The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PG12] 教師の働きかけと学級適応感が児童の感動経験に与える影響

木村若菜1, 橋本巌2 (1.愛媛大学大学院, 2.愛媛大学)

Keywords:感動経験, 学級適応感, 児童

問題と目的
 児童期の学級生活は仲間関係の場として重要である。橋本・矢野(2012,感情心)は,学級の集団活動などによる感動が児童に経験されること,そして児童の感動に対して,特に自己開示的な学級の雰囲気が重要な影響を及ぼすことを明らかにした。この学級雰囲気の影響は,学級内の対人関係に限らず,自然や芸術による感動にも及んだことから,学級の自己開示的雰囲気は,感動喚起事象を生じやすくし,また感動を表明・意識する過程を発達させる環境要因としても重要と推測される。一方,自発的な仲間集団と異なり,学級集団は教師が関与している。学級集団は教師の教育的配慮により子どもの多様な能力を伸ばすことができる(小石,1995)。また,教師の働きかけが仲間間での「笑い」という肯定的感情表出を促すことも見出されている(橋本・石原,日教心 2010)。
 したがって教師による学級全体や個別の児童に配慮した働きかけが,学級雰囲気や学級適応感に影響し,さらに子どもの感動経験につながるという間接効果が予想される。また他方では,教師から受けた個別的配慮や激励が直接的に感動経験の要因となった自伝的記憶(速水ら 1993等)の報告もあり,教師の児童への働きかけが,学級雰囲気の認知や適応感に関わらず,直接的に児童の感動経験を左右する要因となるかもしれない。以上から,本研究では,教師の働きかけと学級適応感が感動に及ぼす影響を検討する。
方   法
調査対象者と手続き A県小学校3校(4~6年)を対象に無記名式質問紙調査を実施。回答に不備のない739名を分析の対象とした(有効回答率74%,4年255名,5年207名,6年277名,男児372名,女児367名)。なお本研究は,児童の感動と学級適応感を扱う研究の一環として行われ,教師の働きかけ尺度はそのうち2校で実施された(有効回答率68.5%,4年149名,5年83名,6年173名,男児213名,女児192名)。
調査内容 (1)感動経験尺度:橋本・矢野(2012)を参考に作成した24項目,3件法。内訳は,直接経験による感動尺度として,a友人関係による感動,b自然・芸術から受ける感動(計18項目),別尺度として,cメディアを通しての間接経験による感動6項目。(2)教師の働きかけ尺度:橋本・矢野(2012),橋本・石原(2010)を参考に作成(20項目,4件法)。4因子(d授業内における学級全体への働きかけ,eクラスの一体感を高める働きかけ,f個人を気遣う働きかけ,g個人を賞賛・肯定する働きかけ)を想定。(3)学級適応感尺度:江村・大久保(2012,発達心研)の小学生用学級適応感尺度(15項目,4件法)を用いた。3因子(h居心地の良さの感覚,i充実感,j被信頼感・受容感)を想定。
結果と考察
1.各尺度の因子分析 (1)感動経験尺度:a及びbのみ因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った。aは「友人相互の成長を促す感動」(α=.78),「仲間の思いやりにふれた感動」(α=.71)の2因子となり,bは想定通りに負荷・命名され(α=.65)3因子解を選択。メディアによる感動(別尺度)は,α=.60であった。(2)教師の働きかけ尺度:最尤法・プロマックス回転を行い,3因子解を選択。dとeが一括され「学級全体への働きかけ」(α=.78)となり,f(α=.71)とg(α=.75)は想定通りに負荷・命名された。(3)学級適応感尺度:主因子法・プロマックス回転を行い,2因子解を選択。hとiが一括され「居心地の良さの感覚」(α=.92)となった。jは想定通りに負荷・命名された(α=.83)。
2.尺度平均の検討 感動種別による差は見られず,性差は男児<女児だった。学年差はbを除き4年<5年≒6年だった。同様の学年差・性差は教師の働きかけ,学級適応感にも見られた。
3.教師の働きかけと学級適応感が感動経験与る影響
 教師の働きかけ及び学級適応感を説明変数,感動経験を目的変数として,児童全体・学年別・男女別に重回帰分析を行った。(1)教師の働きかけが感動経験に及ぼす影響は,児童全体の分析では,教師の働きかけの「学級全体への働きかけ」から感動4因子に対して正の直接効果が有意であった。学年別にみると「学級全体への働きかけ」の直接効果は,4・5年は「メディアによる感動」や「自然・芸術から受ける感動」に対するものであるが,6年では「友人相互の成長を促す感動」という人物から受ける感動へと移行していた。また6年と女児のみ,「個人を気遣う働きかけ」が「仲間からの思いやりにふれた感動」に正の直接効果を与えていた。
 (2)教師の働きかけが学級適応感を介して感動に与える影響では,児童全体及び5・6年の分析では,教師の「学級全体への働きかけ」と「個人を賞賛する働きかけ」により影響を受ける「居心地の良さの感覚」が,「友人相互の成長を促す感動」と「仲間の思いやりにふれた感動」に有意な間接効果を及ぼした。学年・男女別の検討では共通して,教師の「個人を賞賛する働きかけ」により影響を受ける「被信頼感・受容感」が「メディアによる感動」に有意な間接効果を示していた。
 (1)(2)より,児童の感動経験及び学級適応感には教師の働きかけが重要であり,その働きかけは学級全体にも児童個人に対しても重要であることが示唆された。