The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PG04] 育児期フルタイム就労女性の両立感情

労働時間・ソーシャルサポートとの関連

中山千秋 (白百合女子大学)

Keywords:フルタイム就労, 両立感情, ソーシャルサポート

問題と目的
 近年,幼い子どもを育てながらフルタイム就労する女性は増加傾向にある。しかし育児期にフルタイム就労する場合には,仕事と育児の両立に葛藤を抱えやすいことが指摘されている。他方,仕事と育児を両立することで,双方に良い影響があると肯定的に捉えている女性もいる。
 そこで,本研究では,このような仕事と育児の両立についての葛藤や肯定感を明らかにし,そのような感情は,労働時間やソーシャルサポートとどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とする。
方   法
調査対象者 女性の有業率とM字の谷の深さを考慮した全国7地域(北海道,山形県,新潟県,関東地方,広島県,高知県,福岡県)を選定し,その地域に住む2〜5歳の幼児の母親を調査対象として質問紙調査を行った。
調査手続き 2006年3〜6月にかけて上記地域の幼稚園・保育園を通して配布し,個別郵送法にて回収した。配布数は10,028通,有効回答数は3,031通(有効回答率30.3%)である。
分析対象者 有効回答数のうち,現在フルタイム就労していると回答した者1,135名を分析対象者とした。
調査内容 仕事と育児の両立感情を表す11項目を作成し,各項目について4段階(「とても当てはまる(4点)」から「全くあてはまらない(1点)」により評定を求めた。また,労働時間として1週間あたりの労働時間を,ソーシャルサポートとして職場(上司や同僚,職場)のサポート(5項目),道具的サポート(3項目),情緒的サポート(3項目)を質問した。
結果と考察
仕事と育児の両立感情 仕事と育児の両立感情11項目について最尤法による因子分析を行い,因子負荷量が.40未満の4項目を削除し,残った項目について再度因子分析の作業を繰り返した。第Ⅰ因子は仕事と育児の両立に辛さや葛藤を抱えている状態を表しており,<両立の辛さ・葛藤>と命名した。第Ⅱ因子は仕事と子育ての双方に良い影響があるとする状態を示しており,<両立の肯定感>と命名した。アルファ係数は,第Ⅰ因子が.744,第Ⅱ因子が.668であり,尺度の信頼性は十分な結果である。以下の分析では,各因子の粗点の合計を項目数で割った得点を各因子の得点とする。平均値は第Ⅰ因子が2.49,第Ⅱ因子が2.80であった。
労働時間との関連 1週間あたりの労働時間は平均41.8(SD8.1)時間であり,労働時間を上位,下位20%ずつの位置により労働時間高群(45.2時間以上)と低群(39.0時間以下)に分けた。両立感情と労働時間との関連を検討するため,労働時間を独立変数とし,両立感情を従属変数とするt検定を行った(Table 1)。その結果,<両立の辛さ・葛藤>に有意な差が見られ,労働時間が長い場合,両立の葛藤を抱えやすいことが示された。
ソーシャルサポートとの関連 ソーシャルサポートについては,各項目の粗点の合計を項目数で割った得点を各サポートの得点とした。得点が高いほどサポートを得ていることになる。両立感情とソーシャルサポートとの関連を相関分析により検討した(Table 2)。その結果,<両立の辛さ・葛  藤>とソーシャルサポート間には,いずれも負の相関があり,サポートが少ないと葛藤が強くなる(サポートが多いと葛藤が低下する)という関連が示された。特に<両立の辛さ・葛藤>と<職場のサポート>間には中程度の負の相関が見られており,両立感情の否定的な側面において職場のサポートの重要性が示唆された。また<両立の肯定感>については<情緒的サポート>との間に弱い正の相関が見られており,情緒的なサポートを得ていることで両立を肯定的に感じやすくなる(サポートが少ないことで肯定的な感情が得にくい)ことが示唆された。
 以上の結果から,育児期フルタイム就労女性の両立感情は労働時間やソーシャルサポートと関連しており,特に長時間労働や職場のサポート不足が葛藤に関連しやすいことが示唆された。