[PG34] 深い学習を促す宿題に対する教師の認識
中高数学教師に対するインタビューの結果から
Keywords:宿題, 深い学習, インタビュー
問題と目的
教育心理学では,知識を機械的に丸暗記するような浅い学習ではなく,知識同士の関連づけや意味理解を伴った深い学習を促すことの重要性が指摘されてきた(e.g., 西林, 1994)。授業外の文脈でも学習者が自立的に深い学習を行えるようにするには,学校の授業だけでなく家庭学習指導も通して有効な学習スキルを身につけさせていく必要があるだろう(篠ヶ谷, 2012)。特にここでは,授業と家庭学習を繋ぐ指導ツールとして最もよく使われていると考えられる宿題に着目したい。
教師が出す課題の形式によって,学習者の学習スキルが影響を受けることが知られている(e.g., 村山, 2003)。宿題についても,教師がドリル練習を目的とした宿題を出しているほど学習者の学業成績を低く予測する(Trautwein et al., 2009)ことや,ドリル的な宿題が丸暗記や単純反復といった浅い学習を促してしまう(Ota, 2016a)といった知見が得られている。これに対しOta(2016b)は,知識の意味理解に焦点化した宿題課題を開発し,その効果を実証的に明らかにしている。
しかし,いくら有効な課題が提案されたとしても,実際に教育現場で指導している教師らがその有効性を認識しない限り,実践への応用は難しい。一方,教師が宿題課題に対してどのような認識を有しているかについて検討した研究は見当たらない。そこで本研究では,Ota(2016b)で検証された「意味理解焦点型宿題」に対して,現職の教員らがどのような認識を示すかについて探索的に検討する。具体的には,①そもそも普段教師らは宿題を出すときに深い学習を促すことを意識しているか,②意味理解に焦点化した宿題を出すことについて教師らはどう思うか,という二点について明らかにすることを目的とする。
方 法
対象 全国の中学・高校における数学教諭11名(男性9名,女性2名; 教員歴 平均11.7年)
手続き 1人あたり30分程度の半構造化面接を実施した。面接の内容はICレコーダーで記録し,後ほど筆者が書き起こした上で分析を行った。
質問項目 以下の流れで質問を行った。
①普段宿題ではどのような課題を出しているか
②「意味理解焦点型宿題」(図1)を見て,実践したい(すべき)と思うか
③「意味理解焦点型宿題」を出す場合に生じ得る問題点は何だと思うか
結 果
深い学習に対する重要性の認識 教師らは,丸暗記ではなく意味理解を伴った深い学習を促すことの重要性については頻繁に言及していた(e.g., 「暗記って忘れるから,公式をどうやって作ったかっていう部分に戻れば自分で考えることができるよ,なんていう指導はしています」)。しかしそのほとんどが授業または定期テストにおける実践であり,「それを家庭学習でもう一回振り返らせるっていうのは新しい」という意見も見られた。
意味理解焦点型宿題に対する認識 筆者が図1で示したような課題に対しては好意的な意見が多かったものの,「能力が足りていない子にとっては反復練習の方が効果が出やすいのでは」「最近の子は説明が苦手」というように,特に低位の学習者にとって困難度が高いという認識が挙げられた。また一部の教師からは,「授業では意味の説明でいっぱいいっぱいなので,宿題ではとにかく演習をしてきてほしい」というように,授業と宿題の役割を分けて考える意見も挙げられた。なお,困難が生じた場合の指導上の工夫について尋ねると,「放課後に補習を行う」「課題を穴埋め式にして負担を下げる」という意見が見られた。
考 察
以上の結果から,教師らは深い学習を促すことの重要性について認識している一方,宿題でそれを促すことについては困難を感じていることが示唆された。しかし,教師によるサポートつきの自己説明活動はむしろ低位の学習者にとって有効であるという知見もあり(Fuchs et al., 2016),普段の授業との連動のさせ方も含めてより詳細な検討が必要である。
教育心理学では,知識を機械的に丸暗記するような浅い学習ではなく,知識同士の関連づけや意味理解を伴った深い学習を促すことの重要性が指摘されてきた(e.g., 西林, 1994)。授業外の文脈でも学習者が自立的に深い学習を行えるようにするには,学校の授業だけでなく家庭学習指導も通して有効な学習スキルを身につけさせていく必要があるだろう(篠ヶ谷, 2012)。特にここでは,授業と家庭学習を繋ぐ指導ツールとして最もよく使われていると考えられる宿題に着目したい。
教師が出す課題の形式によって,学習者の学習スキルが影響を受けることが知られている(e.g., 村山, 2003)。宿題についても,教師がドリル練習を目的とした宿題を出しているほど学習者の学業成績を低く予測する(Trautwein et al., 2009)ことや,ドリル的な宿題が丸暗記や単純反復といった浅い学習を促してしまう(Ota, 2016a)といった知見が得られている。これに対しOta(2016b)は,知識の意味理解に焦点化した宿題課題を開発し,その効果を実証的に明らかにしている。
しかし,いくら有効な課題が提案されたとしても,実際に教育現場で指導している教師らがその有効性を認識しない限り,実践への応用は難しい。一方,教師が宿題課題に対してどのような認識を有しているかについて検討した研究は見当たらない。そこで本研究では,Ota(2016b)で検証された「意味理解焦点型宿題」に対して,現職の教員らがどのような認識を示すかについて探索的に検討する。具体的には,①そもそも普段教師らは宿題を出すときに深い学習を促すことを意識しているか,②意味理解に焦点化した宿題を出すことについて教師らはどう思うか,という二点について明らかにすることを目的とする。
方 法
対象 全国の中学・高校における数学教諭11名(男性9名,女性2名; 教員歴 平均11.7年)
手続き 1人あたり30分程度の半構造化面接を実施した。面接の内容はICレコーダーで記録し,後ほど筆者が書き起こした上で分析を行った。
質問項目 以下の流れで質問を行った。
①普段宿題ではどのような課題を出しているか
②「意味理解焦点型宿題」(図1)を見て,実践したい(すべき)と思うか
③「意味理解焦点型宿題」を出す場合に生じ得る問題点は何だと思うか
結 果
深い学習に対する重要性の認識 教師らは,丸暗記ではなく意味理解を伴った深い学習を促すことの重要性については頻繁に言及していた(e.g., 「暗記って忘れるから,公式をどうやって作ったかっていう部分に戻れば自分で考えることができるよ,なんていう指導はしています」)。しかしそのほとんどが授業または定期テストにおける実践であり,「それを家庭学習でもう一回振り返らせるっていうのは新しい」という意見も見られた。
意味理解焦点型宿題に対する認識 筆者が図1で示したような課題に対しては好意的な意見が多かったものの,「能力が足りていない子にとっては反復練習の方が効果が出やすいのでは」「最近の子は説明が苦手」というように,特に低位の学習者にとって困難度が高いという認識が挙げられた。また一部の教師からは,「授業では意味の説明でいっぱいいっぱいなので,宿題ではとにかく演習をしてきてほしい」というように,授業と宿題の役割を分けて考える意見も挙げられた。なお,困難が生じた場合の指導上の工夫について尋ねると,「放課後に補習を行う」「課題を穴埋め式にして負担を下げる」という意見が見られた。
考 察
以上の結果から,教師らは深い学習を促すことの重要性について認識している一方,宿題でそれを促すことについては困難を感じていることが示唆された。しかし,教師によるサポートつきの自己説明活動はむしろ低位の学習者にとって有効であるという知見もあり(Fuchs et al., 2016),普段の授業との連動のさせ方も含めてより詳細な検討が必要である。