日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG15] 児童養護施設児を対象とした個別学習支援プログラム前後における児童の変化

赤澤淳子1, 桂田恵美子2, 谷向みつえ3 (1.福山大学, 2.関西学院大学, 3.関西福祉科学大学)

キーワード:児童養護施設, 個別学習支援プログラム, コンピテンス

問題と目的
 2013年に「子どもの貧困対策法」が成立し,地域の子どもや児童養護施設入所児童を対象として,大学生を導入した学習支援への取組が注目されるようになってきた。大学生による学習支援を導入している施設は全体的にはまだ少ないのが現状であるが,導入している施設においては,特に,児童養護施設では,学力の向上,日常生活の変化,心理的な安定などの効果が報告されている(赤澤・桂田・谷向,2014)。しかし,何らかのアセスメントを使った効果検証にまでは至っていない場合が多い。そこで,本研究では,児童養護施設入所児童(小学生)の学力向上や,学習することの楽しさの向上を目指して,大学生による個別指導支援プログラムを実施し,プログラム前後の児童のコンピテンス,自尊心,学校の楽しさ,および国語と算数の復習テスト結果の変化について検討することとした。
方   法
調査対象者 児童養護施設入所児については,福井と大阪の2施設に入所している小学校3年生から6年生の児童25名を対象とした。
調査内容 ①コンピテンス:桜井(1992)による児童用コンピテンス尺度の「学習コンピテンス」10項目を採用した。②自尊心:Rosenberg(1989)の自尊感情尺度を邦訳した近藤(2013)による10項目を用いた。③学校の楽しさ:桜井・高野(1985)による内発的・外発的動機付け尺度の「楽しさ」5項目採用した。④国語と算数の復習テスト:市販の問題集から児童の1学年下の学年末復習テストを利用した。
手続き 学習支援の始まる前(2014年4月)と終わった(2015年3月)時点で,同じ尺度に回答してもらった。調査は児童の学習支援を担当している大学生が行った。
結   果
 事前・事後で,コンピテンスの合計点が上昇していた児童が6名,変化無しが1名,下降していた児童が12名,欠損が6名であった。コンピテンスの合計点および各項目の平均値について個別学習支援前後で対応のあるt検定を行った結果,有意な差は認められなかった。同様に,自尊心については,上昇していた児童は8名,変化無しが2名,下降していた児童が10名,欠損が5名であった。自尊心においても学習支援前後で有意差はみられなかった。学校の楽しさにおいては,上昇した児童が8名,変化無しが3名,下降した児童が11名,欠損が3名であった。合計点において学習支援前後で傾向差が示され,支援後の方が低い傾向であった。また,「学校は楽しいですか」という項目において有意差が示され,支援後の方が有意に低いという結果が示された。国語のテストでは,上昇した児童が9名,変化無しが3名,低下した児童が8名であった。算数のテストでは,上昇した児童が11名,変化無しが4名,低下していた児童が3名であった。支援前後の変化はみられなかった。
 次に,事後のインタビュー調査において,今回の学習支援を「楽しかった」と回答した児童を1群(14名),「楽しくない」あるいは「無回答」の児童を2群(11名)として,同様に支援前後のコンピテンス,自尊心,学校の楽しさについて対応のあるt検定を行った。その結果,1群(楽しかったと答えた児童)において,コンピテンスに有意差が,学校の楽しさに傾向差が示され,どちらも下降していることが明らかとなった(Table 1)。しかし,国語と算数のテスト結果においては,有意に上昇していた。
考   察
 児童養護施設入所児を対象とした,大学生による個別支援プログラムを実施した結果,支援の時間を楽しいと認識していた児童においては学力の向上がみられた。しかし,その一方で,コンピテンスや学校の楽しさは下降していた。このような結果が示された原因として,児童と大学生との関係の変化により,事後調査においては児童が正直に回答したことが反映した可能性がある。

※本研究は文部科学省科学研究補助金(挑戦的萌芽研究,課題番号25590179)の助成を得た。