[PG17] 児童養護施設児への学習支援を通しての大学生の変化(2)
質的分析
キーワード:学習支援, 児童養護施設, 大学生
問 題
児童養護施設入所児童の学力の定着や進学率の向上,心理的安定を目的に大学生による学習支援を導入する動きが活発になっている。大学生が学習支援から得られる成果は,これまでの研究報告を概観すると,①子ども理解,②施設の理解,③自己理解,④活動に対する満足,⑤自己有用感,⑥進路への影響,⑦専門性,⑧人間関係の広がりの8項目にまとめられる(赤澤・桂田・谷向,2014; 瀧川,2015)。しかしそれらを実証する研究は見られず,また他のボランティア活動と違い施設入所児への長期的支援は児童の抱える心理的問題がゆえに学生にとっても困難を伴うと推察され,安易に成果が得られるとは考えにくい。
そこで本報告では,量的調査では測れない学生の変化を質的側面から分析し検討することとした。
方 法
1.調査対象 学習支援プロジェクトに1年間参加した3大学の大学生および大学院生,計25名(男性6名,女性19名)。
2.調査内容 報告(1)の質問紙調査の続きに,学習支援プロジェクトへの参加理由,参加経験の意義(メリットとデメリット),実習記録・カンファレンスの意義,入所児童の理解について自由記述で回答を求めた。
3.調査時期 初年度の学習支援終了後の3月。
結 果
各設問に対する自由記述を内容別に分類したカテゴリーを以下に示す(括弧内は実数)。
1.参加理由:「児童養護施設への興味(8)」,「子どもの発達への興味・活動を通した学び(6)」,「学習指導への興味(4)」,「ボランティア経験への志向(4)」,「貴重な経験(4)」,「子どもの力になりたい(2)」に分類された。
2.学習支援経験のポジティブな点:「担当児童との信頼関係の形成(8)」,「子ども対応への理解(8)」,「教え方の上達(7)」,「児童養護施設への理解(4)」,「達成感(3)」,「自己理解・価値観の広がり(5)」に分類された。
3.学習支援経験のネガティブな点:「学習指導の難しさ(8)」,「子どもとの関わりの難しさ(4)」,「子どもの言動による傷つき(4)」,「施設との連携の難しさ(5)」,「特になし(4)」に分類された。
4.入所児童に対する理解:「関係性・対人距離・社会性(8)」,「愛着・気分・攻撃性など情緒面(8)」,「子どもの特性に応じた関わり(6)」,「学習上の問題(2)」に分類された。
5.児童の変化:「心を開き話すようになった(13)」,「関係が近くなった(10)」,「感情を表すようになった(4)」,「学習態度の向上(10)」に分類された。
6.児童が一番楽しんだこと:「クイズ教材(漢字・計算などのパズル等)」(14),「勉強の進め方(一緒に考える・競争等)(3)」,「達成感(4)」。
7.実習記録・カンファレンスの意義:毎回の実習記録,定期的なカンファレンスは役立つと24名(96%)が答えた。
考 察
学習支援経験のポジティブな点は,担当児童との信頼関係の形成,子ども対応や施設への理解の深まり,教え方の上達,達成感,自己理解・価値観の広がりといった学生自身の成長に関わるものであった。一方,ネガティブな点は,学習指導の難しさや子どもとの関わり,加えて子どもの言動による傷つきに集約され,支援のプロセスがかなりの困難を伴うものあったことが示唆された。
子ども対応の難しさは,多くの学生が担当児童の変化を“心を開いて話し感情を表すなど関係が近づき,学習態度が向上した”と捉え,“関係性や愛着,気分,攻撃性などの情緒,学習上の問題,特性に応じた関わり”に関して学生自身の児童理解が深まったと答えたことからも窺える。これらは学生にとって過重な課題であったが,多くの学生が児童との関係性の好転を自覚し,工夫を凝らした学習教材や達成感を児童が楽しんでいたと認識したことから,児童と信頼関係を築くプロセスに悩み試行錯誤しながらも,学生は手応えを感じていたことが推察できた。記録の添削やカンファレンスが一助になったことは言うまでもない。
施設での学習支援は,学習という課題設定の下,長期に継続するものである。学習支援経験から学生が得たものは困難を伴うが故に試行錯誤や内省を繰返し自己の成長へと蓄積されると考えられた。報告(1)に示した通り,終了直後は自己効力感や援助適性の向上は認められなかったが,支援は確実に学生に変化をもたらしたと考えられる。
