[PG16] 児童養護施設児への学習支援を通しての大学生の変化(1)
量的分析
キーワード:学習支援, 援助成果, 責任感
問題と目的
児童養護施設入所児童(小学生)の学力向上や,学習することの楽しさの向上を目指して,大学生を学習支援者として児童養護施設に送り,小学生の宿題や勉強を見てあげるといった家庭教師的学習支援のプロジェクトを立ち上げた。
ボランティア活動がその活動を行った者に対して何らかの肯定的な成果をもたらしていることは多くの研究で明らかにされている(安藤ら,1999;青山ら,2000)ことから,このプロジェクトにおいても,学習支援を受ける児童だけでなく,学習支援を行う大学生の方にも何らかの成長が見られると予測した。
このプロジェクトでは,学習支援を始める前に授業として児童養護施設児について,発達障がいや愛着障がいなどについて講義した。その後,1人の大学生が特定の1人の小学生(3年生以上)を担当するという形で,月2回の割合で学習支援を行った。本研究においては,1年間の取り組みにおける大学生の変化に注目し,どのような側面において変化が見られるか検討した。
方 法
対象者:近畿圏の3大学の学生25名(女性=19名,男性=6名)がボランティアとして学習支援に参加した。大学の内訳はX大学13名,Y大学10名,Z大学2名であった。学年は3年生が20名,4年生が4名,大学院生が1名であり,平均年齢は21.28才(SD=3.18)であった。参加協力してくれた児童養護施設は2ヶ所であった。
指標:以下の4つの尺度を使用した。
① 対人援助職適性検査尺度(WAT;鎌田・宇恵他2003):6因子構造(愛他性,親和性,行動力,向上心,情緒安定,責任感)72項目からなる。各因子のαは.74~.90で高い信頼性を有していた。
② 特性的自己効力感尺度(成田・下仲他,1995):1因子構造で23項目からなる。本研究ではα=.88であった。
③ 対子ども効力感尺度:2因子構造(I:対子ども;II対大人)で13項目からなる。これは我々が独自に作成したもので,子どもに対してどの程度うまく対応できるかを問うものである。α係数は.86と.74で,高い信頼性を有していた。
④ 援助成果尺度(妹尾・高木,2003):3因子構造(I:愛他精神の高揚;II:人間関係の広がり;III:人生への意欲の喚起)で11項目からなる。各因子のαは.77~.86であった。
手続き:学習支援の始まる前(2014年4月)と終わった後(2015年3月)に同じ尺度に回答してもらった。④の援助成果尺度は学習支援中の2014年11月に1度目,2度目は他と同様に学習支援終了後に回答してもらった。
結 果
各尺度における合計点と因子のある尺度では各因子得点を算出し,学習支援の前後で対応のあるt検定を行った。援助成果尺度に関しては11月時点を前として分析した。
対人援助職適性検査尺度(WAT)では,責任感の因子においてのみ有意差が見られた。特性的自己効力感尺度や対子ども効力感尺度では有意差は見られなかった。援助成果尺度においては,合計点と,第I,II因子において有意差が見られた。有意差の見られた尺度の学習支援前後の平均値(SD),t値,pの値をTable 1に示した。なお,WATや援助成果合計点において有意な大学間の差や男女差はなかった。
考 察
本プロジェクトにおいて学習支援者側(大学生)の変化を見るべく,プロジェクトの前後で質問紙調査を実施し,その差の検定を行った。結果は,学習支援後,責任感が強くなり,愛他精神が高まり,人間関係の広がりが増加した。決められた日時に学習支援に赴き,一人の子どもに責任を持って教えるボランティア活動であることを考えると,これらの側面における成長は納得がいく。統計的に有意差が出なかった側面においても,得点の上では全て増加しており,本プロジェクトは大学生の心理的成長に貢献したと言える。
