[PE16] 幼児の実行機能と他者感情理解
Keywords:実行機能, 他者感情理解, 幼児
目 的
幼児期は認知能力,社会性ともに大きく発達する時期である。他者と効果的に関わるためには他者の感情や意図・信念等を理解することが必要である。このうち,他者の意図や信念についての理解は心の理論に関する研究が数多くなされてきたが,島(2015a)は他者の感情の理解が心の理論の獲得を促進することを報告している。また,他者の感情や意図・信念等に思いを巡らすためには,実行機能(自身の思考や感情の活性化を抑制し,他者のそれへと切り替える能力)の発達が必要である(小川・子安,2008; 島,2015b)。
そこで,本研究では実行機能の下位機能のうち葛藤抑制(適切な反応をするために優勢な反応を抑制する能力)とワーキングメモリ(情報を保持し,必要なときにその情報を活性化させる能力)の2側面に着目し,実行機能が他者感情理解に及ぼす影響について検討する。
方 法
実験参加者:A県内の幼稚園に通う年少児19名,年中児35名,年長児35名を対象とした。
赤/青課題:葛藤抑制を測定する課題として実施した。実験参加者の前に赤と青のカードを1枚ずつ置き,実験者が赤/青と言ったら青/赤のカードを選択するように教示した。赤5試行,青5試行の計10試行をランダムに実施し,正反応数を得点とした(範囲:0-10)。単語逆唱スパン課題:ワーキングメモリを測定する課題として実施した。実験者が読み上げた単語を逆順に復唱することを求めた。単語数は2から5であり,各単語数について2試行のうち1試行に正答したら,単語数を増やしていった。復唱できた単語数を得点とした(範囲:1-5)。他者感情理解:ほとんどの人と同じ感情を主人公も感じる状況課題を4つ,実験参加者とは違う感情を主人公が感じる状況特性課題を2つ実施した。4種類の表情図(喜び・悲しみ・怒り・怖れ)を提示したまま紙芝居を読み,主人公の表情を質問した。想定された感情と一致した場合は2点,ネガティブな範囲で感情が一致した場合は1点,それ以外は0点とした(範囲:状況課題0-8,状況特性課題0-4)。
結果と考察
各課題について,学年を独立変数とした1要因分散分析を行った。その結果,学年差はいずれも有意であり,Bonferroni法による多重比較の結果,実行機能の2課題は年少児と年中児の間に,状況課題は年中児と年長児の間に,状況特性課題は3学年の間に有意差が認められた(Table 1)。
続いて,実行機能が他者感情理解に及ぼす影響を調べるため,赤/青課題と単語逆唱スパン課題の得点を説明変数,状況課題と状況特性課題の得点を目的変数とした重回帰分析を行った(Table 2)。その結果,状況課題においては赤/青課題(β = .31, p < .01),単語逆唱スパン課題(β = .24, p < .05)からの有意な影響が認められた(R2 = .21, p < .001)。状況特性課題においては赤/青課題からの有意な影響は認められず(β = .16, n.s.),単語逆唱スパン課題(β = .31, p < .01)からの影響は有意であった(R2 = .15, p < .001)。
以上のことから,実行機能が他者感情理解に先駆けて発達し,実行機能が他者の感情の理解を促進すること,他者の特性を加味した感情理解にはワーキングメモリ容量の拡大が必要であることが示唆された。
幼児期は認知能力,社会性ともに大きく発達する時期である。他者と効果的に関わるためには他者の感情や意図・信念等を理解することが必要である。このうち,他者の意図や信念についての理解は心の理論に関する研究が数多くなされてきたが,島(2015a)は他者の感情の理解が心の理論の獲得を促進することを報告している。また,他者の感情や意図・信念等に思いを巡らすためには,実行機能(自身の思考や感情の活性化を抑制し,他者のそれへと切り替える能力)の発達が必要である(小川・子安,2008; 島,2015b)。
そこで,本研究では実行機能の下位機能のうち葛藤抑制(適切な反応をするために優勢な反応を抑制する能力)とワーキングメモリ(情報を保持し,必要なときにその情報を活性化させる能力)の2側面に着目し,実行機能が他者感情理解に及ぼす影響について検討する。
方 法
実験参加者:A県内の幼稚園に通う年少児19名,年中児35名,年長児35名を対象とした。
赤/青課題:葛藤抑制を測定する課題として実施した。実験参加者の前に赤と青のカードを1枚ずつ置き,実験者が赤/青と言ったら青/赤のカードを選択するように教示した。赤5試行,青5試行の計10試行をランダムに実施し,正反応数を得点とした(範囲:0-10)。単語逆唱スパン課題:ワーキングメモリを測定する課題として実施した。実験者が読み上げた単語を逆順に復唱することを求めた。単語数は2から5であり,各単語数について2試行のうち1試行に正答したら,単語数を増やしていった。復唱できた単語数を得点とした(範囲:1-5)。他者感情理解:ほとんどの人と同じ感情を主人公も感じる状況課題を4つ,実験参加者とは違う感情を主人公が感じる状況特性課題を2つ実施した。4種類の表情図(喜び・悲しみ・怒り・怖れ)を提示したまま紙芝居を読み,主人公の表情を質問した。想定された感情と一致した場合は2点,ネガティブな範囲で感情が一致した場合は1点,それ以外は0点とした(範囲:状況課題0-8,状況特性課題0-4)。
結果と考察
各課題について,学年を独立変数とした1要因分散分析を行った。その結果,学年差はいずれも有意であり,Bonferroni法による多重比較の結果,実行機能の2課題は年少児と年中児の間に,状況課題は年中児と年長児の間に,状況特性課題は3学年の間に有意差が認められた(Table 1)。
続いて,実行機能が他者感情理解に及ぼす影響を調べるため,赤/青課題と単語逆唱スパン課題の得点を説明変数,状況課題と状況特性課題の得点を目的変数とした重回帰分析を行った(Table 2)。その結果,状況課題においては赤/青課題(β = .31, p < .01),単語逆唱スパン課題(β = .24, p < .05)からの有意な影響が認められた(R2 = .21, p < .001)。状況特性課題においては赤/青課題からの有意な影響は認められず(β = .16, n.s.),単語逆唱スパン課題(β = .31, p < .01)からの影響は有意であった(R2 = .15, p < .001)。
以上のことから,実行機能が他者感情理解に先駆けて発達し,実行機能が他者の感情の理解を促進すること,他者の特性を加味した感情理解にはワーキングメモリ容量の拡大が必要であることが示唆された。