※本研究は文部科学省科学研究補助金(挑戦的萌芽研究,課題番号25590179,代表:赤澤淳子)の助成を得た。
児童養護施設入所児童の学力の定着や進学率の向上,心理的安定を目的に大学生による学習支援を導入する動きが活発になっている。大学生が学習支援から得られる成果は,これまでの研究報告を概観すると,①子ども理解,②施設の理解,③自己理解,④活動に対する満足,⑤自己有用感,⑥進路への影響,⑦専門性,⑧人間関係の広がりの8項目にまとめられる(赤澤・桂田・谷向,2014; 瀧川,2015)。しかしそれらを実証する研究は見られず,また他のボランティア活動と違い施設入所児への長期的支援は児童の抱える心理的問題がゆえに学生にとっても困難を伴うと推察され,安易に成果が得られるとは考えにくい。
そこで本報告では,量的調査では測れない学生の変化を質的側面から分析し検討することとした。
方 法
1.調査対象 学習支援プロジェクトに1年間参加した3大学の大学生および大学院生,計25名(男性6名,女性19名)。
2.調査内容 報告(1)の質問紙調査の続きに,学習支援プロジェクトへの参加理由,参加経験の意義(メリットとデメリット),実習記録・カンファレンスの意義,入所児童の理解について自由記述で回答を求めた。
3.調査時期 初年度の学習支援終了後の3月。
結 果
各設問に対する自由記述を内容別に分類したカテゴリーを以下に示す(括弧内は実数)。
1.参加理由:「児童養護施設への興味(8)」,「子どもの発達への興味・活動を通した学び(6)」,「学習指導への興味(4)」,「ボランティア経験への志向(4)」,「貴重な経験(4)」,「子どもの力になりたい(2)」に分類された。
2.学習支援経験のポジティブな点:「担当児童との信頼関係の形成(8)」,「子ども対応への理解(8)」,「教え方の上達(7)」,「児童養護施設への理解(4)」,「達成感(3)」,「自己理解・価値観の広がり(5)」に分類された。
3.学習支援経験のネガティブな点:「学習指導の難しさ(8)」,「子どもとの関わりの難しさ(4)」,「子どもの言動による傷つき(4)」,「施設との連携の難しさ(5)」,「特になし(4)」に分類された。
4.入所児童に対する理解:「関係性・対人距離・社会性(8)」,「愛着・気分・攻撃性など情緒面(8)」,「子どもの特性に応じた関わり(6)」,「学習上の問題(2)」に分類された。
5.児童の変化:「心を開き話すようになった(13)」,「関係が近くなった(10)」,「感情を表すようになった(4)」,「学習態度の向上(10)」に分類された。
6.児童が一番楽しんだこと:「クイズ教材(漢字・計算などのパズル等)」(14),「勉強の進め方(一緒に考える・競争等)(3)」,「達成感(4)」。
7.実習記録・カンファレンスの意義:毎回の実習記録,定期的なカンファレンスは役立つと24名(96%)が答えた。
考 察
学習支援経験のポジティブな点は,担当児童との信頼関係の形成,子ども対応や施設への理解の深まり,教え方の上達,達成感,自己理解・価値観の広がりといった学生自身の成長に関わるものであった。一方,ネガティブな点は,学習指導の難しさや子どもとの関わり,加えて子どもの言動による傷つきに集約され,支援のプロセスがかなりの困難を伴うものあったことが示唆された。
子ども対応の難しさは,多くの学生が担当児童の変化を“心を開いて話し感情を表すなど関係が近づき,学習態度が向上した”と捉え,“関係性や愛着,気分,攻撃性などの情緒,学習上の問題,特性に応じた関わり”に関して学生自身の児童理解が深まったと答えたことからも窺える。これらは学生にとって過重な課題であったが,多くの学生が児童との関係性の好転を自覚し,工夫を凝らした学習教材や達成感を児童が楽しんでいたと認識したことから,児童と信頼関係を築くプロセスに悩み試行錯誤しながらも,学生は手応えを感じていたことが推察できた。記録の添削やカンファレンスが一助になったことは言うまでもない。
施設での学習支援は,学習という課題設定の下,長期に継続するものである。学習支援経験から学生が得たものは困難を伴うが故に試行錯誤や内省を繰返し自己の成長へと蓄積されると考えられた。報告(1)に示した通り,終了直後は自己効力感や援助適性の向上は認められなかったが,支援は確実に学生に変化をもたらしたと考えられる。
※本研究は文部科学省科学研究補助金(挑戦的萌芽研究,課題番号25590179,代表:赤澤淳子)の助成を得た。