日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG36] 気づきへの検討過程における共感性の変化について

江田哲也 (国際医療福祉大学)

キーワード:気づき, 共感性, 危険性

問題と目的
 危険性の認知能力の向上を考えた場合に,「気づき」が重要であると考えた。例えば,患者さんの僅かな変化を捉えることで,危険な兆候を見逃さないことができると考えられる。「気づき」は理性及び感性から生じると言われることから,感性の影響について検討することは重要である。そこで,相手の気持ちを察知する能力として「共感性」を考えた。「共感性」とは他者の体験に対する反応を感情面で表したものである。「気づき」と「共感性」の間に関係性を持つのであれば,危険予知及びリスク感性などの教育にとって評価指標となると考えた。そこで,「気づき」を訓練する手法のために,危険への気づきに着目した。そこで,危険予知のトレーニング法であるKYT法を参考にした。複数の画像における危険箇所を認識させる過程を通して,画像内の人物及び視環境空間から受ける印象を考えることで「共感性」の変化を調べることにした。「共感性」に関する質問については既存の共感性尺度を利用し,因子別に変化があるのか調べることにした。
方   法
 危険に気づくことを通して「共感性」の変化を検討するために,KYT法で用いる模擬画像を4枚用いることにした。被験者は画像に対してどの部分に危険があるのか,その程度を10段階で記録した。指摘した危険箇所については,内容をまとめて再度被験者に提示し,内容の確認をさせた。このことにより,自身の危険への気づきについて考えることができる。「共感性」に関する調査は4回行った。調査について,検討前と2枚目の評価後,4枚目の評価後,さらに参加した被験者同士でグループとなり危険性について話し合ったあとに行われた。
 「共感性」の変化を調べる尺度として,登張が既存の共感性尺度を基に作成した28項目からなる青年期用の多次元的共感性尺度を用いた。評価は5段階とした。5段階の表現は,「よくあてはまる」,「あてはまる」,「どちらともいえない」,「あてはまらない」,「まったくあてはまらない」とした。被験者数は40名(平均年齢20歳)であり,女性が33名,男性が7名である。
結果と考察
 「共感性」の調査結果を基に因子分析を行った。スクリープロットを行った結果として4因子が妥当となった。これは既往研究と似た傾向を示した。ただし,1項目だけ別の下位尺度に振り分けられた。しかし,因子負荷量がどの下位尺度においても0.3以下を示していたため,従来の下位尺度の条件で扱うことにした。4因子を仮定して主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。各質問に対して5段階評価で行い,「よくあてはまる」を5点,「あてはまる」を4点,「どちらともいえない」を3点,「あてはまらない」を2点,「まったくあてはまらない」を1点とした。この尺度は「共感的関心」,「個人的苦痛」,「気持ちの想像」,「ファンタジー」として,4つの下位尺度から構成される。4回の調査を通して,「共感的関心」について平均値は1回目で平均値が4.09となり,4回目で3.98となった。「個人的苦痛」について平均値は,1回目で2.77となり,4回目で3.06となった。「気持ちの想像」について平均値は,1回目で3.58となり,4回目で3.95となった。「ファンタジー」について平均値は,1回目で3.71となり,4回目で3.75となった。このことから,「共感的関心」及び「ファンタジー」において1回目と4回目の差は0.1程度であり,違いは見られなかった。「個人的苦痛」及び「気持ちの想像」において,他の2因子に比べてその差が大きいことが示された。そこで,各因子に対して分散分析を行った。その結果,「気持ちの想像」において,0.5%水準で有意が認められた(F(3,161)=2.69,p < 0.05)。さらに,多重比較を行い,1回目と4回目の間で有意な差が認められた。
 このことから,危険を予知するトレーニングで用いられる画像を使用して,学生に危険に気づくことに対して意識させることで,4回の「気づき」に関する訓練を行うなかで,「気持ちの想像」に関して変化を認められた。これは,画像内の人物の気持ち及びその時点での状況の想像力の向上が見られたと考えられる。
謝   辞
 本研究は,独立行政法人日学術振興会平成26年度科学研究費助成事業 (若手(B)26730145) の助成を受けて実施した成果の一部である。