The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(01-64)

ポスター発表 PF(01-64)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PF38] インフォーマルな理科学習における感情経験

動機づけ・学習アプローチとの関連

後藤崇志1, 加納圭#2, 中西一雄#3 (1.京都大学, 2.滋賀大学, 3.守山市立明富中学校)

Keywords:理科学習, 動機づけ, 感情

問   題
 児童・生徒の理科を学ぶ動機づけを向上させようと科学技術コミュニケーション活動のようなインフォーマルな理科学習の場を設けることが推進されている(文部科学省, 2014)。このような理科学習の場に参加することは理科の学業成績の向上に寄与することは示されているが(e.g., Dulak et al., 2010),学習動機づけや学習アプローチのような心理的側面の成長について,どのような経験をすることが有効なのかという観点から検討したものは少ない。本研究ではインフォーマルな理科学習における児童の感情経験と,参加前後の学習動機づけ・学習アプローチの変化との関連を検討する。具体的には,インフォーマルな理科学習の場における楽しみや不安といった学習活動自体に付随する達成情動や(Pekrun et al., 2002),困惑や解決の喜びといった自己の中での知識の統合に関わる感情(D’Mello & Graesser, 2012; Litman, 2008)の経験が,その後の動機づけ・学習アプローチの成長にどのように影響するかを検討する。
方   法
分析データ 「自律的な学習者の育成に向けた科学技術コミュニケーション活動」プロジェクトにおいて収集された,M市内の小学校に通う児童を対象とした縦断調査のデータ,市内で行われた理科に関するワークショップ・実験教室での調査データデータを分析に用いた。本研究では全データのうち,2015年8月~12月に行われたワークショップか実験教室のうち少なくとも1つに参加し,縦断調査においてワークショップ・実験教室の前後(前:2015年5月/後:2015年12月)のデータが得られていた児童99名(男子43名,女子55名,不明1名/小学3年生35名,4年生33名,5年生25名,6年生6名)を分析対象とした。
分析に用いた変数 縦断調査においては,後藤・中西・加納 (2015 日本パーソナリティ心理学会第24回大会発表)の尺度を用いて理科学習に関する(1)自律的動機づけ(外的に強いられているのではなく,自ら進んで取り組んでいる心理状態),(2)達成目標志向(自己接近目標(自らの能力を熟達させようという志向),他者接近目標(自 らの能力を誇示しようという志向)),(3)学習アプローチ(深いアプローチ(情報を分類・整理し,既有の知識と結び付けて理解しようとする傾向),浅いアプローチ(必要な情報のみを暗記しようとする傾向))が測定されていた。
 ワークショップ・実験教室では終了時に質問紙を配布し,感情経験として楽しみ,退屈,不安,特殊的好奇心,拡散的好奇心,理解したことへの喜び,理解できないことへのいらだち,驚きの8つの感情経験について測定した。
結果と考察
 それぞれの変数ごとに,参加後の変数を従属変数,参加前の変数を統制変数として,感情経験を独立変数とした重回帰分析を行った。結果は表1に示した通りであり,自己接近目標・深いアプローチの変化には,拡散的好奇心(「イベントで知ったことよりも,もっとたくさんのことを知りたいと思う」)からの正の影響が見られた。また,他者接近目標の変化には,楽しみ(「時間が経つのを忘れるほど,夢中になっていた」)からの負の影響が見られた。
 拡散的な好奇心を感じることが内発的動機づけの熟達を志向する自己接近目標や,情報を分類・整理し,既有の知識と結び付けて理解しようとする深い学習アプローチの向上に寄与していることが示された。インフォーマルな理科学習の場においては,活動の中で完結せず,活動に参加した後に,より多くのことに関心が向くような設計が重要であることを示唆する結果である。
謝辞:本研究は公益財団法人 博報児童教育振興会「第10回 児童教育実践についての研究助成」による助成を受けて行われました。調査にご協力いただいた学校関係者,児童・生徒のみなさまに深く感謝申し上げます。