The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE(65-88)

ポスター発表 PE(65-88)

Sun. Oct 9, 2016 1:30 PM - 3:30 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PE88] 離乳食期の子どもをもつ保護者への連絡帳を用いた支援

「食事の連絡帳」のやりとりの分析から

伊藤優 (就実短期大学)

Keywords:離乳食, 保護者支援, 連絡帳

目   的
 保育士が保護者と連携して子どもに支援することによる効果は多くの先行研究で指摘されている(Gonzalez-Mena, & Bhavnagri, 2000)。特に,保育所を利用している母親の中には,仕事と子育ての両立の難しさから育児ノイローゼに陥ったり,他の保護者と関わる時間が少ないため,孤立傾向が強いことが明らかにされている(田中,1997)。このような保護者の負担や悩みを軽減するためにも,保育士がどのような役割を担うかが問われており,その中でも保育所における保育士と保護者の連携を検討することが必要となる。その際,時間的・精神的に余裕のない保育所を利用する保護者と保育士をつなぐものとして連絡帳が重要な役割を担っている。
 連絡帳に関する先行研究は,保育士と保護者の記述スタイルや連絡帳に対する両者の意識について検討したもの,連絡帳の記述から子どもの発達を明らかにしているものが多い(高・若尾,2015)。しかし,これらの先行研究は,実際の子どもの状況を考慮することなく保育士と保護者のやりとりを検討しているため,保育士が連絡帳を用いて保護者と連携して子どもに支援することが,保護者と子どもにどのような影響を与えるのかという一連の過程は明らかにされていない。
 そこで,本研究では,保育士が連絡帳を用いてどのように連携しようとしているのかを明らかにするため,食事に関する連絡帳での保育士と保護者のやりとりに焦点を当てる。食事は一日の活動や生活リズム,保護者の食事観などとも深く関わっていることから(江田,2006),食事に焦点を当てることで,保育所を利用する様々な家庭状況の保護者に対し,保育士が連絡帳を用いてどのように連携しようとしているのか導き出せると考えられる。
 以上のことから,本研究では,連絡帳での保育士と保護者のやりとりを食事内容に焦点を当てて検討することによって,保育士が保護者と連携して子どもに支援する様相を明らかにする。その際,本研究では,食事を特に重要視して保護者と連絡帳でやりとりしているH県T市B保育所で使用されている「食事の連絡帳」を対象とする。
方   法
(1)対象者:調査対象は,B保育所に通う女児A(調査開始時:0歳9ヶ月)の保育士と母親の「食事の連絡帳」でのやりとりを研究対象とする。女児Aは,入所当初離乳食の食事量が他児と比べ極端に少なかった。また,女児Aの母親は,女児Aに関して少しのことでも不安に感じやすく,女児Aの食事量の少なさにも強い不安を有していた。
(2)調査期間:20XX年7月中旬から20XX年11月初旬までを調査期間とした。連絡帳の総記述日は家庭・保育所共に67日分(合計134件)であった。
(3)観察及びインタビュー:「食事の連絡帳」に記述されていない実際の子どもの食事時の行動の変容や保育士の子どもに対する直接的な支援等も含め検討するため,観察やインタビューを併用した。具体的には,20XX年7月から一週間に一回の割合で保育所のおやつ場面と給食場面を観察した(計17日,約2550分)。また,毎回観察後に,主任保育士に,子どもの食事の変容や,子どもや母親に対する支援について尋ねた。
(4)分析の手続き:女児Aは,入所当初,離乳食の量が極端に少なかったことから,女児Aの食事量に着目した。主任保育士のインタビューでの語りと「食事の連絡帳」の記述内容,観察での女児Aの様子を参考にしながら,子どもの食事の変容及び連絡帳での記述を調査者がラベルに書き起こし,その都度主任保育士に確認してもらった(食事ラベル17個)。その後,それらを主任保育士とともに時系列に並べ,女児Aの食事量や食事行動の特徴ごとに時期区分し,それぞれの時期における連絡帳での保育士と母親のやりとりを検討した。
結果と考察
 本研究から,以下の二点が示された。
(1)連絡帳を通した保育士・保護者・子どもの変容
 「食事の連絡帳」で保育士と保護者が食事に関して情報を交換することで,保育士と保護者の関係性に変容が生じ,それに伴い子どもの食事量や食べられる食材が増加した。そして,このような子どもの変容を通して,保護者は子どもの成長を実感したり,子育ての不安を軽減することができていた。
(2)子育て支援に対する連絡帳の位置づけ
 本研究から,保育士は,「食事の連絡帳」で保護者と情報交換をする中で,保育士と保護者間の上下関係を隠微させながら,保護者に無意識の学習を促せていた。また,日々の変容著しい食事に焦点を当てたことで,保護者にとっては自身の支援で子どもが変容したという達成感を持ちやすく,保育士は連絡帳を通して,保護者の子育てに関する主体的なかかわりを促しやすかったことが示された。このような特性を有する「食事の連絡帳」を用いることで,保育士は意図的に保護者に行動変容を促すことが可能となり,最終的に保護者支援や子育て支援にもつながる効果を得られていた。