[PE63] 日常生活の感情喚起イベントにおける表出抑制の効果の検討
喜び・悲しみ・怒りの感情に着目して
キーワード:表出抑制, 出来事, 感情状態
本研究は,喜び・悲しみ・怒りに関する感情喚起イベント時に,感情の表出抑制が感情状態にどのような影響を与えているかを調査することを目的とした。なお表出抑制の効果を精査するため,出来事の重要性を統制した上で,表出抑制の意図と成功の程度が,出来事によってもたらされる感情に与える影響について,調査・分析を実施した。
方 法
参加者 研究内容に同意を得た大学生158名(男性78名,女性76名,M=19.61歳)。
質問項目 喜び・悲しみ・怒りごとに,以下の質問項目を設定した。教示文「今日もっとも印象に残った○○な出来事についてお伺いします。」の後に,出来事によって感じた感情の強さ(4件法),重要性・表出抑制の意図・表出抑制の成功の程度(5件法)について回答を求めた。更に8日目に,同項目について1週間を振り返って回答してもらった。なお質問項目はREAS(リアルタイム評価支援システム)を用いてインターネット上に作成され,参加者は個別に携帯電話から回答した。
手続き 研究説明会を経た後,参加者は8日間継続して質問項目に回答した。調査が開始された後は,1日1回,21時頃になると実験者から参加者にメールが送られ,参加者は指定されたURLにアクセスすることによってアンケートに回答した。
結 果
階層的重回帰分析を用い,第1ステップに重要性,第2ステップに抑制意図・抑制成功を投入し,感情別および7日間(即時的感情)/8日目(回顧的感情)別に分析を実施した。結果,全てのモデルが有意となり(Fs = 18.30 – 119.17,ps < .001),重要性の正の効果が一様に認められた(βs = .40 - .57,ps < .001)。また表出抑制に関しては,抑制意図の正の効果が7日間の悲しみ及び8日目の悲しみ・怒りにおいて(βs = .09 - .26,ps < .01 - .05),抑制成功の負の効果が7日間の喜び・悲しみ及び8日目の悲しみ・怒りにおいて認められた(βs = -.13 - -.37,ps < .01 - .05)。
考 察
まず,出来事の重要性の正の効果が示され,重要性が高いほど,生起感情が増加することが示され,統制変数としての役割が支持された。また本研究では“表出抑制”を,本人が表出抑制をしようとする意図を指す“抑制意図”と,実際の表出抑制の程度を測定する“抑制成功”の2側面から検討している。分析の結果,抑制意図に関しては,ネガティブ感情を抑制しようとするほど,当該感情が増幅する可能性が示唆され,思考抑制によるリバウンド効果(Wegner,1994; 木村,2004)と同様の結果が支持された。一方,抑制成功については,実際に表出抑制が成功すると感情が低減することが示され,意図・行動,それぞれのレベルで表出抑制の効果が異なる可能性が示唆された。
なお調査の7日間に挙げられた出来事は回顧的感情とも捉えられること,また8日目に挙げられた出来事は1週間の中でより印象に残ったものであること等に留意する必要があるため,即時的・回顧的感情の比較に関しては注意を要する。また強さ・重要性・抑制意図・抑制成功の因果関係については検討の余地があるため,その関係を明瞭にした上で今後研究が行われることが望まれる。
引用文献
木村 晴 (2004).望まない思考の抑制と代替思考の効果 教育心理学研究,52,115-126.
Wegner,D. (1994). Ironic processes of mental control. Psychological Review,101,34-52.
方 法
参加者 研究内容に同意を得た大学生158名(男性78名,女性76名,M=19.61歳)。
質問項目 喜び・悲しみ・怒りごとに,以下の質問項目を設定した。教示文「今日もっとも印象に残った○○な出来事についてお伺いします。」の後に,出来事によって感じた感情の強さ(4件法),重要性・表出抑制の意図・表出抑制の成功の程度(5件法)について回答を求めた。更に8日目に,同項目について1週間を振り返って回答してもらった。なお質問項目はREAS(リアルタイム評価支援システム)を用いてインターネット上に作成され,参加者は個別に携帯電話から回答した。
手続き 研究説明会を経た後,参加者は8日間継続して質問項目に回答した。調査が開始された後は,1日1回,21時頃になると実験者から参加者にメールが送られ,参加者は指定されたURLにアクセスすることによってアンケートに回答した。
結 果
階層的重回帰分析を用い,第1ステップに重要性,第2ステップに抑制意図・抑制成功を投入し,感情別および7日間(即時的感情)/8日目(回顧的感情)別に分析を実施した。結果,全てのモデルが有意となり(Fs = 18.30 – 119.17,ps < .001),重要性の正の効果が一様に認められた(βs = .40 - .57,ps < .001)。また表出抑制に関しては,抑制意図の正の効果が7日間の悲しみ及び8日目の悲しみ・怒りにおいて(βs = .09 - .26,ps < .01 - .05),抑制成功の負の効果が7日間の喜び・悲しみ及び8日目の悲しみ・怒りにおいて認められた(βs = -.13 - -.37,ps < .01 - .05)。
考 察
まず,出来事の重要性の正の効果が示され,重要性が高いほど,生起感情が増加することが示され,統制変数としての役割が支持された。また本研究では“表出抑制”を,本人が表出抑制をしようとする意図を指す“抑制意図”と,実際の表出抑制の程度を測定する“抑制成功”の2側面から検討している。分析の結果,抑制意図に関しては,ネガティブ感情を抑制しようとするほど,当該感情が増幅する可能性が示唆され,思考抑制によるリバウンド効果(Wegner,1994; 木村,2004)と同様の結果が支持された。一方,抑制成功については,実際に表出抑制が成功すると感情が低減することが示され,意図・行動,それぞれのレベルで表出抑制の効果が異なる可能性が示唆された。
なお調査の7日間に挙げられた出来事は回顧的感情とも捉えられること,また8日目に挙げられた出来事は1週間の中でより印象に残ったものであること等に留意する必要があるため,即時的・回顧的感情の比較に関しては注意を要する。また強さ・重要性・抑制意図・抑制成功の因果関係については検討の余地があるため,その関係を明瞭にした上で今後研究が行われることが望まれる。
引用文献
木村 晴 (2004).望まない思考の抑制と代替思考の効果 教育心理学研究,52,115-126.
Wegner,D. (1994). Ironic processes of mental control. Psychological Review,101,34-52.