[PF71] 管理職の首尾一貫感覚(SOC)は特別支援教育における学校経営に影響を与えるか
自立活動と合理的配慮との関連から
キーワード:首尾一貫感覚, 学校経営, 自立活動
問題と目的
平成28年4月から公的機関では合理的配慮が法的義務となった。公立学校では学校長の経営手腕が特別支援教育の推進のカギを握るといっても過言ではない。それゆえ,管理職は日常的にストレスフルな状況である。木村ら (2001) が大学生のSOCを高める要因として,中学校・高校時期の学校生活での肯定的な経験が関連していることを明らかにしていることからも,管理職の学校経営によって,特別に支援の必要な児童生徒のSOCが規定されることが考えられる。そこで,まず初めに自立活動と合理的配慮との関連から,管理職のSOCが学校経営にどのように影響するのか,意識調査を通して探索的に検討することを目的とした。
方 法
1.調査の手続き
(1) 調査対象:川崎市立小学校113名・中学校52名の学校長(回収:小学校89名,中学校33名)
(2) 調査期日:2016年2月3日~3月31日
(3) 調査方法:川崎市総合教育センターを通して校長会に依頼し,無記名自記式質問紙調査を逓送便で送付し,同センターへ返送してもらった。
(4) 倫理的配慮:質問紙に目的と回答方法,質問紙の提出により研究への同意とする記載をした。
2.調査内容
(1)フェイスシート (2)SOC尺度3項目版 (3)自立活動の必要性 (4)自立活動に関する校内状況16項目 (α=.871) (5)特別支援教育の指導力自己評価16項目 (α=.961) (6)学校経営に関する自由記述2問 (7)自立活動の指導項目の選択等で構成した。
3.分析方法
SOC得点を高群と低群に分け,「2調査内容」の(2)(4)(5)について欠損値を除外した101名,自由記述の有無については122名を分析対象とし,SPSS22,AMOS22を使用し統計解析を実施した。
結 果
(1) SOC得点と各項目の相関分析
「合理的配慮への対応」「環境の把握(メタ認知)」に対し,把握可能感と処理可能感は相関 (r=.382~r=438)があり,有意味感は「合理的配慮への対応」に対し,弱い相関(r=.215)が見られた。
(2) SOC高群と低群の相違
①自立活動に関する校内状況
5%水準で「自立活動を定期的に実施」(t(99)=2.549 )「自立活動の理解」(t(99)=2.126 )「自立活動の目標の共有」(t(99)=2.203 )「COによる自立活動の支援」(t(99)=2.042 )「自立活動の必要性の認識」(t(99)=2.379) に対し,高群は低群より有意に高い評価をしていた。
②特別支援教育の指導力自己評価
「学習指導要領自立活動への理解」以外の15項目は,高群は低群より有意に高い評価をしていた。1%水準で有意差のあった代表的な項目は「学級集団内での自立活動の指導助言」(t(99)=3.739)「各教科等での自立活動の指導助言 (t(99)=3.655)「合理的配慮への対応」(t(99)=3.823) などであった。
③自由記述の有無
高群 (41/65) と低群(34/57)では記述人数の割合は有意であった。(χ2=6.289 df=1 p<.05)。
(3) 学校経営プロセスの仮説モデル
モデルの適合度はGFI=.934, AGFI=.886, CFI=.983, RMSEA=.054となり,概ね良好な値である仮説モデルが構築できた(Figure 1)。
考 察
管理職としてSOCの資質が特別支援教育における学校経営に影響を与えることが示唆された。SOC高群は特別支援教育についての自己評価が高く,児童生徒への理解や支援をしているという感覚をもつ傾向があるので,客観性を担保するには生徒の評価、外部評価との対比が必要である。学校経営の質の向上の一つの方法として具体的な仮説モデルの提案をしたが,川崎市の学校長に限定されたものであるため,一般化することはできない。さらに今後実践的に検証することも課題である。