*本研究は文部科学省科学研究補助金(挑戦的萌芽研究,課題番号25590179,代表:赤澤淳子)の助成を得た。
児童養護施設入所児童(小学生)の学力向上や,学習することの楽しさの向上を目指して,大学生を学習支援者として児童養護施設に送り,小学生の宿題や勉強を見てあげるといった家庭教師的学習支援のプロジェクトを立ち上げた。
ボランティア活動がその活動を行った者に対して何らかの肯定的な成果をもたらしていることは多くの研究で明らかにされている(安藤ら,1999;青山ら,2000)ことから,このプロジェクトにおいても,学習支援を受ける児童だけでなく,学習支援を行う大学生の方にも何らかの成長が見られると予測した。
このプロジェクトでは,学習支援を始める前に授業として児童養護施設児について,発達障がいや愛着障がいなどについて講義した。その後,1人の大学生が特定の1人の小学生(3年生以上)を担当するという形で,月2回の割合で学習支援を行った。本研究においては,1年間の取り組みにおける大学生の変化に注目し,どのような側面において変化が見られるか検討した。
方 法
対象者:近畿圏の3大学の学生25名(女性=19名,男性=6名)がボランティアとして学習支援に参加した。大学の内訳はX大学13名,Y大学10名,Z大学2名であった。学年は3年生が20名,4年生が4名,大学院生が1名であり,平均年齢は21.28才(SD=3.18)であった。参加協力してくれた児童養護施設は2ヶ所であった。
指標:以下の4つの尺度を使用した。
① 対人援助職適性検査尺度(WAT;鎌田・宇恵他2003):6因子構造(愛他性,親和性,行動力,向上心,情緒安定,責任感)72項目からなる。各因子のαは.74~.90で高い信頼性を有していた。
② 特性的自己効力感尺度(成田・下仲他,1995):1因子構造で23項目からなる。本研究ではα=.88であった。
③ 対子ども効力感尺度:2因子構造(I:対子ども;II対大人)で13項目からなる。これは我々が独自に作成したもので,子どもに対してどの程度うまく対応できるかを問うものである。α係数は.86と.74で,高い信頼性を有していた。
④ 援助成果尺度(妹尾・高木,2003):3因子構造(I:愛他精神の高揚;II:人間関係の広がり;III:人生への意欲の喚起)で11項目からなる。各因子のαは.77~.86であった。
手続き:学習支援の始まる前(2014年4月)と終わった後(2015年3月)に同じ尺度に回答してもらった。④の援助成果尺度は学習支援中の2014年11月に1度目,2度目は他と同様に学習支援終了後に回答してもらった。
結 果
各尺度における合計点と因子のある尺度では各因子得点を算出し,学習支援の前後で対応のあるt検定を行った。援助成果尺度に関しては11月時点を前として分析した。
対人援助職適性検査尺度(WAT)では,責任感の因子においてのみ有意差が見られた。特性的自己効力感尺度や対子ども効力感尺度では有意差は見られなかった。援助成果尺度においては,合計点と,第I,II因子において有意差が見られた。有意差の見られた尺度の学習支援前後の平均値(SD),t値,pの値をTable 1に示した。なお,WATや援助成果合計点において有意な大学間の差や男女差はなかった。
考 察
本プロジェクトにおいて学習支援者側(大学生)の変化を見るべく,プロジェクトの前後で質問紙調査を実施し,その差の検定を行った。結果は,学習支援後,責任感が強くなり,愛他精神が高まり,人間関係の広がりが増加した。決められた日時に学習支援に赴き,一人の子どもに責任を持って教えるボランティア活動であることを考えると,これらの側面における成長は納得がいく。統計的に有意差が出なかった側面においても,得点の上では全て増加しており,本プロジェクトは大学生の心理的成長に貢献したと言える。
*本研究は文部科学省科学研究補助金(挑戦的萌芽研究,課題番号25590179,代表:赤澤淳子)の助成を得た。