日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

2016年10月9日(日) 13:30 〜 15:30 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE83] 高校生に対する予防的心理支援としてのレジリエンス教育の実践と効果(2)

長期留学を経験した生徒達の3年間の縦断データから

岐部智恵子1, 鈴木水季2, 平野真理3 (1.お茶の水女子大学大学院, 2.郁文館夢学園, 3.東京家政大学)

キーワード:予防的心理支援, レジリエンス教育, 縦断研究

問題と目的
 児童青年期の精神的健康を教育現場から支援する取り組みが増加している。欧米においては,予防的支援としてユニバーサルアプローチによる心理教育的介入が実証研究の枠組みから多数報告されており,本邦においても実証報告の漸増傾向が見られる。
 一方,青年期はアイディンティティの獲得を発達課題とする変化の激しい時期であり,受験など様々なライフイベントやストレスフルな場面を経験することも多い。心理教育的支援を経験した青年期の生徒たちはそのようなライフイベントを経ながらどのような適応の姿を示すのだろうか。先行研究では,青年期の発達的変化を視野に含めた長期縦断デザインによる検討はほぼない。
 本実践研究では長期留学を控えた生徒達に対するスクールカウンセラー(SC)によるレジリエンス教育の実践と効果を1年間の長期留学期間を含め,卒業までの3年間追跡した。長期留学や大学受験というストレスフルなライフイベントを経験した生徒達の経時的な変化の姿を3年間の縦断データから検討し,今後の効果的な予防的心理支援教育について示唆を得ることを目的とする。
実践研究の概要・方法
〈研究の背景〉2年時に全員が長期海外留学をする私立高校で留学関連ストレスや帰国後の大学受験ストレスなどへの支援策について教師からSCに相談,予防的心理教育としてSCによるレジリエンス教育が実施された。
〈対象〉201X年度高校1年生88名(男子42名,女子46名:途中1名転出)を1年間の留学期間を含め卒業時まで追跡。
〈主な測定尺度〉二次元レジリエンス要因尺度(平野,2010),一般自己効力尺度(Ito, Schwarzer, & Jerusalem, 2005),自尊感情(Rosenberg, 1965; 山本他, 1982),DSRS-C バールソン児童用抑うつ性尺度 (Birleson, 1981; 村田他, 1996)。
〈授業実施時期〉1年時(7・9月)にレジリエンス教育(SPARKレジリエンスプログラム:Boniwell & Ryan, 2009)を本授業として実施。また,1年時留学直前,2年時帰国後,3年時受験期に復習を含む授業を行った。
〈心理測定時期〉心理尺度を用いた測定は介入前のベースライン(t1),各授業後(t2-t4),2年時留学中(t5),帰国後(t6),3年時秋(t7)と卒業時(t8)の合計8時点であった。
結   果
 1年生のレジリエンス教育の実施前をベースラインとして,授業直後と各フォローアップ測定時点での結果を対応のあるt検定で検討した。結果から,レジリエンス要因に対する自己評価と自己効力感は長期留学直前(t4)を除きすべて,自尊感情は留学経験(t5)以降すべてのフォローアップ時点において有意な上昇が示された(Table 1)。また,生徒達の経時的な心理変化を反復測定による分散分析を用い量的に検討した結果,留学や受験のライフイベントを経ながら,レジリエンス,自己効力感,自尊感情について自己評価が上昇していく様子が確認された。
考   察
 3年間の縦断データから,予防的心理支援を経験した生徒達が留学や受験という現実場面でのストレスフルなライフイベントに際して,困難に対峙しながらも成長する姿が実証的に示された点は特筆すべきであろう。長期留学や受験前は抑うつ得点が上昇していたことから,レジリエンス教育がライフイベントに対する予期不安を必ずしも軽減するものではないことが示されたものの,それらライフイベントの最中や卒業時に各心理尺度でポジティブな変化が見られたことから,予防的心理支援として長期的な意味を持ちうることが示唆された。今後の効果的な予防的心理支援教育の構築に向けて有意義な知見を得られたと考えられる。