[PE58] 青年期後期における自尊感情,自我の成熟と主観的幸福感
本来感および自己価値の随伴性の視点から
キーワード:本来感, 自己価値の随伴性, 自我の成熟
はじめに
自尊感情を「本当の自尊感情」「随伴性自尊感情」とに区別する見解がある(e.g. Desi & Ryan, 1995)。前者が内的で自発的であるのに比べ,後者は外的基準との評価に依存するものであり,より不適応的であるとされている。一方で随伴性自尊感情が,自己形成意識の下位概念のうち現状改善意識へは正に影響するとする結果もあり(伊藤・小玉,2006),自己形成過程においては他者の視点を取り入れ自我同一性を獲得していく段階も想定される。本研究では,2つの自尊感情が異なる自我の成熟段階に対してどの様な影響を及ぼすか,また主観的な適応感への影響も検討することを目的とした。
方 法
1.対象:A私立大学の大学生2~4年生227名(男子79名、女子148名),平均年齢は20.32歳(SD=.95)であった。
2.手続き:大学の講義中に実施,回収した。実施にあたり,回答は任意であり未回答でも何ら不利益は無いこと,また個人情報の厳重取扱,研究としての使用目的等,口頭および調査票への記載によって説明した。回答をもって同意とした。調査時期は2014年10月~11月であった。
3.調査材料:フェイスシートおよび以下の4つの尺度で構成された。(1)本来感尺度(伊藤・小玉,2005);1因子7項目,5件法。(2)自己価値の随伴性尺度(伊藤・小玉,2006);1因子15項目,5件法。(3)自我の成熟(加藤(1983)による同一性地位判定尺度);3水準12項目,6件法。(4)主観的幸福感尺度(伊藤・相良・池田・川端,2003);5下位領域1次元構造15項目,4件法。
結 果
分析に先立ち各尺度の構造を確認し,以降の分析では本来感尺度7項目,自己価値の随伴性12項目,自我の成熟では「自己投入」6項目「自己探索」4項目,主観的幸福感尺度12項目を使用した。
全ての変数間で相関分析を行った結果(Table1),本来感と自己の随伴性の間で中程度の負の相関が見られ,先行研究の結果を裏付ける結果であった(Kernis,2003:伊藤・小玉,2006)。本来感と自己の随伴性は,自己投入と自己探索との間で,それぞれ逆に正負の相関を示した。ただし自己探索はいずれも有意傾向の弱い相関であった。主観的幸福感は,本来感と正に,自己価値の随伴性とは負に相関し,また自己投入と正に相関したが自己探索とは相関が見られなかった。
次に,本来感,自己価値の随伴性が自我の成熟に,またそれらが主観的幸福感に与える影響を検討するために段階的重回帰分析を行った(Fig. 1)。
本来感と自己の随伴性では,本来感のみが自己投入に正に影響し(R2=.26, p< .001),また主観的幸福感に対しては本来感と自己投入が影響していた(R2=.49, p< .001)。
考 察
自己投入(commitment)は自己形成に主体的・前向きに関わっている現時点での“関与の度合い”を,また自己探索は危機や迷いを感じつつも自己形成を“目指している経過”を示すと考えられる。つまり青年期においては,自己探索も自我の成熟へ向けた意味ある段階の1つと言えるが,今回の結果では,自己探索はいずれの自尊感情からも関連は認められず,また主観的幸福感への関連も見られなかった。しかし主観的幸福感へ方向性のある影響を与えていないと捉えるなら,他者基準に依拠してしまうこの段階が,必ずしも不適応状態ではない可能性もある。自我の成熟の度合いや過程,また適応感を把握する尺度の精選を図り検討することが課題と思われる。
自尊感情を「本当の自尊感情」「随伴性自尊感情」とに区別する見解がある(e.g. Desi & Ryan, 1995)。前者が内的で自発的であるのに比べ,後者は外的基準との評価に依存するものであり,より不適応的であるとされている。一方で随伴性自尊感情が,自己形成意識の下位概念のうち現状改善意識へは正に影響するとする結果もあり(伊藤・小玉,2006),自己形成過程においては他者の視点を取り入れ自我同一性を獲得していく段階も想定される。本研究では,2つの自尊感情が異なる自我の成熟段階に対してどの様な影響を及ぼすか,また主観的な適応感への影響も検討することを目的とした。
方 法
1.対象:A私立大学の大学生2~4年生227名(男子79名、女子148名),平均年齢は20.32歳(SD=.95)であった。
2.手続き:大学の講義中に実施,回収した。実施にあたり,回答は任意であり未回答でも何ら不利益は無いこと,また個人情報の厳重取扱,研究としての使用目的等,口頭および調査票への記載によって説明した。回答をもって同意とした。調査時期は2014年10月~11月であった。
3.調査材料:フェイスシートおよび以下の4つの尺度で構成された。(1)本来感尺度(伊藤・小玉,2005);1因子7項目,5件法。(2)自己価値の随伴性尺度(伊藤・小玉,2006);1因子15項目,5件法。(3)自我の成熟(加藤(1983)による同一性地位判定尺度);3水準12項目,6件法。(4)主観的幸福感尺度(伊藤・相良・池田・川端,2003);5下位領域1次元構造15項目,4件法。
結 果
分析に先立ち各尺度の構造を確認し,以降の分析では本来感尺度7項目,自己価値の随伴性12項目,自我の成熟では「自己投入」6項目「自己探索」4項目,主観的幸福感尺度12項目を使用した。
全ての変数間で相関分析を行った結果(Table1),本来感と自己の随伴性の間で中程度の負の相関が見られ,先行研究の結果を裏付ける結果であった(Kernis,2003:伊藤・小玉,2006)。本来感と自己の随伴性は,自己投入と自己探索との間で,それぞれ逆に正負の相関を示した。ただし自己探索はいずれも有意傾向の弱い相関であった。主観的幸福感は,本来感と正に,自己価値の随伴性とは負に相関し,また自己投入と正に相関したが自己探索とは相関が見られなかった。
次に,本来感,自己価値の随伴性が自我の成熟に,またそれらが主観的幸福感に与える影響を検討するために段階的重回帰分析を行った(Fig. 1)。
本来感と自己の随伴性では,本来感のみが自己投入に正に影響し(R2=.26, p< .001),また主観的幸福感に対しては本来感と自己投入が影響していた(R2=.49, p< .001)。
考 察
自己投入(commitment)は自己形成に主体的・前向きに関わっている現時点での“関与の度合い”を,また自己探索は危機や迷いを感じつつも自己形成を“目指している経過”を示すと考えられる。つまり青年期においては,自己探索も自我の成熟へ向けた意味ある段階の1つと言えるが,今回の結果では,自己探索はいずれの自尊感情からも関連は認められず,また主観的幸福感への関連も見られなかった。しかし主観的幸福感へ方向性のある影響を与えていないと捉えるなら,他者基準に依拠してしまうこの段階が,必ずしも不適応状態ではない可能性もある。自我の成熟の度合いや過程,また適応感を把握する尺度の精選を図り検討することが課題と思われる。