[PE46] 社会的要因が学生の進路認識に及ぼす影響
教員養成課程と看護学科の学生の比較から
Keywords:社会的要因, 進路認識, 専門職
問題と目的
文部科学省が行った調査によると,平成27年度の全国国立の教員養成課程大学における教員就職率は,卒業生全体の60.5%である。これに対し,医歯薬といった医療系の大学におけるそれぞれの専門職への就職率は比較的高い。例えば,厚生労働省の調べによる全国の看護系の4年制大学の平成27年度卒業生の看護師就職率は,全体の83.5%である。
上記のような就職率の違いの原因はどこにあるのだろうか。この就職率の違いに着目し,両者を比較することで,学生の経験や環境,就職に及ぼす影響の違いを俯瞰的に見ることができると考えられる。
本稿で対象とする教員養成課程の大学は,教員の養成を目指しているにも関わらず,平成22年度に卒業生した教員就職率が,49.6%と全国平均と比べても少ない。また対象とした大学の看護学科は,看護師,養護教諭の資格を同時に取得できる学科であり,近年創設されたことから公開されている就職率のデータがない。対象の看護学科の大学の掲げる理念としては,「特に国の将来を担う子どもたちの成長過程において」健康増進の実現に寄与しうる創造力と実践力を有する人材の育成を目指しており,養護教諭の特色を比較的反映した人材の育成を目指していることが伺える。上記の特徴を有する教員養成,看護学科の大学において,大学側が求めるニーズと学生の進路認識を照らしあわせ検討する。このことによって,本稿で対象とするような教員養成大学のニーズに反して学生の教員就職率が低くなることの要因を探り,教員養成課程の大学の教育,支援の一助となることを本稿の目的とする。
方 法
2014年5月に1ヶ月以内に現場実習を控える教員養成課程の大学3年生6名,及び看護学科所属の大学3年生4名に対し半構造化面接を行った。調査対象とした看護学科は,多様なニーズに対応すること人材の育成を目的として,看護師の国家資格,養護教諭の資格を同時に取得できる学科であった。質問内容は各所属の学生ともに (1)大学進学動機 (2)その時点での志望 (3)これまでの大学生活の志望の変遷 (4)現場実習への捉え方 (5)現場実習に向けた目標の5点である。面接はそれぞれの学生が所属する大学にある個室で行った。調査内容は調査協力者である学生の承諾を得てICレコーダーで記録した。
結果と考察
教員養成課程(事例A〜F)及び看護学科(事例G〜J)の調査対象者の入学時と調査時における志望状態をそれぞれ表1,2に示す。
調査時において,教員養成課程の学生の志望状態は,教師や一般就職,そして志望に迷いのある状態とばらつきがあったが,看護学科の学生は4人中3人が看護師を志望していた。これらの3人の看護師志望の学生は,入学時には養護教諭を志望していた。このことについては,事例G「看護の領域の(比重が)大きい」「看護!っていう頭になる」事例J「今養護教諭の授業はない,(頭が)看護一色」といった語りから,看護の比重の大きい環境によって志望が変化したといえる。すなわち,看護に関連した学習や経験に触れる機会の多さが進路意識に影響を与えていると推察される。
調査時の教員養成課程の学生の志望状態は,入学時教師を志望していた学生の認識が変化した結果であった。これは,事例C「留学やその他の出会いによって教師以外の憧れができた」との語りから,大学以外における教職関連以外の影響が一つの要因であると示唆された。
対象とした看護学科学生は,二年時に短期的な実習があり,さらに三年時に行われる約半年間の実習の準備の比重が重く,看護について学習し考える機会の多い環境にあることが伺える。一方で対象とした教員養成課程の大学は,心理学科などの学部の持つ専攻の幅の広さなどからも始めから教員を志望しない状態で入学する学生も見受けられる。三年時に所属の学生全員が行う小学校実習の期間は一ヶ月であり,事例C「一年の時はほぼ遊んでいた」というように,対象とした看護学科と比べ比較的ゆとりのある環境であると推察される。教師を志望していない学生との関わりや,「留学やその他の出会い」といった多忙でない時期の活動選択肢の広さなどから,教師を志望しなくなる可能性があるといえる。
特定の職能を志向した社会文化的な学習環境におかれる機会の密度が,その専門職への志向性を高め,専門職以外の職を志望する学生との出会いや専門職以外に関する活動選択肢の広さが,専門職への志向を低めていることが考えられる。
