The 58th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

Mon. Oct 10, 2016 10:00 AM - 12:00 PM 展示場 (1階展示場)

[PG31] ジャズの即興演奏の教授学習場面における演奏者の音の探索過程

蓮見絵里 (立教大学)

Keywords:即興演奏, 教授学習, 状況的行為

問題と目的
 ジャズの即興演奏では,「適度な快適さ」を持ちつつ,オリジナルの曲に対する崩しを行うことが必要である。このような「よい音の探索」はどのように可能になるのだろうか。本研究では,ジャズの即興演奏の教授学習過程を分析し,音の探索過程を検討する。
 ジャズの即興演奏は,先行する音や演奏する場所の雰囲気などの資源を参照する (Sawyer,1992; Sawyer,1995; Sudnow,1978)。したがって,即興演奏は状況的行為 (Suchman,1987) である。
 本研究では音の探索過程における先行する音の利用過程に焦点を当てる。即興演奏の集団のパフォーマンスでは,演奏者は,先行する演奏の旋律・リズム・和音・音の高低・音の大きさ・音の色あい・輪郭などの影響を受け,類似の演奏や対照的な演奏を行う (Berliner,1994)。また,共演者のフレーズを反復する,シンクロする,補完する,あるいはフレーズの隙間を埋める (Graiter,2008)。学習場面においても,演奏者は先行する音の影響を受けながら,そして曲全体の再構造化を繰り返し,「適度な快適さ」を学習していくと考えられる。
方   法
 ジャズピアノの個別指導をビデオカメラで撮影した。学習者は月2回,各1時間程のレッスンを受けていた。電子ピアノが2台設置され,二人が同時に演奏できる。曲《But not for me》を使用した4回分のレッスンから,指導者と学習者による音の探索が,より明確な形で頻繁におこなわれる事例を検討するため,「フレーズの探索学習エピソード」を抜粋した。抜粋の基準は,(1) 指導者が学習者の直前に演奏したフレーズを評価後,該当箇所を演奏する。(2) 該当箇所が同じであっても,指導者の演奏の模倣等,課題の移行が見られたらエピソードの終了とする。(3) 学習者の該当箇所の演奏に指導者が明確に評価を示した場合,エピソードに含める。
 旋律はピアノの比較的高い音域,つまり鍵盤の右側で右手を用いて演奏されたため,「フレーズ」を「右手を使用して,単音で2音以上の音を並べたもの」とした。抽出された8つの「フレーズの探索学習エピソード」のうちエピソード3の詳細な分析を行った。
結果と考察
 エピソード3は,11のフレーズが見られたことから,出現順にPlay01~Play11とした。Play01,10は学習者,それ以外は指導者がフレーズを演奏した。また,直前・直後の発話から,Play03,05は学習者の演奏の模倣,Play09は例示と位置づけられた。
 先行するフレーズの利用のされ方を,①音高 (pitch) のまとまり②リズム③隣り合う音の音高の開きの程度④隣り合う音の音高の高低関係の観点から検討し,以下の3つの特徴が見られた。
 一つ目に,フレーズの冒頭・途中にある音高(pitch)のまとまりを利用した。Play01,06の1~2音目が一致し,Play01とPlay07の1音目が一致したことから,フレーズの冒頭を利用したといえる。また,Play01の5~8音目をPlay05の4~7音目で利用し,Play05の4~6音目をPlay07の6~9音目で利用したことから,フレーズの途中の音高のまとまりを利用したといえる。
 二つ目に,隣り合う音の音高の開きの程度,音高の高低関係を利用した。Play01,07~09の1~4音目とPlay06の1~3音目では,隣り合う音は,短3度~完全4度離れている。つまり,隣り合う音は,鍵盤の3~5つ隣離れた関係にある。また,いずれも隣り合う音の先行する音よりも後の音のほうが,音高が高くなっていた。
 三つ目に学習者のフレーズを指導者が利用した。隣り合う音の音高の開きの程度,音高の高低関係の利用が,Play01,06~09で見られるが,使用された音高は完全には一致しないことから,指導者が学習者のフレーズを利用しつつ変更したといえる。
 以上の特徴から,即興演奏の教授学習において先行する音の影響を受けて音が探索されたといえる。そして,指導者は音の探索を経て,フレーズの例示を行った。先行するフレーズの部分的利用や,音高のまとまり・隣り合う音の音高の開きの程度・音高の高低関係といった,複数の観点からの利用が見られた。つまり,この探索過程では,すでにある環境の一部を利用する,あるいは環境を複数の観点から抽象することが見られた。
 指導者は,例示に至る探索過程で学習者のフレーズの一部を利用したり,複数の観点から抽象した。このことは,学習者が,学習者のフレーズから快適な音に至るまでにどのような探索をするのか知る機会となっていた。