日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PF(65-90)

ポスター発表 PF(65-90)

2016年10月9日(日) 16:00 〜 18:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PF86] 児童の学校適応感の形成過程と社会的スキルの関連に関する微視発生的研究

河村智美1, 浅川潔司2, 佐々木聡3, 真田穣人4, 南雅則5, 梶原由貴6 (1.三田市立つつじが丘小学校, 2.不登校回復支援センター, 3.松蔭中学校・高等学校, 4.大阪市立新高小学校, 5.宝塚市立光ガ丘中学校, 6.不登校のための学校カウンセリングセンター)

キーワード:児童, 学校適応感, 社会的スキル

問題と目的
 児童の学校適応感の測定に有効な尺度として河村(2015)がある。この尺度を用いて児童の社会的スキル水準が児童の学校適応感の形成過程とどのように関連するのかという問題を検討することが本研究の目的であった。
方   法
 研究協力者:公立小学校5・6年生206名が本研究に参加した。調査内容:児童の学校適応感の測定には河村(2015)による児童用学校適応感測定尺度(27項目)を用い,社会的スキル水準の測定には,菊池(1988a・b)によるKiSS-18(18項目)を児童用に質問文の表現を改変して用いた。調査時期:進級に伴う学級編制前の2月,学級編制後の4月,6月に調査は実施された。
結   果
 3(社会的スキル水準群)×2(性)×3(調査時期)の3要因混合計画の分散分析の結果,全体尺度では社会的スキル水準の主効果が有意であり,適応感得点は高群>中群>低群の順に高かった。時期の主効果も有意であり,適応感得点は2月<4月≒6月の順に高かった。さらに,社会的スキル水準と性の交互作用が有意であり,男女ともに適応感得点は高群>中群>低群の順に高く,社会的スキル低群では女子よりも男子の適応感得点が高かった。さらに,社会的スキル水準と調査時期の交互作用も有意であり,社会的スキル高群においては時期の有意差はなく,社会的スキル中群と低群においては2月<4月≒6月の差が有意であった(Table 1,Figure1・2参照)。
考   察
 社会的スキル水準の高い児童群ほど学級編制後の新環境においても学校適応感得点が有意に高いという結果は,陣崎(2015)の他者への親和動機が学級適応感を向上させるという結果を支持するものとなった。また,児童の学校適応感得点が旧環境にいた2月から新環境である4月にかけて著しく上昇し,その後4月から6月にかけては同じような水準を維持するという結果は,児童が新環境において新たな均衡化を図ろうとする動機や行動,新環境がもたらす他者との交流の機会や積極的に働きかける機会が増え,その後落ち着きを示すことを示していた。そして,社会的スキル高群の児童の学校適応感には安定性が見られ,中群・低群の児童の学校適応感得点は,新環境との相互作用によって高まった適応感得点を維持することもあれば,徐々に下がっていくこともあることが示唆された。本研究の結果からも,個人が環境に対して積極的に働きかけたり,相互交流を活発に行ったりする特性が児童の新環境への適応に影響することが示唆されたが,これは,Wapner,et al. (1973)の見解を支持するものであった。