The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE84] 中学生への睡眠健康教育プログラムにおける実施後自己評価調査の検討

神戸威行 (埼玉県スクールカウンセラー)

Keywords:睡眠健康教育, 生活習慣, 階層的重回帰

問題と目的
 児童期から思春期において,充分な睡眠の確保は身体的,精神的な発達の観点からも重要であると言える。三池(2014)は十分な睡眠を確保できないことによる生体リズムの混乱により,学校社会からの離脱の主原因となる慢性疲労症候群を招く恐れを指摘し,池田・兼板(2015)は疫学的視点から,思春期の乏しい精神衛生が新たに睡眠障害を起こしやすく,また睡眠障害がその後のメンタルヘルスの不調を引き起こしやすくなる点を指摘し,睡眠衛生教育の必要性を強調した。先述の知見を基に,児童生徒の睡眠や生活習慣に課題を持っていた中山間地域にあるA町において,全小中学校で学校保健委員会を中心に学校と家庭が連携した「睡眠健康教育プログラム」に取り組んだ。聞き取り調査の結果,睡眠をはじめとする児童・生徒の生活習慣に改善の傾向が視察された。本研究では,上述の「睡眠健康教育プログラム」における効果検証の一環として,町内の1つの中学校を抽出後,自己評価調査を実施し,どのような認識や行動が改善され,睡眠の重要性や生活習慣への意識が促されるのかを探索的に検討した。
方   法
調査時期・調査協力者・調査方法:プログラムは2015年12月より2月まで実施し,2016年2月に質問紙調査を集合調査法により実施した。調査協力者はB中学校に通う61名で,回答に未記入の箇所があった3名を除き,有効回答数は58名(男子30名,女子28名,平均年齢14.2歳)であった。なおプログラムと調査の実施においては,各関連機関・学校・家庭・調査対象者への説明後,同意を得た上で倫理面での配慮を講じつつ実施した。
調査内容:自己評価調査は,先述した知見を基に8項目の質問を作成し,改善傾向について5件法にて質問した(40点が最高点)。質問内容は①睡眠家族会話増加(質問紙での表記は「睡眠について家族の人と話すようになりましたか」)②睡眠時間確保意識③起床時間が定まる④就寝時間が定まる⑤メディア利用時間減少⑥疲れにくくなった⑦規則的生活習慣意識⑧睡眠リズム自己調整効力の8項目である。
分析結果と考察
 分析の結果,「総得点」との相関では「睡眠時間確保意識」(r= .85)・「規則的生活習慣意識」(r= .81)・「就寝時間が定まる」(r= .75)・「起床時間が定まる」(r= .72)の順で高い相関が認められた。「睡眠家族会話増加」(r= .69)・「睡眠リズム自己調整効力」(r= .62)・「メディア利用時間減少」(r= .60)・「疲れにくくなった」(r= .53)では中程度の相関が認められた。各項目間では,「睡眠時間確保意識」においては「規則的生活習慣意識」(r= .78)と「睡眠家族会話増加」(r= .70)に高い相関が認められ,「就寝時間が定まる」(r= .61)・「起床時間が定まる」(r= .54)・「睡眠リズム自己調整効力」(r= .46)に中程度の相関が認められた。また,「規則的生活習慣意識」では「起床時間が定まる」(r= .67)・「睡眠家族会話増加」(r= .57)・「就寝時間が定まる」(r= .52)・「睡眠リズム自己調整効力」(r= .45),「睡眠家族会話増加」では「就寝時間が定まる」(r= .45),「起床時間が定まる」では「就寝時間が定まる」(r= .56),「睡眠リズム自己調整効力」では「疲れにくくなった」(r= .49)で中程度の相関が認められた。
 また,睡眠健康教育プログラムにおける自己評価の改善にはどのような変数が影響を与えているのかを探索的に検討するため,ステップワイズ法により変数を選択し,「睡眠時間確保意識」を目的変数に,「規則的生活習慣意識」「睡眠家族会話増加」「就寝時間が定まる」「起床時間が定まる」を説明変数に設定した階層的重回帰分析を実施した。結果,本研究では睡眠健康教育プログラムを通して睡眠の重要性や生活習慣に対する自己評価を改善していくためには,①十分な睡眠時間を確保する意識を高めていくことが有効である点が示された。さらに,睡眠時間を確保する意識を高めていくためには,②起床する時間が定まることで得られる規則的な生活習慣に取り組んでいく意識を重視しつつ,③家族の中で自己の睡眠と健康に関する話題や意見交換を行うこと,④就寝時間を定めていくことが有効な取り組みである可能性が示唆された。