日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG27] 例生成の効果の検討

概念名と定義の連合に与える影響

押尾恵吾 (法政大学大学院)

キーワード:生成学習, 具体例, マッチングテスト

 専門用語などの概念名に加えて,概念の具体例を呈示することで概念自体の記憶成績が良くなるといった研究は多くみられる(e.g, Carnine, 1980; Tennyson & Park, 1980)。一方,呈示された概念に対し,学習者みずから具体例を生成することの効果を検討した研究は少ない。Hamilton(1989),Gorrell,Toricou,& Downing (1991), Hannon (2010) による検討では,一貫した結果が得られておらず,また他学習や他人の補助といった交絡要因が多く,例生成活動に効果があるのか再検討の余地が残る。
 そこで,本研究では,定義とは無関連な有意味語(e.g., 非常口,タバスコ)からなる架空の心理学用語について,上記の交絡要因が入らない状況下で,学習者に具体例の生成を行わせた場合に,具体例を呈示した場合よりも概念名と定義文の連合が強まるかを検討する。
方   法
 実験参加者 都内の大学に通う学部生36人。
 実験計画 参加者内計画:例の処理様式2(呈示/生成)× 参加者間計画:順序2(呈示→生成/生成→呈示)の2要因混合計画。
 材料とテスト “心の理論”や“バーナム効果”といった心理学用語40語および予備調査で得られた具体例を使用した。また,すべての用語に対し,“ロープウェイ思考”や“設備効果”といった無関連な有意味語からなる新奇の名を付した。テストは,学習試行で使用した概念名10語と,定義文20個からなるマッチングテストを使用した。
 手続き 全参加者を“例生成-例呈示群”,“例呈示-例生成群”に群分けした。例生成条件においては,用語名,定義を読み上げた後,定義文に合うような具体例を発話させた。発話後は,画面が切り替わるまで,用語名と定義を覚えさせた。一方,
例呈示条件においては,用語名,定義文,模範例の3つを読み上げた後,残り時間で用語名と定義文を覚えさせた。いずれの条件においても,1用語あたりの提示時間は1分であった。また,意図学習であった。各条件ごとに,学習終了直後に5分間でマッチングテストを実施した。
結   果
 分散分析の結果,架空用語名と定義のマッチングテストにおいて,生成条件の得点が呈示条件よりも有意に高かった。詳細については,Table 1を参照されたい。また,各条件における正解率は,呈示条件項目が54.7%,生成条件(誤事例生成)が66.1%,生成条件(正事例生成)が65.2%であった。
考   察
 本研究から,用語名と定義のマッチングテストにおいては,例呈示よりも例生成のほうが効果的であることが明らかになった。単に呈示された例を読み上げるよりも,例を自己生成するという精緻化を行ったことで,より深い認知処理が可能になったと考えられる(Slamecka & Graf,1978)。
 また,マッチングテストというテスト形式においては,たとえ誤った例であっても自己生成すると,単に例を呈示された場合よりも,用語名と定義の連合が強まることが明らかになった。
今後の課題と展望 本研究においては,妨害課題を使用していなかったため,妨害課題を含めても同様の結果が得られるかを確認する必要がある。また,マッチングテストとは異なる形式のテストでも同様に例生成の効果が見られるか検討を行う必要がある。