[PG28] ニューメラシーがリスクに関する意思決定バイアスに及ぼす影響
キーワード:ニューメラシー, リスク認知, 意思決定バイアス
問題と目的
現代に生きる市民は,災害や疾病など様々なリスクに直面している。リスクに関する意思決定は,直観的処理と分析的処理の二過程からなる(Slovic et al., 2004)。直観的処理は感情によって特徴づけられ,時に意思決定バイアスを生む可能性がある。そこでリスクに関して正確な意思決定を行うために,分析的処理が必要である。
ニューメラシーとは,数的思考能力を意味する概念であり(広田,2015),リスクに関わる分析的思考である。先行研究では,ニューメラシーの低い人ほど数値以外の情報(例:感情)からの影響を受け,意思決定バイアスに陥ると言われている(Peters et al., 2006)。
しかし,ニューメラシーが意思決定に及ぼす影響は,先行研究の間で一貫している訳ではない。この点について広田(2015)は,ニューメラシーを測定する尺度が比較的簡単なため,高群と低群を十分に弁別できなかった可能性を指摘している。
本研究の目的は,ニューメラシーや感情がリスクに関する意思決定に及ぼす影響について検討することである。ニューメラシー尺度は,高群・低群の弁別力が高いとされる,The Berlin Numeracy Test(Cokely et al., 2012)の日本語版を使用する。
方 法
参加者 インターネット調査会社の登録モニター912人(24-62歳,男493人,女419人)。短大卒以上の学歴。
手続き (1)感情体験の想起 過去の幸せな出来事(ポジティブ群),悲しい出来事(ネガティブ群),普段の出来事(統制群)を想起する3群を設けた。参加者は各出来事について記入し,マニピュレーションチェック4項目に回答した(例:その経験は私を幸せな気持ちにする)。(2)意思決定バイアス課題(a)分母無視1問,(b)共変関係の誤認2問,(c)枠組み効果1問(利得または損失条件にランダマイズ),(d)連言錯誤1問を出題した。
(3)ニューメラシー尺度(α= .41)計算能力を測定する4問を出題した(例:1,2,3,4,5の数字のどれかが出る5面体のサイコロを50回投げると,平均して奇数は何回出るでしょうか?;Cokely et al., 2012)。
結果と考察
意思決定課題4問それぞれの得点を算出し(正答1点,誤答0点;共変関係の誤認は0〜2点),ニューメラシー(合計点)と感情(ポジティブ・ネガティブ・統制;ダミー変数)を独立変数とするロジスティック回帰分析(共変関係の誤認は重回帰分析)を行った。
その結果,(a)分母無視は,ニューメラシーの高い人ほど正答率が高く(p < .01),ポジティブ群は統制群よりも高く正解した(p < .05)。(b)共変関係の誤認では,ニューメラシーが共変関係の理解を有意に予測した(p < .001)。(c)枠組み効果は,利得または損失条件からの影響を受け(p < .001),ニューメラシーの高い人は期待値の高い選択肢を選好した(p < .01)。(d)連言錯誤では,ニューメラシーが正答率を有意に予測した(p < .01)。
また,意思決定課題それぞれの得点の群間差を調べるため,ニューメラシー2(高・低)×感情3(ポジティブ・ネガティブ・統制)の二要因分散分析を行った。カテゴリ変数は逆正弦変換法を用いて変換し,ニューメラシーは中央値(Me = 2.00)を境に高群と低群に分けた。
分析の結果,(a)分母無視ではニューメラシーの主効果があり(p < .05,Figure 1),(b)共変関係の誤認でもニューメラシーの主効果が見られた(p < .001,Figure 2)。(c)枠組み効果は利得条件のとき確実な選択肢が選ばれたが(p < .001),条件を統制してもニューメラシーの主効果に有意傾向が見られた(p <.10,Figure 3)。(d)連言錯誤は,ニューメラシーの主効果が有意傾向であった(p < .10,Figure 4)。
