[PE55] 「男もつらい」と感じる理由の探索的検討
男性の自己報告と女性の推測との比較から
Keywords:性役割観, ジェンダー
問題と目的
男性性役割に関するこれまでの研究では,男性性役割によるプレッシャーが与える悪影響に関する考察(町沢,2008)や男らしさへの捉われが男性の不適応行動に及ぼす影響(柏木,2008)など,男性が生きづらいと感じていることを示唆する知見が存在する。そこで本研究は,男性が「つらい」と感じる場面において整理することを目的として探索的検討を行う。
方 法
調査時期 2015年7月に行われた(注1。
有効回答者数 男性141名,女性249名。
調査内容 性別や年代(10歳区切り)などのデモグラフィック情報について尋ねたのちに,「男もつらいと感じるとき,その理由」について複数選択可能な形式で尋ねた。理由となる選択肢は「その他」「感じることはない」を含め,10件設けられた(注2。本設問は男女ともに回答対象となっており,女性は男性がつらさを感じる理由を推測して回答するように求められた。
結果と考察
「男もつらい」回答の男女差 男女別に「男もつらい」と感じた理由について集計を行い,χ2乗検定を行った。検定の結果,「努力の強要(男性36.6%,女性52.2%)」「妻子養育の責任(男性22.5%,女性41.0%)」「仕事の責任の重さ(男性33.0%,女性42.2%)」はいずれも女性が有意に高く,「感じることはない(男性24.6%,女性2.8%)」は男性が有意に高かった。また,「飲酒できないとからかわれる(男性6.8%,女性2.4%)」は男性が有意に高かった。
以上の結果から,男性は女性の推測ほどつらいと感じることが少ないことが示された。この結果は,男性が古典的性役割観を内在化し,つらさを感じ得る場面においてもそれが当然であると感じていることを示唆する結果であると考察される。
「男もつらい」回答の構造における男女比較 これらの理由の構造を比較するため,男女それぞれを対象として数量化理論第Ⅲ類を行った。否定回答を1とし,肯定回答を2として分析を行った。男女ともにカテゴリー数量1でサイズ因子が得られたため,カテゴリー数量2とカテゴリー数量3を平面上にプロットした。カテゴリー数量2および3を対象としてクラスター分析(ユークリッド距離,ward法)を行い,曲線によって同一クラスターに分類された変数を囲った結果を図1および図2に示す。
分析の結果,女性の推測では「家族と過ごす時間の少なさ」が第3象限に独立して布置されたが,男性の報告では「仕事選択の不自由」および「仕事の責任の重さ」と同じクラスターに分類された。この結果は,男性は仕事に関する辛さと家族に関する辛さとが複合的に影響を与えていることを示唆する結果であると考察される。
注1 本発表は,兵庫県豊岡市が2015年に行った「男女共同参画社会の実現にむけての市民意識調査」の一部を,豊岡市から許可を得たうえで再分析したものである。
注2 選択肢詳細は当日発表ポスターにて提示する。本稿では紙数の節約のため,選択肢の概略を表したラベルを用いて分析結果および考察の記述を行った。
男性性役割に関するこれまでの研究では,男性性役割によるプレッシャーが与える悪影響に関する考察(町沢,2008)や男らしさへの捉われが男性の不適応行動に及ぼす影響(柏木,2008)など,男性が生きづらいと感じていることを示唆する知見が存在する。そこで本研究は,男性が「つらい」と感じる場面において整理することを目的として探索的検討を行う。
方 法
調査時期 2015年7月に行われた(注1。
有効回答者数 男性141名,女性249名。
調査内容 性別や年代(10歳区切り)などのデモグラフィック情報について尋ねたのちに,「男もつらいと感じるとき,その理由」について複数選択可能な形式で尋ねた。理由となる選択肢は「その他」「感じることはない」を含め,10件設けられた(注2。本設問は男女ともに回答対象となっており,女性は男性がつらさを感じる理由を推測して回答するように求められた。
結果と考察
「男もつらい」回答の男女差 男女別に「男もつらい」と感じた理由について集計を行い,χ2乗検定を行った。検定の結果,「努力の強要(男性36.6%,女性52.2%)」「妻子養育の責任(男性22.5%,女性41.0%)」「仕事の責任の重さ(男性33.0%,女性42.2%)」はいずれも女性が有意に高く,「感じることはない(男性24.6%,女性2.8%)」は男性が有意に高かった。また,「飲酒できないとからかわれる(男性6.8%,女性2.4%)」は男性が有意に高かった。
以上の結果から,男性は女性の推測ほどつらいと感じることが少ないことが示された。この結果は,男性が古典的性役割観を内在化し,つらさを感じ得る場面においてもそれが当然であると感じていることを示唆する結果であると考察される。
「男もつらい」回答の構造における男女比較 これらの理由の構造を比較するため,男女それぞれを対象として数量化理論第Ⅲ類を行った。否定回答を1とし,肯定回答を2として分析を行った。男女ともにカテゴリー数量1でサイズ因子が得られたため,カテゴリー数量2とカテゴリー数量3を平面上にプロットした。カテゴリー数量2および3を対象としてクラスター分析(ユークリッド距離,ward法)を行い,曲線によって同一クラスターに分類された変数を囲った結果を図1および図2に示す。
分析の結果,女性の推測では「家族と過ごす時間の少なさ」が第3象限に独立して布置されたが,男性の報告では「仕事選択の不自由」および「仕事の責任の重さ」と同じクラスターに分類された。この結果は,男性は仕事に関する辛さと家族に関する辛さとが複合的に影響を与えていることを示唆する結果であると考察される。
注1 本発表は,兵庫県豊岡市が2015年に行った「男女共同参画社会の実現にむけての市民意識調査」の一部を,豊岡市から許可を得たうえで再分析したものである。
注2 選択肢詳細は当日発表ポスターにて提示する。本稿では紙数の節約のため,選択肢の概略を表したラベルを用いて分析結果および考察の記述を行った。