The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PE07] 仲間の違反の報告に対する児童の認識

仲間への罰の予期が与える影響の検討

楯誠 (名古屋経済大学)

Keywords:真実の報告, 罰の予期, 善悪判断

問題と目的
 本研究は,真実を報告することに対する児童の認識を明らかにするものである。特にここでは,違反をした仲間を教師に報告すること,に対する認識を取り上げる。Wagland & Bussey(2005)は,他者の違反の報告に対する子どもの認識に,罰の予期と真実を報告することへの激励が与える影響について,ストーリー課題を用いた研究を行っている。またTalwar,Arruda & Yachison(2015)の研究では,子どもは軽い違反をすること(見てはいけない玩具を覗き見ること)を誘導され,その後実験者に違反をしたかを尋ねられる実験状況が設定された。そこで実験者によって示された罰の予期が,真実の報告に与える影響が検討されている。これらの研究で扱われていたのは,真実の報告をすることと報告者自身への罰の予期との関連性であった。本研究では,真実の報告が他者(仲間)の罰をもたらすと予期される状況が,真実の報告に対する児童の認識に与える影響を検討する。
方   法
調査対象 公立小学校に通う6年生83名(平均年齢11.89歳 男子46名,女子37名)
課題内容 主人公がクラスメイトの違反(図書室の本を破る,廊下のポスターを破る)を目撃し,その後教師から誰が行ったか質問を受けるストーリー課題が用いられた(楯,2015)。仲間への罰の予期要因(被験者内要因として設定)として,教師が主人公に違反者について質問した後に,違反者を罰することを伝える罰あり条件(「その子のことを,叱らないといけませんね」)と,罰しないことを伝える罰なし条件(「その子のことを,叱ったりしませんよ」)の2条件が設定された。
質問内容 以下の質問が設定された。
(1)真実報告の予測質問 主人公が違反したクラスメイトを教師に告げると思うかを,「言うと思う」「言わないと思う」の2件法で尋ねた。
(2)真実報告の選択質問 調査対象者に,もし自分が主人公ならば違反したクラスメイトを教師に報告するかを尋ねた。選択肢は予測質問と同様であった。
(3)善悪判断質問 主人公が教師に違反したクラスメイトを報告した場合と,報告しなかった場合(報告の要因)について善悪判断をさせた。選択肢は「とても悪い」から「とても良い」の7件法であった。
調査手続き 質問紙による調査を実施した。
結   果
真実報告の予測 集計の結果,罰あり条件で「言うと思う」と回答した児童は61.4%(51名),罰なし条件では77.1%(64名)であった。それぞれ二項検定を行ったところ,両条件において「言うと思う」と回答した者が有意に多かった。(罰あり条件,p<.05;罰なし条件,p<.01,いずれも両側検定)。条件間の回答を比較するためにMcNemar検定を実施したところ,有意差が確認された(p<.05,両側検定)。罰なし条件に比べて,罰あり条件において「言うと思う」と回答した者の比率が低いことが明らかになった。
真実報告の選択 回答を集計したところ,罰あり条件で44.6%(37名),罰なし条件では57.8%(48名)の児童が「言うと思う」と回答した。それぞれの条件に対し二項検定を行ったが,有意差は得られなかった。条件間の回答の比較するためのMcNemar検定を行った結果,有意差が得られた(p<.05,両側検定)。予測質問と同様に,罰なし条件に比べて,罰あり条件で「言うと思う」と回答する者の比率が低いことが示された。
善悪判断 仲間への罰の予期(罰あり,罰なし)×報告(「報告した」,「報告しなかった」)の被験者内2要因分散分析を行ったところ,報告の主効果のみが有意であった(F(1,82)=51.76,p<.01)。違反をしたクラスメイトを教師に報告したほうが,報告しないよりも良いと児童は判断していた。仲間への罰の予期は,善悪判断に関与していなかった。
考   察
 主人公の真実報告の予測,および調査対象者の真実報告の選択の両方について,仲間への罰の予期による差が見られた。仲間への罰が予期される状況では,予期されない状況と比べて真実の報告が抑制される,と児童は認識していることが明らかになった。この差が生じた理由として,主人公(および調査対象者)の報告によって引き起こされる仲間への罰が,最終的に主人公(および調査対象者)にとってのネガティブな出来事につながる(仲間からの報復など),という判断を生じさせたのかもしれない。そして,ネガティブな出来事を避けるために,真実の報告を抑制するという予測や選択に至った可能性が考えられる。