[PF76] 中高生の社会的アイデンティティに関わる認識が共生志向に及ぼす影響
キーワード:社会的アイデンティティ, 共生教育
問題と目的
性別,障害,人種等に起因する差別や偏見等が生じている社会的現状の中,人々の多様性を認めあう共生社会の実現に向けて,学校教育における「共生教育」の在り方が問われている(岡本・田中,2011)。特に,自らがある社会的カテゴリーに属し(例「日本人である」),そこに個人の感情・価値的な意味づけが伴うものは社会的アイデンティティ(Social Identity,以下SI)(Tajfel & Turner,1986)と呼ばれ,これが否定的な形で固定化されると,個人間・集団間を分断させ,偏見・差別や社会的紛争を助長してしまう(Bal-Tal,2011)。カテゴリー間の分断を除去・変容する取組がその改善に重要との指摘もあり(e.g., Brewer, 2011),SIに関わる個々人の認識は,共生教育を効果的に展開する上で考慮すべき一つの重要な要因と考えられる。そこで本研究では,中高生のSIに関わる認識が共生社会を肯定的に志向する態度(共生志向)に及ぼす影響を検討することを目的とする。
方 法
対象 X県Y市の中学3年生420名,X県の県立高校3年生675名。有効回答数1,095票(回収票数1,121)
質問紙の構成 日常で意識するSIに関わる自己の認識(「男(女)である」「若者である」など10項目5件法)の他に,性別,家族構成,家庭内での他者の世話経験,共生に関わる他者との接触・交流経験,共生社会という言葉の認知,共生志向に関わる態度など。本研究に必要な項目を抜粋し,主成分分析により項目群の合成変数を作成して分析に用いた(例:SIに関わる認識の全10項目を用いた合成変数(第一主成分)「SIに関わる認識の多様性」を作成)。
結果と考察
中学生・高校生別のパス解析
障害者や外国人,高齢者等の多様な他者との交流経験が,共生社会という言葉の認知やSIに関わる自己の認識を媒介として,共生志向に影響を及ぼす仮説モデルを設定してパス解析を行った。その結果,SIに焦点を当てると,特に中学生よりも高校生において,SIに関わる認識の多様性が,共生志向(例:「他者のための援助要請」(β=.13),「障害者や外国人のための社会づくり」(β=.17))に有意な正の影響を示した。
クラスタ分析に基づく検討
SIに関わる認識の各項目の標準得点を用いてクラスタ分析(k-means法)を行った結果,全項目で正の値を示した「SI多様群」(CL1; 425名),「男(女)である」「中学生(高校生)である」等の項目で正の値を示した「ミクロSI群」(CL2; 272名),「(日本などの)国民である」「○○人(日本人など)である」項目のみ正の値を示した「マクロSI群」(CL3; 237名),全て負の値を示した「SI低群」(CL4; 126名)に分類された。
各群を独立変数,共生志向を従属変数に分散分析を行った結果,CL1の「障害者や外国人のための社会づくり」「外国及び外国人との積極的交流」が有意に高かった(Table 1)。
以上から,中高生への共生教育を検討する際に,生徒の発達段階を踏まえつつSIに関わる自己認識の在り方についても考慮する必要性が示唆された。
付記:本研究は,JSPS科研費(課題番号26381119,研究代表者:飯田浩之)の助成を受けて行われました。
性別,障害,人種等に起因する差別や偏見等が生じている社会的現状の中,人々の多様性を認めあう共生社会の実現に向けて,学校教育における「共生教育」の在り方が問われている(岡本・田中,2011)。特に,自らがある社会的カテゴリーに属し(例「日本人である」),そこに個人の感情・価値的な意味づけが伴うものは社会的アイデンティティ(Social Identity,以下SI)(Tajfel & Turner,1986)と呼ばれ,これが否定的な形で固定化されると,個人間・集団間を分断させ,偏見・差別や社会的紛争を助長してしまう(Bal-Tal,2011)。カテゴリー間の分断を除去・変容する取組がその改善に重要との指摘もあり(e.g., Brewer, 2011),SIに関わる個々人の認識は,共生教育を効果的に展開する上で考慮すべき一つの重要な要因と考えられる。そこで本研究では,中高生のSIに関わる認識が共生社会を肯定的に志向する態度(共生志向)に及ぼす影響を検討することを目的とする。
方 法
対象 X県Y市の中学3年生420名,X県の県立高校3年生675名。有効回答数1,095票(回収票数1,121)
質問紙の構成 日常で意識するSIに関わる自己の認識(「男(女)である」「若者である」など10項目5件法)の他に,性別,家族構成,家庭内での他者の世話経験,共生に関わる他者との接触・交流経験,共生社会という言葉の認知,共生志向に関わる態度など。本研究に必要な項目を抜粋し,主成分分析により項目群の合成変数を作成して分析に用いた(例:SIに関わる認識の全10項目を用いた合成変数(第一主成分)「SIに関わる認識の多様性」を作成)。
結果と考察
中学生・高校生別のパス解析
障害者や外国人,高齢者等の多様な他者との交流経験が,共生社会という言葉の認知やSIに関わる自己の認識を媒介として,共生志向に影響を及ぼす仮説モデルを設定してパス解析を行った。その結果,SIに焦点を当てると,特に中学生よりも高校生において,SIに関わる認識の多様性が,共生志向(例:「他者のための援助要請」(β=.13),「障害者や外国人のための社会づくり」(β=.17))に有意な正の影響を示した。
クラスタ分析に基づく検討
SIに関わる認識の各項目の標準得点を用いてクラスタ分析(k-means法)を行った結果,全項目で正の値を示した「SI多様群」(CL1; 425名),「男(女)である」「中学生(高校生)である」等の項目で正の値を示した「ミクロSI群」(CL2; 272名),「(日本などの)国民である」「○○人(日本人など)である」項目のみ正の値を示した「マクロSI群」(CL3; 237名),全て負の値を示した「SI低群」(CL4; 126名)に分類された。
各群を独立変数,共生志向を従属変数に分散分析を行った結果,CL1の「障害者や外国人のための社会づくり」「外国及び外国人との積極的交流」が有意に高かった(Table 1)。
以上から,中高生への共生教育を検討する際に,生徒の発達段階を踏まえつつSIに関わる自己認識の在り方についても考慮する必要性が示唆された。
付記:本研究は,JSPS科研費(課題番号26381119,研究代表者:飯田浩之)の助成を受けて行われました。