The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE68] 障害児保育巡回相談に関するアンケート調査

保育所の巡回相談に何を期待するか ~保育士の意識から見えてくること~

実本牧子 (武庫川女子大学大学院)

Keywords:障害児保育, 保育士の資質向上, 保育所巡回制度

研究の目的
 A市は公的な制度として保育施設への巡回相談が確立され,支援体制が充実している地域であるが,他市においては巡回相談が行政の制度として確立していない地域が数多くある。相談員が巡回していても,年に一度,障害児保育の加算費用を算出するためのスクリーニングや判定だけが目的の地域もある。また心理士のみで保育施設を訪問し,発達の状況は伝えるが保育士が必要とする情報を十分にフィードバックできていない地域もあり,まだまだ充実しているとは言えないのが現状ではないだろうか。
 平成27年4月には国を挙げての子ども子育て新制度がスタートし,保育サービスの量的拡大が進められる中で,子育て支援に関わる専門家は多様なニーズに応えていく必要がある。保育所における障害児保育を充実させるために,また障害を持つ子どももそうでない子どもも,保育所,幼稚園,認定子ども園,さらには認可・無認可・公私など施設の形態を問わずに,同じように質の高い保育が提供できるようにするためにはどうしたらいいのか,保育士の資質や力量を高めていくためには,どういう支援体制が必要か研究を進めていきたい。自治体としてどういう連携の取り方が必要なのか,児の支援はもとより施設支援,保育士支援,保護者支援というところまで含めて,それぞれのニーズにどう応えていくのか,巡回相談の制度が比較的充実している地域とそうでない地域において保育士が巡回相談に何を期待しているのか,また,継続した指導やバックアップ体制のある地域とそうでない地域で保育士の意識に違いがあるのか,巡回相談が保育の専門性や資質向上に関与しているのかを,アンケートの結果をもとに考察していきたい。
調査方法
 大阪府および兵庫県内の保育士(幼稚園教諭も含む)を対象に,「障害児保育の巡回相談」に関するアンケートとして質問紙形式で実施した。各地域での障害児保育の研修会(大学の障害児保育担当教授が講師として主催)に同行した際に配布し,参加した保育士の中で同意していただいた人のみに無記名で回答してもらった。
 回収総数は275人であった。
結果と考察
 回答は図1のようになった。
 A市では,保育施設に在籍する障害児に対する「保育相談」を制度として定着させ,他市では見られないくらい丁寧に発達支援および保育士支援・保護者支援を行っている。市役所の担当部署には公立保育所で経験を積んだ保育士3名と心理士4名を正規職員として,その他に心理士を3名非常勤として配置している。「保育相談」は,保育施設全園を対象としており,保育士と心理士が2人でペアを組み,相談を受けるという体制も他市では考えられないような人員配置である。そのような丁寧な発達支援の積み重ねの結果として,障害児保育に対しての保育力の構築,実践力の向上につながってきていると評価することができる。
 他市では巡回相談としてニーズの低かった発達検査などのアセスメントの実施に関しても,A市ではニーズが高く,巡回相談の意味や役割などを施設運営者や保育士がしっかりと把握し,心理職の専門性に対する期待の大きさを感じる。保育士としての専門性で解決できる部分と心理職に相談する部分など,分担するところと協力するところを,それぞれの専門職の違いを踏まえて,それぞれができるところを明確にしながら,子どもに関わっていくという体制ができていると感じる。
 他市に関しては,A市と全く逆の値の回答となった。他市においては,保育施設への巡回相談の制度自体が確立されていない地域が多く,保育士は施設の中で気になる子どもへの対応に戸惑いや迷い,負担感を感じている様子が自由記述の中からも見て取れる。障害を持つ子どもの見立てや援助,環境の工夫は,保育士個人の力量に任されているところがあり,子どもの集団をどうしていくのかというところで,最も困り感を感じているという結果となった(図1)。同じ施設にいても誰に相談していいかわからず,外部との連携もできておらず,精神的に追い詰められ早期にバーンアウトしてしまう要因にもなっているのではないかと感じる。
 保育施設の巡回相談に期待されることは,地域や施設によってニーズが異なり,心理士という立場であっても保育の専門性が必要とされる場合が多々あることを加味して携わらなければならないと感じる。また,制度改革により保育の量的拡大が望まれる中で,新設保育園や小規模園,認定こども園など経験の積み重なりの少ない保育園が増加し,障害児をどうするか以前に,保育をどうするかのところで意見を求められることも増えてくると考えられる。子どもの発達支援が第一の目的ではあるが,保育士支援が保育士の資質向上に,施設支援が施設の機能充実につながり,そのことが最終的には地域の子どもの発達支援につながっていくという公儀的な捉えも必要になってくるのではないだろうか。
 筆者は「障害児保育の経験は保育士の資質を向上させる」という仮説に基づき研究を進めているが,ただ保育の現場で経験年数だけを積めばいいというわけではなく,①適切な人員配置(保育士の精神的な余裕が意欲向上につながる)②保育の特性に対する適切な助言(個別療育ではなく集団保育の視点の必要性)③発達理解のための継続した指導や研修体制(教育や支援方法の充実)④様々な専門性の協働(連携の強化)などが整ってこそ保育士の資質向上に寄与できると考える。