[PE20] 学校に対する教育心理学的支援(3)
再—交響化する発達環境としての校内研究
キーワード:校内研究, 連携
問題と目的
脇本・町支(2015)によれば,「日本には教師同士が互いの授業を見学し,議論を行い,授業を向上させていく校内研究という文化がある。」としている。同書では,これは,諸外国にはみられない文化であり,日本独自の文化である。校内研究は,若手教師をはじめ,教師が発達していく重要な場として機能してきたと述べられている。
一方,エンゲストローム(2000)は発達を「個人的なものではなく,集団的な転換としてみなされるべき」であり,「さまざまな参加者たちの異なった観点やアプローチを再-交響化(re-orchestration)する特徴がある」と述べている。そこで,本研究における再-交響化とは,大学教員と小学校教師が観点やアプローチをすり合わせて再構築することであると定義する。
校内研究は個人的な発達活動ではなく,集団的に授業を向上させていく活動である。校内研究において教師らは,互いに異なった観点やアプローチから議論を行い,それらを再-交響化しているのではないだろうか。
そこで本研究では,大学教員がある小学校の校内研究にファシリテーターとして参加し,小学校教師と共に校内研究を成り立たせていくプロセスを分析することを目的とする。
方 法
2016年4月に公立A小学校で行われた校内研究をもとに分析を行った。校内研究では,ファシリテーターである教育心理学の教授と筆者である大学院生Pの2名が参加した。A小学校からは,小学校教諭7名,養護教諭,教頭,校長の10名が研究グループとして参加していた。
A小学校は,これまで校内研究はあまり行われておらず,校長が大学教員に講師を依頼したことで,A小学校の校内研究に大学教員が参加することとなった。
研究の手法として,A小学校で行われた校内研究における,大学教員と小学校教師のやりとりを筆者である大学院生がビデオで撮影した。撮影したデータから特に大学教員と小学校教師が対話している場面を抽出し,逐語化した。
結果と考察
校内研究の中盤,指導案を検討するためにはどうしたらよいのかについて話し合いが行われた。授業には子どもたちから反応を引き出す「仕掛け」が必要であることを大学教員が述べた。それを受けて,小学校教師が「生徒の反応には自然発生したものもある」と返答した。大学教員は「ああ確かに。自然発生したのはそこにたくさん人間がいるからだ」というように,すべてが仕掛けへの反応ではなく,自然発生した反応もあり得ることを考慮にいれるべきだと気がついた(表1参照)。
以上のやりとりから,校内研究の話し合いの場では,大学教員から小学校教師への一方通行の教授だけではないことがうかがえる。
本実践では,大学教員の発言に対し,小学校教師が日常の場面での気づきを大学教員に返したことにより,大学教員がそれを受け止め,肯定したという相互のやりとりがみられた。これは,小学校教師と大学教員がお互いの理論と実践を交流させることで,どちらのものでもない新しい知見が生まれたと考えられる。
このように,校内研究に参加した理論家である大学教員と実践家である小学校教師のどちらにも存在しなかった知見が,対話の中で交響していたという示唆を得た。
脇本・町支(2015)によれば,「日本には教師同士が互いの授業を見学し,議論を行い,授業を向上させていく校内研究という文化がある。」としている。同書では,これは,諸外国にはみられない文化であり,日本独自の文化である。校内研究は,若手教師をはじめ,教師が発達していく重要な場として機能してきたと述べられている。
一方,エンゲストローム(2000)は発達を「個人的なものではなく,集団的な転換としてみなされるべき」であり,「さまざまな参加者たちの異なった観点やアプローチを再-交響化(re-orchestration)する特徴がある」と述べている。そこで,本研究における再-交響化とは,大学教員と小学校教師が観点やアプローチをすり合わせて再構築することであると定義する。
校内研究は個人的な発達活動ではなく,集団的に授業を向上させていく活動である。校内研究において教師らは,互いに異なった観点やアプローチから議論を行い,それらを再-交響化しているのではないだろうか。
そこで本研究では,大学教員がある小学校の校内研究にファシリテーターとして参加し,小学校教師と共に校内研究を成り立たせていくプロセスを分析することを目的とする。
方 法
2016年4月に公立A小学校で行われた校内研究をもとに分析を行った。校内研究では,ファシリテーターである教育心理学の教授と筆者である大学院生Pの2名が参加した。A小学校からは,小学校教諭7名,養護教諭,教頭,校長の10名が研究グループとして参加していた。
A小学校は,これまで校内研究はあまり行われておらず,校長が大学教員に講師を依頼したことで,A小学校の校内研究に大学教員が参加することとなった。
研究の手法として,A小学校で行われた校内研究における,大学教員と小学校教師のやりとりを筆者である大学院生がビデオで撮影した。撮影したデータから特に大学教員と小学校教師が対話している場面を抽出し,逐語化した。
結果と考察
校内研究の中盤,指導案を検討するためにはどうしたらよいのかについて話し合いが行われた。授業には子どもたちから反応を引き出す「仕掛け」が必要であることを大学教員が述べた。それを受けて,小学校教師が「生徒の反応には自然発生したものもある」と返答した。大学教員は「ああ確かに。自然発生したのはそこにたくさん人間がいるからだ」というように,すべてが仕掛けへの反応ではなく,自然発生した反応もあり得ることを考慮にいれるべきだと気がついた(表1参照)。
以上のやりとりから,校内研究の話し合いの場では,大学教員から小学校教師への一方通行の教授だけではないことがうかがえる。
本実践では,大学教員の発言に対し,小学校教師が日常の場面での気づきを大学教員に返したことにより,大学教員がそれを受け止め,肯定したという相互のやりとりがみられた。これは,小学校教師と大学教員がお互いの理論と実践を交流させることで,どちらのものでもない新しい知見が生まれたと考えられる。
このように,校内研究に参加した理論家である大学教員と実践家である小学校教師のどちらにも存在しなかった知見が,対話の中で交響していたという示唆を得た。