以上より,ニューメラシーが感情価に拘らず,リスクの正確な意思決定を導く可能性が示唆された。
現代に生きる市民は,災害や疾病など様々なリスクに直面している。リスクに関する意思決定は,直観的処理と分析的処理の二過程からなる(Slovic et al., 2004)。直観的処理は感情によって特徴づけられ,時に意思決定バイアスを生む可能性がある。そこでリスクに関して正確な意思決定を行うために,分析的処理が必要である。
ニューメラシーとは,数的思考能力を意味する概念であり(広田,2015),リスクに関わる分析的思考である。先行研究では,ニューメラシーの低い人ほど数値以外の情報(例:感情)からの影響を受け,意思決定バイアスに陥ると言われている(Peters et al., 2006)。
しかし,ニューメラシーが意思決定に及ぼす影響は,先行研究の間で一貫している訳ではない。この点について広田(2015)は,ニューメラシーを測定する尺度が比較的簡単なため,高群と低群を十分に弁別できなかった可能性を指摘している。
本研究の目的は,ニューメラシーや感情がリスクに関する意思決定に及ぼす影響について検討することである。ニューメラシー尺度は,高群・低群の弁別力が高いとされる,The Berlin Numeracy Test(Cokely et al., 2012)の日本語版を使用する。
方 法
参加者 インターネット調査会社の登録モニター912人(24-62歳,男493人,女419人)。短大卒以上の学歴。
手続き (1)感情体験の想起 過去の幸せな出来事(ポジティブ群),悲しい出来事(ネガティブ群),普段の出来事(統制群)を想起する3群を設けた。参加者は各出来事について記入し,マニピュレーションチェック4項目に回答した(例:その経験は私を幸せな気持ちにする)。(2)意思決定バイアス課題(a)分母無視1問,(b)共変関係の誤認2問,(c)枠組み効果1問(利得または損失条件にランダマイズ),(d)連言錯誤1問を出題した。
(3)ニューメラシー尺度(α= .41)計算能力を測定する4問を出題した(例:1,2,3,4,5の数字のどれかが出る5面体のサイコロを50回投げると,平均して奇数は何回出るでしょうか?;Cokely et al., 2012)。
結果と考察
意思決定課題4問それぞれの得点を算出し(正答1点,誤答0点;共変関係の誤認は0〜2点),ニューメラシー(合計点)と感情(ポジティブ・ネガティブ・統制;ダミー変数)を独立変数とするロジスティック回帰分析(共変関係の誤認は重回帰分析)を行った。
その結果,(a)分母無視は,ニューメラシーの高い人ほど正答率が高く(p < .01),ポジティブ群は統制群よりも高く正解した(p < .05)。(b)共変関係の誤認では,ニューメラシーが共変関係の理解を有意に予測した(p < .001)。(c)枠組み効果は,利得または損失条件からの影響を受け(p < .001),ニューメラシーの高い人は期待値の高い選択肢を選好した(p < .01)。(d)連言錯誤では,ニューメラシーが正答率を有意に予測した(p < .01)。
また,意思決定課題それぞれの得点の群間差を調べるため,ニューメラシー2(高・低)×感情3(ポジティブ・ネガティブ・統制)の二要因分散分析を行った。カテゴリ変数は逆正弦変換法を用いて変換し,ニューメラシーは中央値(Me = 2.00)を境に高群と低群に分けた。
分析の結果,(a)分母無視ではニューメラシーの主効果があり(p < .05,Figure 1),(b)共変関係の誤認でもニューメラシーの主効果が見られた(p < .001,Figure 2)。(c)枠組み効果は利得条件のとき確実な選択肢が選ばれたが(p < .001),条件を統制してもニューメラシーの主効果に有意傾向が見られた(p <.10,Figure 3)。(d)連言錯誤は,ニューメラシーの主効果が有意傾向であった(p < .10,Figure 4)。
以上より,ニューメラシーが感情価に拘らず,リスクの正確な意思決定を導く可能性が示唆された。