【付記】調査にご協力頂いた学校長の皆様に深く感謝申し上げます。
平成28年4月から公的機関では合理的配慮が法的義務となった。公立学校では学校長の経営手腕が特別支援教育の推進のカギを握るといっても過言ではない。それゆえ,管理職は日常的にストレスフルな状況である。木村ら (2001) が大学生のSOCを高める要因として,中学校・高校時期の学校生活での肯定的な経験が関連していることを明らかにしていることからも,管理職の学校経営によって,特別に支援の必要な児童生徒のSOCが規定されることが考えられる。そこで,まず初めに自立活動と合理的配慮との関連から,管理職のSOCが学校経営にどのように影響するのか,意識調査を通して探索的に検討することを目的とした。
方 法
1.調査の手続き
(1) 調査対象:川崎市立小学校113名・中学校52名の学校長(回収:小学校89名,中学校33名)
(2) 調査期日:2016年2月3日~3月31日
(3) 調査方法:川崎市総合教育センターを通して校長会に依頼し,無記名自記式質問紙調査を逓送便で送付し,同センターへ返送してもらった。
(4) 倫理的配慮:質問紙に目的と回答方法,質問紙の提出により研究への同意とする記載をした。
2.調査内容
(1)フェイスシート (2)SOC尺度3項目版 (3)自立活動の必要性 (4)自立活動に関する校内状況16項目 (α=.871) (5)特別支援教育の指導力自己評価16項目 (α=.961) (6)学校経営に関する自由記述2問 (7)自立活動の指導項目の選択等で構成した。
3.分析方法
SOC得点を高群と低群に分け,「2調査内容」の(2)(4)(5)について欠損値を除外した101名,自由記述の有無については122名を分析対象とし,SPSS22,AMOS22を使用し統計解析を実施した。
結 果
(1) SOC得点と各項目の相関分析
「合理的配慮への対応」「環境の把握(メタ認知)」に対し,把握可能感と処理可能感は相関 (r=.382~r=438)があり,有意味感は「合理的配慮への対応」に対し,弱い相関(r=.215)が見られた。
(2) SOC高群と低群の相違
①自立活動に関する校内状況
5%水準で「自立活動を定期的に実施」(t(99)=2.549 )「自立活動の理解」(t(99)=2.126 )「自立活動の目標の共有」(t(99)=2.203 )「COによる自立活動の支援」(t(99)=2.042 )「自立活動の必要性の認識」(t(99)=2.379) に対し,高群は低群より有意に高い評価をしていた。
②特別支援教育の指導力自己評価
「学習指導要領自立活動への理解」以外の15項目は,高群は低群より有意に高い評価をしていた。1%水準で有意差のあった代表的な項目は「学級集団内での自立活動の指導助言」(t(99)=3.739)「各教科等での自立活動の指導助言 (t(99)=3.655)「合理的配慮への対応」(t(99)=3.823) などであった。
③自由記述の有無
高群 (41/65) と低群(34/57)では記述人数の割合は有意であった。(χ2=6.289 df=1 p<.05)。
(3) 学校経営プロセスの仮説モデル
モデルの適合度はGFI=.934, AGFI=.886, CFI=.983, RMSEA=.054となり,概ね良好な値である仮説モデルが構築できた(Figure 1)。
考 察
管理職としてSOCの資質が特別支援教育における学校経営に影響を与えることが示唆された。SOC高群は特別支援教育についての自己評価が高く,児童生徒への理解や支援をしているという感覚をもつ傾向があるので,客観性を担保するには生徒の評価、外部評価との対比が必要である。学校経営の質の向上の一つの方法として具体的な仮説モデルの提案をしたが,川崎市の学校長に限定されたものであるため,一般化することはできない。さらに今後実践的に検証することも課題である。
【付記】調査にご協力頂いた学校長の皆様に深く感謝申し上げます。