The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PE24] 保育士志望学生のワーク・ライフ・バランス観

保育士養成校での学びが学生にどのような影響を及ぼすか

三國隆子 (東京立正短期大学)

Keywords:保育士養成, ワーク・ライフ・バランス, 学習の影響

はじめに
 現在,約40万人の保育士が保育所で働いているが,保育士の資格を持ちながら実際に保育士として働いていない潜在保育士は70万人以上いるといわれている。保育士が保育の仕事から離れていく理由は何だろうか。
 2014年3月に東京都が行った「東京都保育士実態調査報告書」によれば,保育士の退職理由トップは「妊娠・出産」(25.7%),次いで「給料が安い」(25.5%)と続いている。保育士の仕事量に対して給料が安すぎることは,長年離職の原因といわれてきているが,「妊娠・出産」が退職理由のトップであるのはなぜだろうか。子育てしながら働く保護者の子どもを保育し,保護者の子育てを支援することが保育士の仕事であるが,当の保育士が自分の子育てと保育の仕事を両立できずに仕事を辞めてしまう背景には何があるのだろうか。
問題と目的
 保育士資格を取得するために保育士養成校で学ぶ学生は,自分の結婚や子育てと保育の仕事に対してどのような展望をもって入学してくるのだろうか。そしてその考え方は保育士養成校の学びの中でどのように変化する,あるいは変化しないのだろうか。
 「子どもが好き」という思いをもって保育士養成校に入学する学生は,将来,学生自身が子どもを育てる保護者の立場になった場合,子どもが好きだからこそ自分の子どもの子育てに専念するために保育の仕事を辞めようと思うのか,それとも自分の子どもを保育所などに預けて保育の仕事を継続しようと思うのだろうか。学生は保育士養成校において保育士の仕事と役割を学び,その理解を深めていく。学生が卒業後の人生を考えるときに,養成校での学びが学生自身のワーク・ライフ・バランスの展望にどのような影響を及ぼすのだろうか。
方   法
1)調査対象者と調査の内容
 保育士養成の短期大学に入学した1年生54名(女子45名,男子9名)を対象に,前期の授業開始時(4月)と終了時(8月)それぞれに,「将来就きたい職業」について回答を求め,さらに「仕事観・結婚観・子育て観についてのアンケート」を実施した。前期終了時のアンケートを行ったあとで,開始時に回答したアンケート用紙を学生本人に見せ,1年生前期期間を終えてどのような変化があったのか比較検討してもらい,その記述を求めた。
2)調査項目
①将来,結婚したいと思う。②結婚をしたら仕事を辞めて家庭に入りたい。③結婚はあなた自身の仕事にプラスになると思う。④将来,子育てをしたいと思う。⑤子どもが生まれたら仕事をやめて子育てに専念したい。⑥子育てはあなた自身の仕事にプラスになると思う。⑦子どもが生まれたら自分の時間を犠牲にしてでも子育ての時間を多くとりたい。⑧あなたの人生にとって,子育ては価値あることだと思う。⑨子どもが生まれたら,あなた(妻)が仕事を続けて,夫(あなた)が育児休暇を取得してもいいと思う。⑩子どもと接する時間が少ないと,子どもはかわいそうだと思う。⑪保育所などに子どもを預けて仕事を続けたいと思う。⑫夫(あなた)が家庭で育児をして,あなた (妻) が仕事をしてもいいと思う。
⑬あなた(妻)が仕事を続ける場合,家事や育児を夫(あなた)と分担するのは当然だと思う。⑭産休明けすぐに仕事に復帰するのは,子どもがかわいそうだと思う。⑮結婚・子育てと仕事を両立させたいと思う。⑯子どもが赤ちゃん(1歳ごろまで)のうちは,保育所に預けたりせず自分の手で育てたい。⑰子育ては主に女性がするものだと思う。⑱経済的に不自由しなければ,結婚してからあなたが働かなくてもいいと思う。⑲結婚後,子どもがいなくてもいいと思う。⑳結婚や出産をしても,今就きたいと考えている職業をずっと続けていきたいと思う。㉑男の子は男らしく,女の子は女らしく育てることは大切だと思う。
以上21項目について「とてもそう思う」から「全くそう思わない」まで5~1の5件法による回答を求めた。項目⑨⑫⑬について,男子学生にはカッコ内の質問に対して回答を求めた。
結果と考察
 質問紙調査の結果,短期大学に入学して間もない1年生前期開始時の平均値が4.0を超えた回答は項目①,③,⑥,⑧,⑩,⑯の7項目であった。保育士を目指して保育士養成校に入学しているものの,学生自身が将来保護者となった場合,子どもを保育所に預けたりせず自分で子育てをしたいと考え,子育てに価値をおいていることが伺えた。入学後の前期期間の学びを経て,特に乳幼児期の子どもの発達について学ぶことによって,その思いがさらに強くなっている傾向が見られた。その一方で,⑨,⑫,⑬,⑰,㉑の項目に変化が見られ,子育ては主に女性が行うもの,男の子は男の子らしく女の子が女の子らしく育てるべきといった項目の平均値が下がり,男女平等志向に変化する傾向もみられた。