[PE19] 学校に対する教育心理学的支援(2)
生徒指導上の問題を持つ生徒に対する中学校と連携した支援
キーワード:非行, 環境, 実践
問題と目的
非行のリスクとしての「劣悪な家庭環境」など少年たちの社会文化的背景に注目するとき,非行少年は「その加害行為を監督するべき対象であると同時に,被害者としての側面に注目して人生が支えられるべき存在である」と松嶋(2013)は述べている。しかし,内閣府(2015)の「少年非行に関する世論調査」では非行少年に対し「取り締まりを強化する」ことや「年齢相応の社会的責任をとらせる」ことが支持され,未だ支援的な立場の見解が少ないことが読み取れる。そこで,本研究では生徒指導上の問題を持つ中学生2名を支援対象者とし,中学校と筆者を含む大学チームが連携して発達支援を行った。East Side Institute(2016)はこの「発達支援」について“to create an environment in which everyone can get help”と定義している。発達支援を行うなかで,少年たちが必要としている支援やより良い学習環境の構築について対話を深め,非行傾向のある少年に対する支援のデザインについて考察したい。そこで,本研究では(1)生徒指導上の問題を持つ生徒が学び方を学習し,主体的に学ぶための学習環境デザインを教員,支援者と共同開発すること(2)学習環境のデザインを通して,生徒及び教員・支援者の発達をめざすことを目的として実践を行った。
方 法
本実践は,非行・いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を持つ課題集中校である公立中学校で行った。生徒指導上の問題を持つ男子生徒2名 (P,Q)に対し,中学校教員と大学チームが連携して支援を行った。実践では,P,Qにとって必要な教材や人材といった支援・指導は何かを,協力者2名と共に話し合うオープンダイアログ形式(Seikkula and Olson, 2003)を採用した。この実践は「中・大連携学習環境デザイン研究」と名付けられ,中学校と大学チームの共同研究いう名目でP,Qも研究者の一員とした。また,P,Qの言動に合わせて実践の順序や内容を変更した。2016年5月までに6回の実践を行い,うち3回が面接,3回が学習支援を中心とした実践であった。
結果と考察
第5回までに2名とも授業エスケープと暴力行為は無くなり,学校生活は安定していた。また,第6回には「今困っていること」について自ら援助を求められるようになった。Pは自身の言動に客観的な視点を持ち始め,自身の意見を正しく口頭で説明できるようになったと推察される。Qは自身の行動の変容を自覚したことで自己肯定感の向上が見られ,援助希求することによって自ら進んで支援を活用することができるようになったと推察される(表1参照)。
また教育的支援を行うなかで,生徒の意見を教員や大学チームが受け止め,ともに現状を変えようとする動きが見られた(表2参照)。
以上のように,本実践のデザインは,支援チームがP,Qに知識を教授するだけの一方的なやりとりではなかった。Holzman(2014)は,発達を道具と結果の弁証法(tool and result)であると述べている。つまり本実践における発達とは,支援をうけたP,Qら個人の変容ではなく,大学チーム・生徒・中学校教員の相互行為そのものであると示唆される。実践を通して支援する側とされる側が互いに学び合い,関わり合うことでより良い学習環境を模索していたと考えられる。
非行のリスクとしての「劣悪な家庭環境」など少年たちの社会文化的背景に注目するとき,非行少年は「その加害行為を監督するべき対象であると同時に,被害者としての側面に注目して人生が支えられるべき存在である」と松嶋(2013)は述べている。しかし,内閣府(2015)の「少年非行に関する世論調査」では非行少年に対し「取り締まりを強化する」ことや「年齢相応の社会的責任をとらせる」ことが支持され,未だ支援的な立場の見解が少ないことが読み取れる。そこで,本研究では生徒指導上の問題を持つ中学生2名を支援対象者とし,中学校と筆者を含む大学チームが連携して発達支援を行った。East Side Institute(2016)はこの「発達支援」について“to create an environment in which everyone can get help”と定義している。発達支援を行うなかで,少年たちが必要としている支援やより良い学習環境の構築について対話を深め,非行傾向のある少年に対する支援のデザインについて考察したい。そこで,本研究では(1)生徒指導上の問題を持つ生徒が学び方を学習し,主体的に学ぶための学習環境デザインを教員,支援者と共同開発すること(2)学習環境のデザインを通して,生徒及び教員・支援者の発達をめざすことを目的として実践を行った。
方 法
本実践は,非行・いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を持つ課題集中校である公立中学校で行った。生徒指導上の問題を持つ男子生徒2名 (P,Q)に対し,中学校教員と大学チームが連携して支援を行った。実践では,P,Qにとって必要な教材や人材といった支援・指導は何かを,協力者2名と共に話し合うオープンダイアログ形式(Seikkula and Olson, 2003)を採用した。この実践は「中・大連携学習環境デザイン研究」と名付けられ,中学校と大学チームの共同研究いう名目でP,Qも研究者の一員とした。また,P,Qの言動に合わせて実践の順序や内容を変更した。2016年5月までに6回の実践を行い,うち3回が面接,3回が学習支援を中心とした実践であった。
結果と考察
第5回までに2名とも授業エスケープと暴力行為は無くなり,学校生活は安定していた。また,第6回には「今困っていること」について自ら援助を求められるようになった。Pは自身の言動に客観的な視点を持ち始め,自身の意見を正しく口頭で説明できるようになったと推察される。Qは自身の行動の変容を自覚したことで自己肯定感の向上が見られ,援助希求することによって自ら進んで支援を活用することができるようになったと推察される(表1参照)。
また教育的支援を行うなかで,生徒の意見を教員や大学チームが受け止め,ともに現状を変えようとする動きが見られた(表2参照)。
以上のように,本実践のデザインは,支援チームがP,Qに知識を教授するだけの一方的なやりとりではなかった。Holzman(2014)は,発達を道具と結果の弁証法(tool and result)であると述べている。つまり本実践における発達とは,支援をうけたP,Qら個人の変容ではなく,大学チーム・生徒・中学校教員の相互行為そのものであると示唆される。実践を通して支援する側とされる側が互いに学び合い,関わり合うことでより良い学習環境を模索していたと考えられる。