日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE10] 空間学習とその情報源に反復検索がもたらす影響

境界知能領域の幼児への効果

堀田千絵1, 多鹿秀継2 (1.関西福祉科学大学, 2.神戸親和女子大学)

キーワード:空間学習, 境界知能領域の幼児, 反復検索

問題と目的
 幼児に有効な記憶方略については符号化段階の検討が多い。体制化といった方略の使用については状況に依存した結果が多く,必ずしも幼児に有効な方略とはいえない。このような中,定型発達児に対して反復検索を行うように求めると,無理なく課題に適応でき,かつ保持が高まること,また当該情報への疑問を誘発する可能性があるといった先行知見がみられる(例えば,堀田,2015)。本研究は,第1に,境界知能領域にある幼児の空間学習においても有効かどうか検討すること,第2に,学習の情報源に関する正確さに検索がどのように影響するか検討することとする。小学校との接続が課題になる中,境界知能領域の幼児は一定数存在し,生活適応の基盤となる空間認識の定着に有効な記憶方略を特定することは重要なテーマだと考えられる。
方   法
 実験参加者 幼児27名(5歳~6歳)であり,13名が境界知能群,14名が一般知能群であった。田中ビネー式知能検査を実施し,70から85のIQを示した幼児を前者,95以上のIQを示した幼児を後者に割り当てた。
 実験計画 2(群:境界群/一般群)×2(習得条件:学習/検索)×3(保持間隔条件:確認/5分後/3時間)であり,第1要因のみ参加者内計画であった。
 材料及び手続き 幼児には,「元あった場所におもちゃや持ち物をきれいに片つけるゲーム」と称し,保育室の机に,6個のオモチャ(例えば,帽子)を正しく置くことができるかどうかを一緒に行うことを教示した。初回学習時は,6個のオモチャが保育室のどの場所にあるかを学習させた。その後,場所を正しく学習できているかを確認するために,6個の置き場所がどこにあるか指をさして示すように求めた(確認テスト)。その後,6個のうち,6個は検索条件,残り半数は学習条件とした。検索条件の場合は,幼児に対象物を渡し,置きに行くように教示した。正解,不正解にかかわらず,正しい置き場所を教えた。学習条件の場合は,実験参加者が誘導し,対象物を持って置きに行くのに着いてくるよう促した。その後,5分後,3時間後に再生テストを実施した。テスト材料として,学習項目6つ,未学習項目2つ(e.g.,スプーン,コップ,ねんど)の計8項目を用意した。これら2項目についてどこに置いてあったか置きに行くように求めた。正しい場所に置きに行けた場合,誰にその場所を教えてもらったか(正解は,実験者)を尋ねた。
結果と考察
 (1)保持について 2(群:境界群/一般群)×2(習得条件:学習/検索)×3(保持間隔条件:確認/5分後/3時間)の分散分析を実施したところ,習得条件(p < .01)および保持間隔(p < .01)の主効果,習得条件と保持間隔条件の交互作用(p < .01)が有意であり,群に関する効果はみられなかった。主な結果としては,群にかかわらず,確認テストよりも,5分後と3時間後の成績が学習条件のみで成績低下がみられたが,検索条件では差がなかった。
 (2)情報源に関して 2(群:境界群/一般群)×2(習得条件:学習/検索)×2(保持間隔条件:5分後/3時間)の分散分析を実施したところ,習得条件の主効果のみ有意であった(p < .05)。すなわち,検索条件においてのみ,群や保持間隔にかかわらず,誰から置き場所を教えてもらったか(実験者)といった情報源に関して正確に報告できることがわかった。
総合考察
 本研究の結果から,境界知能領域にある幼児の空間学習においても一般の幼児と同様に検索が有効であり,学習の情報源においても検索によって正確さが増すことが明らかになった。本研究のような,移動を伴う空間学習は単なる場所の記憶だけでなく,数や空間に関する力とも密接に関係する。また,言語対象の場合と異なる影響をもつため,今後更なる研究の蓄積が必要である。
総合考察
堀田(2015).特殊教育学研究,53,143-154.