵本を読み聞かせるよう求めた。また,統制条件として「あいうえお」や「かきくけこ」などの無意味な言葉が各ページに書かれた絵本も設けた。なお,実物の絵本と統制条件の各絵本には,白色背景に注視点の「×」が書かれた表紙を設けた。
実験パラダイム:熟達者と未熟達者の各対象者には,絵本を「目の前にこどもたちがいると思って」読み聞かせを行うよう求めた。実験では,約30秒の開眼安静を挟み,見開き2ページの絵本の読みを5回繰り返すよう求めた。また,統制条件として無意味発話(あいうえお等)が書かれた絵本を読む条件も設けた。
脳血流計測:脳血流計測には,島津製作所製NIRS(OMM-3000)を使用した。2×2のホルダ4つ用意し,ホルダの下段後方が国際10-20法のF5/6になるようにして左右前額部に,また同Pzを基準として左右側頭部にホルダ1枚ずつ配置した。
結果と考察
本研究では,熟達した読み手と未熟達な読み手の脳活動の違いをとらえるため,絵本の読み合いを行っている際の脳活動を計測した。その結果,熟達者が絵本を読み聞かせている際には,左右前頭前野において統制条件よりも有意な脳血流増大が認められた。一方,未熟達者が絵本を読んでいるときにも,左前頭前野では統制条件より有意な脳血流増大が認められたが,右前頭前野では有意差は認められなかった。
左前頭前野には,発話や言語理解に関連するブローカ野があることが先行知見で明らかにされている。そのため,本研究においても絵本内の意味ある語の発話にともない,熟達者と未熟達者で左前頭前野の活動が亢進していたものと考えられる。
一方,右前頭前野は,熟達者では活動していたが,未熟達者では有意な活動亢進は認められなかった。先行知見では,右前頭前野は抑揚をつけて発話するときに活動し,エフォートフル・スピーチ(努力性の発話)に関連することが指摘されている。絵本の読み合い経験豊富な読み手は,こどもたちを楽しませようと声の抑揚やピッチなどを随時調整しながら読み進めるため,抑揚や努力性の読みに関連する右前頭前野の活動が亢進したものと推察される。
そこで,熟達者と左右前頭前野の関連を調べるために,ラテラリティ・インデックスを求め,年齢との相関係数を算出した。その結果,相関係数は0.55で有意な相関が認められ,年齢が低いときには左右前頭前野の活動に差はないが,年齢が上がるとともに左前頭前野優位な脳活動に変化していた。これらのことから,若いときほど絵本を読むときに抑揚などの技術的な読みの側面に注意を払いながら読むが,年齢とともに読みの技術的な側面は自動化されていくために,左前頭前野の活動に収束されていったものと推察される。
こどもたちは発達の初期から絵本と関わる機会が多く,養育や保育などの日常場面でも絵本の読み合い活動は頻繁に行われる。これらの読み合い活動は,「読み手」と「聞き手」の日常的な関係を基盤として行われることが多いが,洗練された読み手は関わりが少ないこどもたちに向かって読むときにも,絵本の世界に引き込もうと,こどもたちにさまざまな形でシグナルを送る。聞き手であるこどもたちは,そのシグナルを読み取って,絵本の場面にふさわしい行為で返し,読み手と聞き手の間でやりとりが生まれる。
本研究では,読み手と聞き手の関係性(やりとり)を促進する要因の一つとして,読み手が絵本を読む過程とその熟達化に注目した。とりわけ,読みあい経験が豊富な読み手では,声の抑揚などをつけて絵本の場面をこどもたちに伝えようと試みることが予想される。
言語の発話には左前頭前野腹外側領域のブローカ野が関連することが知られている。一方,ブローカ野対側の右前頭前野腹外側領域は,先行研究で声に抑揚をつけた条件で活動が亢進することが報告されている。また,これら言語の発話に関連する左右の前頭前野は,発話へのリソースが減少していくと,左半球に側性化されていくことも報告されており,これらの側性化から絵本の読みの熟達化に迫れるのではないかと考えた。
そこで,熟達者と非熟達者における絵本読みの過程の違いを検討するため,近赤外線分光法を用いて脳血流計測を実施し,脳活動とその側性化の様相から絵本の読みの熟達化を検討することを本研究の目的とした。
方 法
対象者:絵本読みの熟達者11名,および未熟達者11名を対象とした。
実験刺激と条件:本研究では,絵本の『ころころころ』を実験刺激に使用した。同絵本は,小さな玉がさまざまな場所を転がっていく様子が描かれており,対象者にはこの絵本を読み聞かせるよう求めた。また,統制条件として「あいうえお」や「かきくけこ」などの無意味な言葉が各ページに書かれた絵本も設けた。なお,実物の絵本と統制条件の各絵本には,白色背景に注視点の「×」が書かれた表紙を設けた。
実験パラダイム:熟達者と未熟達者の各対象者には,絵本を「目の前にこどもたちがいると思って」読み聞かせを行うよう求めた。実験では,約30秒の開眼安静を挟み,見開き2ページの絵本の読みを5回繰り返すよう求めた。また,統制条件として無意味発話(あいうえお等)が書かれた絵本を読む条件も設けた。
脳血流計測:脳血流計測には,島津製作所製NIRS(OMM-3000)を使用した。2×2のホルダ4つ用意し,ホルダの下段後方が国際10-20法のF5/6になるようにして左右前額部に,また同Pzを基準として左右側頭部にホルダ1枚ずつ配置した。
結果と考察
本研究では,熟達した読み手と未熟達な読み手の脳活動の違いをとらえるため,絵本の読み合いを行っている際の脳活動を計測した。その結果,熟達者が絵本を読み聞かせている際には,左右前頭前野において統制条件よりも有意な脳血流増大が認められた。一方,未熟達者が絵本を読んでいるときにも,左前頭前野では統制条件より有意な脳血流増大が認められたが,右前頭前野では有意差は認められなかった。
左前頭前野には,発話や言語理解に関連するブローカ野があることが先行知見で明らかにされている。そのため,本研究においても絵本内の意味ある語の発話にともない,熟達者と未熟達者で左前頭前野の活動が亢進していたものと考えられる。
一方,右前頭前野は,熟達者では活動していたが,未熟達者では有意な活動亢進は認められなかった。先行知見では,右前頭前野は抑揚をつけて発話するときに活動し,エフォートフル・スピーチ(努力性の発話)に関連することが指摘されている。絵本の読み合い経験豊富な読み手は,こどもたちを楽しませようと声の抑揚やピッチなどを随時調整しながら読み進めるため,抑揚や努力性の読みに関連する右前頭前野の活動が亢進したものと推察される。
そこで,熟達者と左右前頭前野の関連を調べるために,ラテラリティ・インデックスを求め,年齢との相関係数を算出した。その結果,相関係数は0.55で有意な相関が認められ,年齢が低いときには左右前頭前野の活動に差はないが,年齢が上がるとともに左前頭前野優位な脳活動に変化していた。これらのことから,若いときほど絵本を読むときに抑揚などの技術的な読みの側面に注意を払いながら読むが,年齢とともに読みの技術的な側面は自動化されていくために,左前頭前野の活動に収束されていったものと推察される。