[PF80] University Personality Inventory再構成版開発の試み
主として項目反応を用いて
キーワード:UPI, 項目反応理論, 学生相談
はじめに
UPI(University Personality Inventory)は,学生相談カウンセラーと大学精神科校医が携わり作成された(宮田,1968),主として大学新入生を対象とした60項目・2件法の精神的健康度調査である(松原,2004)。日常的な困りごとを含んだ質問項目からなり(吉武,1995;吉村,1998),無料で使用でき,40年余にわたるデータ蓄積がある。これらの利点から,新入学時に実施されるスクリーニングテストのスタンダードである(早坂,2010)。しかし,妥当性・信頼性の検証が不十分である(山田,1975;沢崎・松原,1989;吉村,1998)。また,診断モデルにもとづいて作成されており,項目内容が必ずしも,学生相談カウンセラーが学生との間で取り扱う内容と合致していない(近田,1999)。
したがって,新入学時に早々に実施することで,学生相談機関に対する誤った理解を促す恐れがある(近田,1999)等の課題がある。。
一方,GHQやK10など既存の疫学的スクリーニングテストでは,項目内容がうつや不安など特定の症状に偏るきらいがある。学生相談での相談内容は多様化しており,病理のスクリーニングが正確であるというだけでは,新入生全体に対し実施するスクリーニングテストとして不十分である。
これらの問題点を克服するため,UPIを5件法に改訂し,また,項目反応理論による分析から多段階化に不適切な2項目を除いたUPI-GR(Graded Response)58が開発され,一定の妥当性・信頼性が検証された(酒井,2015)。しかし,UPI原版同様,その項目内容が,学生相談カウンセラーが学生との間で取り扱う内容と合致していない(近田,1999)等といった問題点は残された。診断モデルではない,「学生相談モデル」にもとづくUPIの再構成が求められている。
目 的
本研究では,UPI-GR58の中から,学生相談カウンセラーが扱う内容に対応している等の「学生相談モデル」にもとづく項目選択を行い,学生相談モデルにもとづくUPIの再構成を目的とする。
方 法
2009~2011年度A大学Bキャンパス新入生を対象としてK10およびGHQ-30を実施した。また,2010・2011年度新入生には,併せてUPI-GR58を同時実施した。そのうち欠損値のない回答(N=1101,N=553)を,項目反応理論にもとづき分析し,かつ複数の学生相談カウンセラー等による,複数回の項目吟味,項目選択を行った。
なお,新入生には,調査に協力しなくとも不利益はないこと,回答は統計的に分析され,個人は特定されないことを明示した。
項目反応理論による分析には,EasyEstimationシリーズ(熊谷,2009)の段階反応モデル対応版であるEasyestGRM(熊谷,2015)を使用した。
結 果
UPI-GR58の中から,「学生相談モデル」に合致する25項目が選択された。項目1,7,8,9,10,11,12,14,16,22,23,25,26,28,30,36,38,39,41,43,44,52,56,58,60である。これに,学生が回答しやすいようライスケール2項目(項目20,35)を加えた,新版の5件法UPIを,UPI-27NT(New Theory)とした。
また,UPI-27NTは,従来の疫学的カットオフポイント付近だけでなく,学生相談利用の頻度が高まる精神的健康度レベルθ(酒井他,2016)においても,十分なテスト情報量をもつことが,項目反応理論による分析結果から確認された。
UPI(University Personality Inventory)は,学生相談カウンセラーと大学精神科校医が携わり作成された(宮田,1968),主として大学新入生を対象とした60項目・2件法の精神的健康度調査である(松原,2004)。日常的な困りごとを含んだ質問項目からなり(吉武,1995;吉村,1998),無料で使用でき,40年余にわたるデータ蓄積がある。これらの利点から,新入学時に実施されるスクリーニングテストのスタンダードである(早坂,2010)。しかし,妥当性・信頼性の検証が不十分である(山田,1975;沢崎・松原,1989;吉村,1998)。また,診断モデルにもとづいて作成されており,項目内容が必ずしも,学生相談カウンセラーが学生との間で取り扱う内容と合致していない(近田,1999)。
したがって,新入学時に早々に実施することで,学生相談機関に対する誤った理解を促す恐れがある(近田,1999)等の課題がある。。
一方,GHQやK10など既存の疫学的スクリーニングテストでは,項目内容がうつや不安など特定の症状に偏るきらいがある。学生相談での相談内容は多様化しており,病理のスクリーニングが正確であるというだけでは,新入生全体に対し実施するスクリーニングテストとして不十分である。
これらの問題点を克服するため,UPIを5件法に改訂し,また,項目反応理論による分析から多段階化に不適切な2項目を除いたUPI-GR(Graded Response)58が開発され,一定の妥当性・信頼性が検証された(酒井,2015)。しかし,UPI原版同様,その項目内容が,学生相談カウンセラーが学生との間で取り扱う内容と合致していない(近田,1999)等といった問題点は残された。診断モデルではない,「学生相談モデル」にもとづくUPIの再構成が求められている。
目 的
本研究では,UPI-GR58の中から,学生相談カウンセラーが扱う内容に対応している等の「学生相談モデル」にもとづく項目選択を行い,学生相談モデルにもとづくUPIの再構成を目的とする。
方 法
2009~2011年度A大学Bキャンパス新入生を対象としてK10およびGHQ-30を実施した。また,2010・2011年度新入生には,併せてUPI-GR58を同時実施した。そのうち欠損値のない回答(N=1101,N=553)を,項目反応理論にもとづき分析し,かつ複数の学生相談カウンセラー等による,複数回の項目吟味,項目選択を行った。
なお,新入生には,調査に協力しなくとも不利益はないこと,回答は統計的に分析され,個人は特定されないことを明示した。
項目反応理論による分析には,EasyEstimationシリーズ(熊谷,2009)の段階反応モデル対応版であるEasyestGRM(熊谷,2015)を使用した。
結 果
UPI-GR58の中から,「学生相談モデル」に合致する25項目が選択された。項目1,7,8,9,10,11,12,14,16,22,23,25,26,28,30,36,38,39,41,43,44,52,56,58,60である。これに,学生が回答しやすいようライスケール2項目(項目20,35)を加えた,新版の5件法UPIを,UPI-27NT(New Theory)とした。
また,UPI-27NTは,従来の疫学的カットオフポイント付近だけでなく,学生相談利用の頻度が高まる精神的健康度レベルθ(酒井他,2016)においても,十分なテスト情報量をもつことが,項目反応理論による分析結果から確認された。