文部科学省が行った調査によると,平成27年度の全国国立の教員養成課程大学における教員就職率は,卒業生全体の60.5%である。これに対し,医歯薬といった医療系の大学におけるそれぞれの専門職への就職率は比較的高い。例えば,厚生労働省の調べによる全国の看護系の4年制大学の平成27年度卒業生の看護師就職率は,全体の83.5%である。
上記のような就職率の違いの原因はどこにあるのだろうか。この就職率の違いに着目し,両者を比較することで,学生の経験や環境,就職に及ぼす影響の違いを俯瞰的に見ることができると考えられる。
本稿で対象とする教員養成課程の大学は,教員の養成を目指しているにも関わらず,平成22年度に卒業生した教員就職率が,49.6%と全国平均と比べても少ない。また対象とした大学の看護学科は,看護師,養護教諭の資格を同時に取得できる学科であり,近年創設されたことから公開されている就職率のデータがない。対象の看護学科の大学の掲げる理念としては,「特に国の将来を担う子どもたちの成長過程において」健康増進の実現に寄与しうる創造力と実践力を有する人材の育成を目指しており,養護教諭の特色を比較的反映した人材の育成を目指していることが伺える。上記の特徴を有する教員養成,看護学科の大学において,大学側が求めるニーズと学生の進路認識を照らしあわせ検討する。このことによって,本稿で対象とするような教員養成大学のニーズに反して学生の教員就職率が低くなることの要因を探り,教員養成課程の大学の教育,支援の一助となることを本稿の目的とする。
方 法
2014年5月に1ヶ月以内に現場実習を控える教員養成課程の大学3年生6名,及び看護学科所属の大学3年生4名に対し半構造化面接を行った。調査対象とした看護学科は,多様なニーズに対応すること人材の育成を目的として,看護師の国家資格,養護教諭の資格を同時に取得できる学科であった。質問内容は各所属の学生ともに (1)大学進学動機 (2)その時点での志望 (3)これまでの大学生活の志望の変遷 (4)現場実習への捉え方 (5)現場実習に向けた目標の5点である。面接はそれぞれの学生が所属する大学にある個室で行った。調査内容は調査協力者である学生の承諾を得てICレコーダーで記録した。
結果と考察
教員養成課程(事例A〜F)及び看護学科(事例G〜J)の調査対象者の入学時と調査時における志望状態をそれぞれ表1,2に示す。
調査時において,教員養成課程の学生の志望状態は,教師や一般就職,そして志望に迷いのある状態とばらつきがあったが,看護学科の学生は4人中3人が看護師を志望していた。これらの3人の看護師志望の学生は,入学時には養護教諭を志望していた。このことについては,事例G「看護の領域の(比重が)大きい」「看護!っていう頭になる」事例J「今養護教諭の授業はない,(頭が)看護一色」といった語りから,看護の比重の大きい環境によって志望が変化したといえる。すなわち,看護に関連した学習や経験に触れる機会の多さが進路意識に影響を与えていると推察される。
調査時の教員養成課程の学生の志望状態は,入学時教師を志望していた学生の認識が変化した結果であった。これは,事例C「留学やその他の出会いによって教師以外の憧れができた」との語りから,大学以外における教職関連以外の影響が一つの要因であると示唆された。
対象とした看護学科学生は,二年時に短期的な実習があり,さらに三年時に行われる約半年間の実習の準備の比重が重く,看護について学習し考える機会の多い環境にあることが伺える。一方で対象とした教員養成課程の大学は,心理学科などの学部の持つ専攻の幅の広さなどからも始めから教員を志望しない状態で入学する学生も見受けられる。三年時に所属の学生全員が行う小学校実習の期間は一ヶ月であり,事例C「一年の時はほぼ遊んでいた」というように,対象とした看護学科と比べ比較的ゆとりのある環境であると推察される。教師を志望していない学生との関わりや,「留学やその他の出会い」といった多忙でない時期の活動選択肢の広さなどから,教師を志望しなくなる可能性があるといえる。
特定の職能を志向した社会文化的な学習環境におかれる機会の密度が,その専門職への志向性を高め,専門職以外の職を志望する学生との出会いや専門職以外に関する活動選択肢の広さが,専門職への志向を低めていることが考えられる。