[PF62] 目標断念から再設定に至るプロセスの検討
Keywords:目標断念, 目標再設定, 精神的健康
問題と目的
人は誰しも,人生においてさまざまな目標を立て,それに向かって行動する。しかしながら,実際にはすべての目標を達成することは困難であり,達成不可能である目標を追い続けることは,かえって精神的健康にネガティブな影響を及ぼすと考えられる。Wrosch, Scheier, Carver & Schulz(2003)は,目標を追求し続けることと同様に重要なのは「目標を断念すること」,「目標を再設定すること」であると主張している。
これまでの研究において,目標断念・再設定が精神的健康に及ぼす影響について検討されてきたものの,目標断念・再設定することがどのようなプロセスを経て精神的健康に影響を与えるのかについては十分に検討されてこなかった。菅沼(2015)では,目標をあきらめるまでのプロセスについて検討されているものの,目標をあきらめてから再設定するまでのプロセスや,目標を断念したり再設定することに伴う気持ちの変化については明らかになっていない。目標断念から再設定に至るプロセスについて,実際に経験したエピソードから詳細に検討することは,目標が実現不可能となったとき,目標をあきらめ,より自分に適した目標をいかに再設定するかを示す上で重要となる。したがって本研究では,半構造化面接を行い,実際に体験したエピソードからボトムアップ的に目標断念から再設定に至るプロセスを検討することとする。
また,近年は外傷後成長(Post-traumatic growth; PTG)が注目され,ストレスを伴う体験が,人に及ぼす影響のポジティブな側面が取り上げられている(宅,2010)。目標断念・再設定が精神的健康に及ぼす影響だけではなく,目標を断念し,再設定した後の認知や行動の変化,成長感に着目することで,目標断念・再設定のより長期的な影響について言及することが可能になるだろう。
方 法
調査の手続き インタビューに際しては,「過去に重要な目標をあきらめ,新たな目標を設定した経験」について尋ねた。具体的には,感情や考え方,行動の変化に着目しながら,①あきらめ,再設定した目標についてのエピソード,②目標をあきらめるまでのプロセス,③目標を再設定するまでのプロセス,④あきらめ,再設定した経験による成長感や人生への影響の4点を尋ねた。面接時間は約50分であり,事前に許可をとった上で内容をICレコーダーに録音した。
調査時期および対象者 2015年11月に19歳~21歳の男女12名の研究協力者(男性2名,女性10名)に対して半構造化面接を行った。
分析方法 M-GTA(Modified Grounded Theory Approach)を参考に分析を行った。
結果と考察
インタビュー内容を基に,最終的に4個の大カテゴリ,9個の中カテゴリ,17個の小カテゴリ,48個の概念が生成された。重要な目標をあきらめてから新たな目標を再設定するまでのプロセスとそれに伴う心理状態や対処方略の変化という観点から,カテゴリ間の関連を検討し,仮説モデルとして結果図を作成した
その結果,目標が実現不可能となったときの心理状態は≪悔しい≫,≪後悔≫といったネガティブなものから,葛藤を経て,最終的に≪心が楽になった≫,≪後悔していない≫というように,ポジティブな体験として意味づけられていることが明らかとなった。すなわち,目標が実現不可能となったり目標を断念したりすることで一時的にはネガティブな感情が生起するものの,こうした感情は目標が実現不可能となった出来事から立ち直るためのステップでもあることがうかがわれる。
また,目標を断念して再設定した経験により,≪目標についての気づき≫,≪目標に対する肯定的意味づけ≫,≪自分自身の変化≫といった成長感が得られることが示された。また,≪あきらめることの認知の変化≫については,あきらめ,再設定した経験によって,あきらめることについての否定的イメージが和らいだことが語られた。したがって,目標をあきらめ,再設定した経験によって,あきらめることについての認知に質的な転換が生じる可能性が示唆された。
今後は,対象者を増やし,重要な目標をあきらめ,再設定した経験による「あきらめることに対する認知の変化」についてより詳細な検討を行う必要があるだろう。
