日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 展示場 (1階展示場)

[PE11] 寄り添う援助行為についての一考察

5歳児M児が仲間に入れてもらえない場面事例から

栗原ひとみ1, 佐々木宏之2 (1.植草学園大学, 2.新潟中央短期大学)

キーワード:保育, 言葉かけ, 寄り添う

問題と目的
 保育者の専門性の中に,寄り添うという保育行為がある。保育所保育指針には,「子どもが安心感と信頼感を持って活動できるよう,子どもの主体としての思いや願いを受け止めること」とあり,子どもの主体性を尊重した,子どもに寄り添う保育がめざされている。しかしこれまで,子どもに寄り添うときの,何に,どのようにして,どのくらい寄り添うのかということについて,具体的な指針が示されたことはない。そこで本研究では,子どもに寄り添う際に駆使される援助行為について,一事例を丹念に分析することで,保育者の「寄り添う技術」の一端を明らかにする。
方   法
対象:新潟県内保育所5歳児女児A児とクラス担任B先生
観察日:2015年3月2日午前9時~12時
記録方法:ビデオカメラによる音声と映像の記録
分析の方法:ビデオ録画から音声を抽出し逐語録を作成した。B先生がA児とかかわる21場面を抽出し,場面ごとのB先生の援助行為を記述,分析した。
結果と考察
 21場面は以下のように,さらに4つの段階に分類された。
第一段階 状況の把握
 まず状況を確認し,それぞれの子どもの主張に耳を傾ける。ここで特徴的なのはA児に遊びたい理由を聞く時も,A児を遊びに入れない他児の理由を聞く時も身体を接触させている点である。A児と他児の間に自らの身体を間に差し込んで,意見や気持ちがすれ違う子どもを文字通り,身体で繋ごうとしている。
 また,他児に理由を問う場面では,他児の理由をA児に聞かせる援助がなされている。A児自らその理由に向き合って考えてほしいというB先生の援助の基本姿勢を示している。同時に,他児にもA児の気持ちを聞かせて,子ども同士が考え合う機会を用意している。A児や他児なら,自分たちで調整できるのではないかというB先生の見通しが伺える。
第二段階 課題の把握
 調整はしたが,A児は遊びに入ることはできなかった。A児の真意を引き出そうとする援助から,A児は「友だちとカルタではなくトランプがやりたい」ということが確認できた。今カルタで遊んでいる友だちとトランプをするには友だちの合意が必要となるが,A児にはその課題が理解できていない。
第三段階 援助する方向の見極め
 A児は「友だちとトランプで遊びたい」思いをもっているが,実現できずにいる。しかし,それは友だちと合意形成する先に展開されるというB先生の見通しがあるため,B先生の援助は,A児が希望を実現するためには課題があること(友だちとの合意形成)に気がつけるよう導くことであった。そのために,まずは今なされている遊びを友だちと夢中になって遊ぶ過程を経る必要があると予測し,遊びの場を離れずにA児と居続けた。
第四段階 援助と試行錯誤の繰り返し
 B先生はA児の思いの実現だけを目指しているのではない。友だちとの遊びの延長でA児が自己を表現し,充実して遊ぶことで社会性を身につけることを目指している。この目標へ向け,B先生の援助とA児の試行錯誤の繰り返しがなされる。
 以上の援助行為で見られる,援助技術のバリエーションを記述,分類を行っている。さらに,B先生がA児に対して行った援助行為の全体像を俯瞰し,B先生が持っている保育者としての寄り添う技術の構成を考察している。詳細は当日の発表にて報告する。