The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 PE(01-64)

ポスター発表 PE(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 展示場 (1階展示場)

[PE33] 立場選択が意見文産出プロセスに与える影響

反論想定と再反論の産出に着目した検討

小野田亮介 (立教大学)

Keywords:意見文, マイサイドバイアス, 文章産出

問題と目的
 立場選択は,多くの意見文産出活動において前提的に行われている(例:ある論題について,賛成・反対のいずれかの立場から小論文を書く)。一方,立場を固定することは,自分に有利な賛成論を積極的に提示し,自分に不利な反論の提示には消極的になる「マイサイドバイアス」を強化し,反論想定を抑制することが示されている(小野田,2015)。反論想定と,それに対する再反論は,説得的な意見文を産出する重要な要素となるため(e.g., Nussbaum & Kardash, 2005),立場選択によって反論想定が抑制されることは,意見文産出プロセスにもネガティブな影響を与える可能性がある。
 そこで本研究では,反論想定と再反論の産出に着目し,立場選択が意見文産出プロセスに与える影響について検討する。この目的を達成するため,本研究では意見文の「型」を与え,その型に文章を当てはめる形式の意見文産出活動を実施する。そうすることで,全ての参加者が反論想定と再反論を産出した条件下で「反論想定と再反論の産出において何を考えていたか」といった局所的な振り返りが可能となる。
方   法
参加者 関東圏の大学で心理学の授業を受講している大学生115名(男性57名,女性58名)を対象とし,立場を固定化した上で意見文産出を行う「立場固定群(n = 56)」と,立場を自由に変更しながら意見文産出を行う「立場自由群(n = 59)」とに割り当てた。
論題 「インターネット上での書き込み(例:ツイッター)では,匿名性をやめて自分の名前を出した方が良い」という論題を用い,自分の意見を文章として示すように求めた。
意見文の型 「私は匿名性の廃止に(賛成or反対)だ。なぜなら,△△だからだ[理由]。たしかに○○という意見もある[反論の想定]。しかし,□□だと私は考える[再反論]。したがって,私は匿名性の廃止に(賛成or反対)だ。」という型を提示し,型に沿って意見文を産出するよう求めた。
振り返り課題 「それぞれの要素について書いていたときのことを振り返り,自分が考えていたことをできるだけ詳細に書き出しましょう」と教示し,意見文産出プロセスで考えていたことについて,回顧的な自由記述を求めた。
手続き 意見文産出課題を実施する1週間前に授業内で論題を提示し,事前の立場選択を求めた。ここでの立場選択の結果を「事前立場」と呼ぶ。
 立場固定群に対しては事前立場を変えずに意見文産出課題に取り組むように教示した。一方,立場自由群に対しては,事前立場を尋ねたのはあくまでも全体的傾向を把握するためだと説明し,意見文産出課題ではどの立場からでも自由に意見文を書いて良いと教示した。
結果と考察
反論想定と再反論の産出プロセス 振り返り課題の自由記述について,反論想定と再反論の産出に着目して探索的な検討を行った。その結果,自分の主張の正当性を揺るがせる反論に気づくことや,再反論を思いつかないことによって,自分の立場に「迷い」を感じたと報告する参加者と,「迷い」について報告していない,あるいは「迷い」を感じていない参加者の大きく分けて2つの記述タイプが認められた。このように「迷い」を記述した参加者の人数は,立場固定群で25名(42%),立場自由群で41名(68%)であり,群間で有意な比率差が認められた(χ2(1) = 8.12, p < .01, φ = .26(95%CI [.12, .45]))。
「迷い」を解消する方略 迷いを解消するための方略として,(1)立場を変えながら再反論を考える「立場変化型思考」,(2)同じ立場から再反論を考え続ける「立場固定型思考」,(3)反論を再反論しやすい内容に置き換える「戦略的反論想定」の3つの方略が確認された。方略記述者数の比率差を群間で比較した結果,有意な比率差が認められ (χ2(2) = 16.04, p < .01, φ = .49(95%CI [.29, .74])),「立場変化型思考」の記述者数は立場固定群に比べ,立場自由群でより多く,「戦略的反論想定」の記述者数は立場自由群に比べ,立場固定群でより多いことが確認された。
 すなわち,立場自由群の参加者は,反対立場の視点から柔軟に思考して再反論を産出していたのに対し,立場固定群の参加者は,都合の悪い反論を取り下げ,「より再反論しやすい反論」を想定し直すことで再反論を実現する傾向が示された。以上の結果から,立場選択は反論想定と再反論の産出プロセスにも影響を与えており,特に立場を固定化した場合に,反論想定に対する回避的な対応がみられることが示された。