The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF(65-90)

ポスター発表 PF(65-90)

Sun. Oct 9, 2016 4:00 PM - 6:00 PM 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PF65] 非行化した少年の自傷がもつ意味

一般の高校生との比較から

穴水ゆかり (北海道大学)

Keywords:自傷, 非行少年, 自傷の症状機制

問   題
 Matsumotoほか(2004,2005)は矯正施設入所者の自傷の実態と解離傾向,問題行動等との関係を指摘し,Hawtonほか(2002)や井上(2015)など,国内外の研究が青少年の自傷とその背景には性差があることを明らかにしてきた。自傷とは背景にあるさまざまな疾患や心性により引き起こされた症状の一つと考えられている一方で,今なお教育困難校や矯正教育現場では問題行動のひとつとして指導対象となる場合もあるが,非行少年と一般の青少年の自傷やその背景について比較した研究はみられないようだ。本研究では少年院在院者(以下,少年)と一般の高校生(以下,高校生),それぞれの属性と性差の違いに注目して,自傷を軸に「友人関係」「他者に対する過剰適応」等について比較検討することにより,非行化した少年と高校生の他者関係,特に友人関係のあり方について比較分析し,教育現場における青少年の援助と介入のあり方について検討することを目的とする。
方   法
 (1) 調査協力者:高校生760名(男子371名,女子389名)及び少年院在院者90名(男子70名,女子20名,以下,少年と略記)。
 (2) 調査の時期と方法:高校生においては2006年10~12月にかけて1~3年生を対象に自記式質問紙調査を実施した。20学級では集合調査法にて実施し,4学級では自宅に持ち帰らせて後日,HR教室にて回収した。調査時在籍者は965名で,783名から回収された(回収率81.1%)。さらに2008年3月,男子及び女子少年院それぞれの施設において,日,調査協力が可能な少年を対象に集合調査法にて実施した(回収率100%)
 (3) 調査内容:①山口と松本(2005)を参考に作成した「身体を刃物等で切る」経験の有無とその行動に関する質問 ②友人関係 ③Armstrongら(1997)による青年向け解離体験尺度(A-DES) ④桑山(2003)による過剰適応尺度。①②の項目は高校生では現在,少年には入院前のこととして質問した。
結果と考察
 (1) 「身体を切る」自傷経験:高校生男子5.4%,少年男子61.4%,高校生女子13.4%,少年女子65.0%で経験があり,このうち高校生男子28.0%,少年男子39.5%,高校生女子60.0%,少年女子41.7%は10回以上の自傷経験があると回答した。
 (2) 他者と自傷した経験:自傷経験者のうち高校生男子15.0%,少年男子57.1%,高校生女子12.8%,少年女子46.2%が経験ありと回答した。
 (3) 友人関係の満足度:自傷経験(2)×所属(4) ×友人関係の2要因の分散分析,さらに単純主効果の検定を行った(図1)。高校生は男女ともに少年男子及び女子よりも友人関係の満足度が高いが,自傷経験者のみでは高校生男子と少年男子間で有意差はみられなかった。自傷経験のある高校生男女は友人関係の不満が強いが,少年は男女ともに有意差がみられなかった。
 (4) 解離傾向: 自傷経験(2)×所属(4) ×A-DESの2要因の分散分析及び単純主効果の検定を行った。所属ごとでは少年男女は高校生男女それぞれより解離傾向が強く,所属・自傷経験で比較すると,少年男子及び高校生男女の自傷経験者は非自傷経験者よりも解離傾向が強かった。
 (5) 自傷経験(2)×所属(4)×対他的過剰適応の2要因の分散分析及び単純主効果の検定を行った。所属ごとでは男子高校生が他の3所属よりも,女子高校生は少年男女よりも対他的過剰適応傾向が強く,各群の自傷経験での比較では,自傷経験のない少年男子及び自傷経験のある高校生女子で対他的過剰適応傾向が強かった。
 多くの研究では自傷と友人関係,解離の関連が明らかにされているが,少年男女においては,これらに関連が認められなかった。従って,一般の高校生にとって自傷は自我機能の回復等の機能があると考えられる一方で,非行少年にとって自傷はそうした機能をもたないと考えられる。そのため,一般高校生とは異なる非行少年にとっての自傷の意味を考えることが重要であると思われる。