人は誰しも,人生においてさまざまな目標を立て,それに向かって行動する。しかしながら,実際にはすべての目標を達成することは困難であり,達成不可能である目標を追い続けることは,かえって精神的健康にネガティブな影響を及ぼすと考えられる。Wrosch, Scheier, Carver & Schulz(2003)は,目標を追求し続けることと同様に重要なのは「目標を断念すること」,「目標を再設定すること」であると主張している。
これまでの研究において,目標断念・再設定が精神的健康に及ぼす影響について検討されてきたものの,目標断念・再設定することがどのようなプロセスを経て精神的健康に影響を与えるのかについては十分に検討されてこなかった。菅沼(2015)では,目標をあきらめるまでのプロセスについて検討されているものの,目標をあきらめてから再設定するまでのプロセスや,目標を断念したり再設定することに伴う気持ちの変化については明らかになっていない。目標断念から再設定に至るプロセスについて,実際に経験したエピソードから詳細に検討することは,目標が実現不可能となったとき,目標をあきらめ,より自分に適した目標をいかに再設定するかを示す上で重要となる。したがって本研究では,半構造化面接を行い,実際に体験したエピソードからボトムアップ的に目標断念から再設定に至るプロセスを検討することとする。
また,近年は外傷後成長(Post-traumatic growth; PTG)が注目され,ストレスを伴う体験が,人に及ぼす影響のポジティブな側面が取り上げられている(宅,2010)。目標断念・再設定が精神的健康に及ぼす影響だけではなく,目標を断念し,再設定した後の認知や行動の変化,成長感に着目することで,目標断念・再設定のより長期的な影響について言及することが可能になるだろう。
方 法
調査の手続き インタビューに際しては,「過去に重要な目標をあきらめ,新たな目標を設定した経験」について尋ねた。具体的には,感情や考え方,行動の変化に着目しながら,①あきらめ,再設定した目標についてのエピソード,②目標をあきらめるまでのプロセス,③目標を再設定するまでのプロセス,④あきらめ,再設定した経験による成長感や人生への影響の4点を尋ねた。面接時間は約50分であり,事前に許可をとった上で内容をICレコーダーに録音した。
調査時期および対象者 2015年11月に19歳~21歳の男女12名の研究協力者(男性2名,女性10名)に対して半構造化面接を行った。
分析方法 M-GTA(Modified Grounded Theory Approach)を参考に分析を行った。
結果と考察
インタビュー内容を基に,最終的に4個の大カテゴリ,9個の中カテゴリ,17個の小カテゴリ,48個の概念が生成された。重要な目標をあきらめてから新たな目標を再設定するまでのプロセスとそれに伴う心理状態や対処方略の変化という観点から,カテゴリ間の関連を検討し,仮説モデルとして結果図を作成した
その結果,目標が実現不可能となったときの心理状態は≪悔しい≫,≪後悔≫といったネガティブなものから,葛藤を経て,最終的に≪心が楽になった≫,≪後悔していない≫というように,ポジティブな体験として意味づけられていることが明らかとなった。すなわち,目標が実現不可能となったり目標を断念したりすることで一時的にはネガティブな感情が生起するものの,こうした感情は目標が実現不可能となった出来事から立ち直るためのステップでもあることがうかがわれる。
また,目標を断念して再設定した経験により,≪目標についての気づき≫,≪目標に対する肯定的意味づけ≫,≪自分自身の変化≫といった成長感が得られることが示された。また,≪あきらめることの認知の変化≫については,あきらめ,再設定した経験によって,あきらめることについての否定的イメージが和らいだことが語られた。したがって,目標をあきらめ,再設定した経験によって,あきらめることについての認知に質的な転換が生じる可能性が示唆された。
今後は,対象者を増やし,重要な目標をあきらめ,再設定した経験による「あきらめることに対する認知の変化」についてより詳細な検討を行う必要があるだろう。